Gallery of the Week-Jul.06●

(2006/08/25)



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第27回 グラフィックアート「ひとつぼ展」
ガーディアン・ガーデン 銀座

いつも「ひとつぼ展」は、見るたびに、その時の「時代の風」を感じさせるのが楽しみなのだ。しかし、今回はちょっとビックリ。入るや否や、雰囲気が全然違う。過半数の作品が、極めてオーソドックスな手法による「美術作品」なのだ。おそらく、19世紀末の美術愛好家がこの会場に来たとしても、ほとんどの作品を「絵画」として認識するだろう。毎回みているが、こんなのは初めてだ。
ノミネートされた人たちの世代が、今までと大きく異なる、というワケではないので、創る側か、選ぶ側か、どちらかの意図が大きく働いた結果、と考えるべきだろう。そういう意味では、正攻法のストロングスタイルでの正面突破、というのが、ある種今の時代感覚ともいえそうだ。
確かに、かつて「尖端」といわれてきたITやハイテクは、普及し定着した分、すっかりコモディティー化し、もっともベタなモノとなっている。インターネットやパソコンも、一番ヘビーなユーザーは、いわゆる「下流」のフリーターやパラサイトである。彼らは、金がないから、一番金のかからないひまつぶしとして、インターネットにハマる。
感覚のトンガったヒトにとっては、ハイテクやコンピュータなんてものは、ある種、新種の筆や絵の具であって、表現の本質には全く関係ないものだということは、80年代の出始めの頃からわかっていたワケだが、広く世の中に普及して、やっと誰の目にもそれが明らかになってきた時代になったということなのだろうか。



8/3w
女たちの銀座 女たちの視点
資生堂ギャラリー 銀座

このシリーズは「女たちの銀座」と銘打ち、「資生堂ギャラリー」「ハウス オブ シセイドウ」連動で展開する、資生堂が築いてきた、女性の街としての銀座の姿を描き出す企画展である。このうち、資生堂ギャラリーがまず先行するカタチでスタートさせたのが「女たちの視点」と名付けられた写真展である。
これは、二つのパートから構成されている。一つは、銀座のいろいろなショップや会社で働く女性が、自分達の職場を自分達の視線で撮った写真の中から、飯沢耕太郎氏が構成した写真展である。もう一つは、会期内に「母と子」が稲越功一氏の指導の元、銀座をデジカメで取り歩くワークショップの成果の展示である。
いずれにしろ、いままで資生堂ギャラリーで行われてきた展示会とは、大きく趣向の異なる展覧会である。ポイントは、銀座という地域へのコミットと、徹底した「普通のヒト」の視線へのコダわり、というところにある。この企画がどう評価されるのかは、終わってみないとわからないが、「銀座のあの場所にあるコト」の意味を考える、という意味ではCSRとしてのギャラリーの大きなトライアルということができるだろう。



8/2w
鉄道写真 〜二本のレールが語ること〜 広田尚敬・広田泉写真展
キヤノンギャラリーS 品川

夏休み企画(というワケではないが)の鉄道ネタ、第2弾は、鉄道写真界の大御所広田尚敬氏と、その次男でやはりプロカメラマンとして鉄道を題材にする広田泉氏の共同写真展である。講談社「乗物えほん」シリーズ25年、ネコパブリッシング設立30周年という後援が付き、両氏にカメラをエンドーズメントしているキヤノンが主催と、この手の写真展としてはかなり大仕掛けになっている。
基本的には、会場は泉氏のコーナーと、尚敬氏のコーナーと大きく二つに分かれている。それぞれ、得意な作風・題材を活かした作品を、キヤノンのプリンタを活用した大型画像で展示する。とはいうものの、数カットづつの組写真に共通したサブテーマがあり、そちら側から見比べると、親子での対比という楽しみ方もできる、いわばマトリックス的な構成となっている。
泉氏の作風は、ぼくらからするとある意味で新鮮だ。1969年生まれということで、社会システムとしての鉄道の意味を捉えられるようになったときには、もはやかつてのような「日本のライフラインを、二本のレールで支える」存在ではなく、新幹線と通勤とコンテナの時代になっていただろう。その分、過剰な思いこみやロマンとは無縁に、純粋に今の鉄道の持っている色やカタチを写真の題材としてどう活かすか、という点に専念できているからだ。
一方尚敬氏の作風は、ある種心の故郷のような安堵感を持って受け入れてしまう。それは一つには、記録写真ではなく写真表現としての鉄道写真は、氏自身が先駆者として切り開いてきたものであるコト、もう一つにはぼくらの世代が、まさに氏の写真を見ることで鉄道の写真を取りたいを思ったという原体験を持っていること、この二つの理由からだ。当然その視線には、国鉄の線路がまだ「光り輝いていた」頃から、一貫した流れがある。今となっては、その視線そのものが「動態保存」され、新作を発表しつづけていることが、作品以上に文化資産といえるかもしれない。



8/1w
夜行列車 〜新橋発2007年鉄道博物館ゆき
旧新橋停車場 鉄道歴史展示室 汐留

夏休み進行というコトで、ちょっと手近な題材でお茶を濁させていただく。神田の交通博物館が閉館して以来、汐留の鉄道歴史展示室は、東日本鉄道文化財団つながりで、2007年10月の大宮鉄道博物館開館まで、そのつなぎとなる企画展を展開している。今回は、その第2弾というコトで、その名もズバり、「夜行列車」をテーマにした展示である。
特に、今回の展覧会は、鉄道博物館開館準備作業連動ということで、すでに大宮に運び込まれ整備作業が開始された二輌の客車、ブルートレインのナハネフ22型と、津軽鉄道からやってきたオハ31型が展示の核となっている。
ブルートレインのコーナーは、鉄道博物館で企画されている展示方法を先取りし単に車輌だけではなく、各時代の「夜行列車の旅」のあり方を、実際のディスプレイとして見せるやり方で展示されている。今回は、躯体自体は仮設セットであるが、それぞれの時代の旅のあり方は、知っている世代には懐かしく、知らない世代には新鮮な発見がある。
単に、歴史的車輌の保存や、マニア向け展示というだけでなく、鉄道というインフラがどう社会と関わってきたのかという視点は、鉄道会社の社会貢献事業という意味でも重要であろう。オハ31の方は、静態保存だがかなり荒廃していた同車輌を、展示物としてどういうプロセスで復元しているかを見せている。これもまた、通常は「使用前・使用後」しか比べられないだけに、いかに復元保存作業に手間がかかるのかを知る上では意味が大きい。どちらにしろ、今までとは違う博物館をつくろう、という意気込みが伝わってくる。



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