Gallery of the Week-Nov.05●

(2005/11/25)



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祖父江慎+cozfish展
ギンザ・グラフィック・ギャラリー 銀座

型にはまらない、クリエーティブで自由な発想に基づき、本というメディアのあり方自体をかえるブックデザインで知られる、cozfish主宰・祖父江慎氏の作品展。マンガをはじめとし、小説、写真集、絵本と、あらゆるジャンルの書籍に渡るその作品群を、これまた彼のデザインスタイルのような、ユニークな手法で展示する。
日本のマンガが、コマ割から自由になるコトにより、内面描写という独自の世界を拓いたことは、よく知られている。そうして生まれた日本のマンガだからこそ、過去の常識となっている「表現の壁」を破るコトには、親和性が高い。だからこそ、通常の装丁から自由になるコトで、本文以上のメッセージを能弁に語らせる祖父江氏が、積極的にマンガを手がけ、そこでユニークな作品を創造しているのは納得性が高い。
活版の世界なら、ディジタルのテキストデータがもともと持っている情報とさして変わらない。いや、フリーソフトのエディターでも、もうちょっと気の利いた、写植の版下程度の「デザイン」はできてしまう。そういう時代だからこそ、「本をデザイン」するといえるためには、元のテキストだけでは、とうてい伝えられない「情報」を伝達できなくてはいけない。
まさに、こういう時代だからこそ、本でなくては伝えられないモノがあるし、それが本に求められるものとなる。文章を書く立場からすれば、これほどのアイディアとメッセージを文字列の先に込められるのであれば、そこまで含めた「創作」をしたくなる。もともと、「文章を書いて終わり」ではなく、行の切れ方や行送りのキレイさにも物凄く気を使って書く方なので(その点、受け手の環境で見え方の変わる、こういうHTMLの文章はつまらない)、とてもその可能性が気になった。



11/3w
ベトナム近代絵画展
東京ステーションギャラリー 丸の内

昨今の経済の発展により、ベトナムもかなり身近になり、いろいろな政治・経済・社会といった分野では、いろいろな情報が日夜伝えられるようになったが、文化という面では、まだまだ交流が深いとはいえない。そんな、ベトナムの美術にスポットを当てた、異色の企画展である。フランス占領下のベトナムで、はじめて美術学校が作られたのが1925年。これを持って、ベトナム近代美術の嚆矢としてから80年間の流れを、代表的な作品により振り返る。
ぼく自身、ベトナムの美術界のことは何も知らない。解説を読むと、蒔絵の表現力を絵画並みに高めたような、「漆絵」という独自のジャンルがあり、出展作品の4割を占めているという。なるほど会場には、漆絵の作品から漂ってくる独自の香りが漂い、エキゾチックなムードである。
この80年間に、ベトナムの社会も、幾多の荒波を乗り越えてきただけに、ここに集められた絵も、そのテーマやタッチは多種多様である。その中には、テクニック的には同時代や過去のいろいろな影響をうけているモノもある。とはいうものの、人間や景色を淡々と見つめる独特のトーンは、変わらず共通している。このあたりが、数々の困難をはね返して、自分達の世界を守ってきた「しなやかな強靭さ」と相通じるのだろう。
しかし、伝統的な東アジア美術の影響が強く見られる「絹絵」と呼ばれるジャンルでは、サインや落款が漢字で書かれているのを発見する。こっちからすると、「なるほど」と納得性が高いのだが、ベトナムでは日常的に漢字を廃止してしまっただけに、実はけっこう不思議かも。昔を題材にした絵の中に描かれた漢字も、ちゃんと書けているものと、全然字になっていないもの両方あったりするし。



11/2w
タイムトンネルシリーズVol.21 五十嵐威暢展「平面と立体の世界」
ガーディアン・ガーデン クリエイションギャラリーG8 銀座

デザイン界のビッグネームを取り上げ、ガーディアン・ガーデンとクリエイションギャラリーG8の連携で、その業績を振り返る、タイムトンネルシリーズ。今回は、デザインからファインアートまで、幅広い活躍で知られる、五十嵐威暢氏を取り上げている。今回は、五十嵐氏の故郷である北海道滝川市で10月に開かれた展覧会からの巡回となっている。
五十嵐氏の作品といえば、その個性にあふれる、CI、VIが思い起こされる。とはいうものの、そういうグラフィックデザインだけでなく、プロダクトデザイン、美術教育でも活躍し、さらにこの10年ほどはファインアートの彫刻家として活躍してきた。そのどれもが半端でない活躍であるだけでなく、どんなに分野が違っていても、共通する五十嵐氏らしさが貫かれているところには感心する。
実は直接の接触はなかったのだが、80年代のあるプロジェクトで結果的にご一緒したことがあったりする。その関連のモノも出展されていたりして、これはちょっと妙な感じ。決して悪いコメントではなかったので、一安心。



11/1w
世界遺産 大アンコールワット展
そごう美術館 横浜

この展覧会は、タイトルこそ「アンコールワット」となっているが、アンコールワットに代表されるクメール王朝期の宗教美術の全貌を伝える集大成の展覧会である。1930年代に設立されたという、プノンペン国立博物館の収蔵品の中から、各時代を代表する石像、青銅像を展示している。
ワリと世界の地理や歴史に詳しいヒトでも、カンボジアやラオスといったインドシナ半島の中部の事情には明るくヒトは限られている。ぼくも、タイやヴェトナムの歴史はある程度聞いたことがあるが、この地域のことはほとんど知らない。そういう意味では、大変勉強になったし、大いに興味を惹かれた。
この地域では、近年でも内戦が続いていたが、過去も王朝間、民族間で、数多くの紛争が続いてきた。また、支配者が変わるとともに、国教ともいえる宗教が変化する。これらの石仏や石造寺院は、そういう人的試練をくぐり抜けてきただけではなく、高温多雨という厳しい自然環境にも耐えてきたと思うと、なかなか深い感激がある。
それにしても、緻密に彫刻がなされた石柱やレリーフ板を見るにつけ、建物中がこれで被われているアンコールワットの存在感は圧倒的なものだろうと、改めて実感する。16世紀に東南アジアに進出した日本人が、アンコールワットを見て「これが天竺」と思ったという逸話もなるほどという感じだ。



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