Gallery of the Week-Jan.06●

(2006/01/27)



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三井記念美術館 開館記念特別展II 「日本橋絵巻」
三井記念美術館 日本橋

三井グループの日本橋再開発にともなって開設された「三井記念美術館」、その開館記念の第二弾として開かれた企画展。三井家伝来品による常設展と併催のカタチをとっており、常設展は茶道関連を中心とする焼き物の特集となっている。
企画展の「日本橋絵巻」は、ドイツ・ベルリン東洋博物館蔵の「熙代勝覧」をはじめ、江戸の中でも日本橋に関連した絵画や書籍、77点により構成される。中には有名な浮世絵など、おなじみの作品も含まれるが、三井家伝来で、三井文庫、三井記念美術館が所蔵する、オリジナルの肉筆画が相当数含まれている点もさすがといえる。
日本橋に関わる作品、となれば、当然街の様子を描いたものであり、その時代時代の江戸の風俗や暮らしぶりが色濃く反映する。江戸の三題といえる「江戸城」「日本橋」「富士山」をどうとらえていたかだけではなく、江戸初期から末期までの、街並みや人々の暮らしぶりを、一目の元に比較できるというのも面白い。
しかし圧巻は、1658年に作られて以来、たびかさなる掛け替えにもかかわらず、明治まで200年以上にわたって使われてきた、日本橋の擬宝珠の現物。こんなものが現存していたコトも、出品されているコトも、全く知らなかっただけに、これは驚き。三井記念美術館蔵ということだが、あるところにはあるものだ。ここに出品されているどの作品にも描かれているそのものであり、なんとも感慨深いものがある。


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亀倉雄策 1915-1997 日本デザイン界を牽引したパイオニア
ギンザ・グラフィック・ギャラリー 銀座

その生涯が、ほぼ20世紀とシンクロし、まさに近代の日本をデザインを体現したともいえる、亀倉雄策氏。彼の業績を、代表的なポスターやロゴデザイン等の作品から振り返る回顧展である。オリンピックや万博のポスター、NTTのダイナミック・ループやGマークなど、その業績は時代を代表しているだけでなく、今もなお生き続けているモノが多い。
亀倉氏の企画展は何度となく行われているが、今回の目玉の一つといえるモノが、戦前の一般作品である。「日本工房」における、「NIPPON」などの政治的な広報誌については、戦前日本のグラフィックデザインの到達点の一つとして、今でも目にする機会は多いが、そこに集ったメンバーが、一般の商業ベースでのエディトリアルやグラフィックデザインでやったことというのは、あまり目にするチャンスがない。
その感想を端的に言えば、広告は一人で作るモノではないので、「時代の枠は越えられないが、視線は人々の先に行っていた」ということになるだろう。そういう意味では、1930年代から1980年代までの作品がリニアに並んでいるがゆえに、発見も多い。一番の転換点は、1950年代の後半にある。そこまでは、基本的に戦前からの「意匠」の世界だったのが、このあたりから、今に通じる「デザインビジネス」に生まれ変わったコトも見てとれる。
さらにそれは、デザインをとりまく周辺の環境が、その時点で大きく変わったからこそ起こった変化であり、亀倉氏に代表されるようなシーンのリーダーにとっては、本質になんの変化もなく、「廻りがやっとついてきた」ことでしかなかったコトもよくわかる。日本においては、20世紀前半と後半の境目は、デザインやアイディアのような、ソフト的な価値に対しお金が流れるようになったかどうか、というところにあることを改めて感じさせてくれる。


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写真展 岡本太郎の視線
東京都写真美術館 恵比寿

20世紀の日本を代表する「芸術家」、岡本太郎氏。そのマルチな表現活動の中でも、写真は特異なポジションを占める。また、特に近年着目されている領域でもある。それは写真作品の中には、他のジャンルでの作品以上に、彼が表現しようとしたモチベーションや意欲が、あたかも創作に至るプロセスを分解して示すように、くっきりと定着されているからに他ならない。
そのような視点から、今回の展覧会は、岡本太郎氏の「写真作品」の展覧会ではなく、「写真作品に見る、岡本太郎氏のクリエイティビティーの秘密解明」とでもいうべき構成となっている。展示は三部構成になっている。最初は、彼と写真の出会いといえる、パリ時代に影響を受けた写真家の作品から、彼にとっての写真の意味を探るコーナー。次は、1950年代〜60年代にかけて、実際に写真作品を発表した出版物の現物を見せるコトで、彼の写真作品が当時持っていた位置付けを示すコーナー。最後が、「芸術風土記」に使われた作品を、そのコマを含むコンタクトプリントと共に見せるコトで、創作プロセスを疑似体験できるコーナーとなっている。
もともと彼の写真作品は、天然系というか、まさにその場で興味をひき「目についた」モノに、ストレートに惹かれるように撮影するところに特徴がある。いわば、技巧やギミックを凝らした作品の対極にある撮り方だ。それだけに、コンタクトプリントは、実際何に目をつけ、何を面白がったのか、赤裸々に示している。表現者がこういうプロセスを見られるというのは、丁度トイレの中で何をやっているのか覗かれるようなものだ。
もう、故人なので問題はないのだろうが、生きていたらなかなか見せたくはないモノだと思う。こういう過程を見られる機会というのは、そうそうあるものではない。岡本太郎氏のファンであるヒトも、そうでないヒトも、表現者のアタマの中をのぞき見る企画という意味では、大いに足を運ぶ意味のある内容だと思う。


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