Gallery of the Week-Nov.06●

(2006/11/24)



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中島英樹展 CLEAR in the FOG
ギンザ・グラフィック・ギャラリー 銀座

タイポグラフィーを活かした、シンプルで力強いデザインで、そのルーツである雑誌や書籍のエディトリアルをはじめ、CDジャケットなどのグラフィックデザインで、独自の境地を生み出している、中島英樹氏。これは、彼の今までの主要作品と、実験的な新作を集めた個展である。奇をてらわない、正攻法で攻めながら、斬新でインパクトのあふれる、中島氏の世界を堪能することができる。
それにしても、この寡黙にして力強い主張は何なんだろう。メッセージ性を含んだ表現というのは、反対者に対して攻撃的になりがちだ。それがけっきょく、表現の持っている可能性を狭め、単なるプロパガンダ同然のものにしてしまう。中島氏の表現は、どんな強いメッセージを持っていても、それを相手に押しつけるようなところはない。それどころか、「相手は相手、自分は自分」という一線を、かたくなに守っているようにさえみえる。
しかし、よく考えてみれば、これこそが「自信」というものではないか。自分の主張に自信がないからこそ、相手に対して過剰に押しつけたり、違う意見を圧殺するようなベクトルが働く。嫌煙権なんかが、いい例だろう。本当に自分の意見に自信があるなら、動かざること、山のごとし。泰然としていられるのが、本当の信念というモノなのだろう。



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ユニヴァーシティー・ミュージアム合同展
「斉藤佳三の軌跡 -大正・昭和の総合芸術の試み-」
東京藝術大学大学美術館 上野

大学の独立行政法人化以来、大学という研究と教育の場と社会との接点として、各大学が所蔵する豊富で貴重な資料を活かし、ユニヴァーシティー・ミュージアムとして、博物館や美術館を作る動きが活発化している。もともと、近世の大学の発端の一つは、大帝国が世界から集めた珍しい文物を収集し、体系化する研究につながっており、そういう意味では、この動きは「原点帰り」と見ることもできる。
大航海時代における文物の収集には、動植物や鉱物の標本に代表される博物学的なモノと、考古美術や宗教・伝統芸能ともつながる美術史的なモノという、ふたつの系統があったことからもわかるように、この流れはまさに、博物館と美術館の原点といえる。この企画展では、全国25の施設から、各種の標本や作品など、それぞれを代表する逸品を集めて展示している。そういう意味では、全体的な統一性はないが、それがまた、ユニヴァーシティー・ミュージアムの幅の広さを示すカタチともなっている。
同時開催は、「斉藤佳三の軌跡 -大正・昭和の総合芸術の試み-」と称し、大正から戦前、戦後を通じて、日本の美術界・芸術界に常に新しいフロンティアを築いていった奇才、斉藤佳三の生涯を、芸大博物館所蔵の品々で辿る回顧展である。斉藤氏は、元々音楽学校を出たものの、それにとどまらず美術学校で意匠を学び、アートとデザインの新しいトレンドが渦巻き出した、1910年代の欧米に留学することで、いわば「20世紀のデザイン史の黎明期を、一人で駆け抜けてしまった男」である。
音楽で時間的表現を、美術で空間的表現をマスターし、これを組み合わせるコトで、トータルな表現をプロデュースする。まさに、その後「広義の商業デザイン」が取り組むことになった領域と切り口を、その天才的な直感の中で一瞬にして自らの物としてしまった。現代アートにおける堂本印象氏ではないが、20世紀前半というのは、そ考えてみると、なみ外れた大物が日本にいたし、そういうヒトが、その後の歴史を用意したと見ることもできるだろう。



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内藤多仲と三塔物語 タワー展
INAXギャラリー1 京橋

いつもワリと「ヒネりが効いた」というか、ちょっと博物マニアっぽい企画で攻めてくるINAXギャラリー。今回2度目の登場は、日本の建築構造計算の開祖、内藤多仲氏にちなんだ、三都市の象徴的タワーの特集である。内藤氏は、日本の耐震建築の父であると同時に、ほとんど構造体だけでできている建築物である「塔」の第一人者でもあった、昭和の建築家である。
構造計算というと、例の「姉葉事件」が記憶に鮮烈だが、関東大震災以降は、大型建築においては極めて重視されるようになってきた。その時代の構造計算を支えたのが内藤氏であり、内壁で強度を稼ぐ、戦前の耐震建築の基礎を築いたヒトでもある。
その事件でも象徴的なように、構造計算は、建築の中でも地味な世界である。ぼく自身、学校で建築科に行こうと思っていたのだが、コレが面倒でヤメたようなところもあるぐらいだ。そんな中でも、構造がそのまま外部に現れる鉄塔は、構造の専門家が脚光をあびる、唯一といっていい機会でもある。
戦前から数々の鉄塔を設計していた内藤氏だが、それが花開くのは、戦後各地で大型のタワーが建てられるようになってからである。実際、東京タワー、名古屋テレビ塔、通天閣という、東阪名を代表するタワーは、彼の代表作でもある。折りから、昭和ブームでレトロなタワーがウケているが、あらためてそれらを支えた「偉人」の業績を忍ぶのも面白い。



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仏像 一木にこめられた祈り
東京国立博物館 上野

おなじみ出開帳のメッカ、東博で開かれた、その名も「仏像」という企画展。数ある仏像の中でも、「木」そのものへの信仰と結びつき、日本特有の発展をしてきた「一木彫」をテーマに、その魅力と深さを網羅している。名仏も多いが、写真でも見たことのないような珍しい仏像まで網羅されているのが興味をひく。
全体は、4つのブロックから構成されている。まず、一木彫の嚆矢となった、奈良時代の檀像。次に、一木彫が隆盛となった、奈良から平安時代にかけての大型像。平安時代の一木彫の中でも、独自の流れを持つ鉈彫。江戸時代の民間信仰と結びつき、独特の作風で知られる円空と木喰。という順に、時代を追って展開する。
とにかく、全部で146体という大物量作戦。もともと一木彫の仏像は、保守本流の仏像とは違い、その霊験あらたかさを具現化するような、ミステリアスな存在感を持つモノが多いだけに、これだけ集まると、一種独特の聖的空間と化している。この空気感に浸れるだけでもご利益満点といえよう。
ついでに、修復なった表慶館の公開も覗く。これは展示ではなく、建物そのものを見せる展示である。表慶館は、長らく考古資料の展示館となっており、何度も入っているが、なるほど改めてみると、建物そのものもなかなかの逸品である。しかし、完成して98年ということだが、よく考えると、こっちはもうその半分ぐらい生きてるではないか。小学生のとき初めて来たとき、すでに古色蒼然たる建物だったことを思うと、妙に時の流れの重さを感じてしまった。



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