Gallery of the Week-Oct.07●

(2007/11/30)



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HOW WE DEVIDE THE WORLD 北原愛展 -世界をどう区切るのか-
資生堂ギャラリー 銀座

資生堂ギャラリーが力を入れている、これまで海外で活躍する日本人アーティストの紹介シリーズの一環として行われた、パリで活躍する中堅アーティスト北原愛にスポットライトを当てた展覧会。今回の展覧会が、日本国内での初個展という。空間や地域の間にある「境界線」の可視化を、作品のテーマとしているアーティストである。
大型のオブジェからドローイングまで、資生堂ギャラリーでの個展の展示としては比較的多量ともいえる、30余点の作品が展示されている。メインとなっているのは、国境線をモチーフに、そのどちらかの側を立体化したオブジェの連作。どことなく、福田繁雄氏のトリックアートのを思わせるようなところもあり、メッセージやコンセプトを外しても、純粋にカタチの楽しさとして見られるのがいい。
その中でも特に面白いのは、両側ともそれぞれ立体化したものである。なんか、ハマりそうで、ハマらなさそうで(理屈上は、スライドさせてハメれば、ピッタリ合うはずだが)、パズルのようなワクワク感もある。それに加え、境界にコダわるアーティストだけに、資生堂ギャラリーの二つの空間を、大展示室、小展示室としてウマく使いわけ、メリハリを付けているのも、「名にしおう」インスタレーションといえよう。



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物語の彫刻
東京藝術大学大学美術館陳列館 上野

東京藝術大学美術学部彫刻科の教官が企画・出展し、大学美術館陳列館を会場に、ビエンナーレ形式で現代における彫刻の在り方を問う企画展。今回は6回目にあたり、「物語の彫刻」と題し、元来、宗教的な「物語」をかたるための存在だった彫刻が、近代になるとともに「物語」から離れ、純粋な造形を指向していたものが、21世紀になりもう一度「物語」を語ることが求められている、という視点に立った作品を共作している。
テーマがテーマだけに、単に造形の美学やユニークさだけではなく、そこに込められたイメージやストーリーこそが、作品の命となっている。自分の描いているイメージに対する把握力や構成力が、作品の完成度にストレートに反映されてくる。個々の要素の形象からボトムアップでまとめていっても、こういう作品の表現にはならず、心象からトップダウンで全体のカタチをまとめていかなくてはならない。
ここで、ふと思いつくことがある。高度な技術を持ったクラフツマンが、極めて精緻かつ細密に作り上げた模型。それはそれですばらしい作品だとは思うが、それが全てではない。作者の世界観を見事に反映し、それを具現化していれば、表現に必要な最低限のテクニックであっても、すばらしい作品になる。理系の模型と、美系の模型みたいな、二つの道が模型の世界にはあるのだが、この後者の作品をもたらす源泉こそ、イメージに対する把握力や構成力なのだろう。そういえば、中尾豊氏は藝大の彫刻科出身であった。
この作品展のための木彫新作が多く、作品はまだ、木の香り、塗料の香りを周りにふりまいている。我々が接する木造彫刻は、すっかり木が枯れてしまっているものがほとんどであり、なかなかこういう生々しい作品に接する機会はない。まさに、作者が作っている最中の、魂を吹き込まれつつある存在感が、リアルに伝わってくる。このあたりも、なかなか新鮮な体験である。



11/3w
WELCOME TO MAGAZINE POOL 雑誌デザイン10人の越境者たち
ギンザ・グラフィック・ギャラリー 銀座

数々の雑誌でアートディレクターを担当し、デザインオフィスCapを主催する藤本やすし氏がプロデューサーとなり、先端的な雑誌デザインの「今」を伝える企画展。参加しているデザイナー・デザインオフィスと、その代表作は、「流行通信」の横尾忠則氏、「HEAVEN」「ガロ」の羽良多平吉氏、「Rits」「B」の松本弦人氏、「Here and There」「流行通信」の服部一成氏、「RAY-GUN」のデヴィッド・カーソン氏、「VOGUE PARIS」のM/M「SELF SERVICE」のワーク・イン・プログレス、「purple」のクリストフ・ブルンケル氏「CRASH」「Intersection」のヨルゴ・トゥルーパス氏、「Re-Magazine」「FANTASTIC MAN」のヨップ・ファン・ベネコム氏という10組である。
展示の内容は、1Fが、先進的なデザインで知られるシンガポールの雑誌「WERK」とのコラボレーションにより、参加したクリエイターがオリジナルで制作した「アートとしての雑誌」の展示。地階が、それぞれのクリエイターの代表作を集めた展示。と、それぞれなっている。
雑誌といえば、元祖「ロングテール」なメディアであり、エッジな部分、とんがった部分を久しく一手に引き受けてきただけに、特にオルタナティブな色彩の強い雑誌ほど、各クリエイターの個性がストレートに出ているが、その分、時代や国というような、背負っているバックグラウンドも透けて見えてくる。そこが、アートではなく、商業デザインである由縁でもあるのだろうが、横並びで見比べてみると、このあたりが結構興味深い。



11/2w
タイムトンネルシリーズVol.25 葛西薫 1968
クリエイションギャラリーG8 ガーディアン・ガーデン 銀座

銀座にあるリクルートの二つのギャラリーの共同企画で開かれている「タイムトンネルシリーズ」の第25回は、葛西薫氏の個展である。1973年にサンアドにデザイナーとして入社以来、烏龍茶シリーズなど、サントリーを代表する広告の数々を作り続け、最近では舞台や装丁、アート作品まで拡がる幅広い活躍を振り返る。
クリエイションギャラリーG8では、デビュー前の習作にはじまり、広告関係での仕事を、実際の作品と、アイディアスケッチの両面から展示。ガーディアン・ガーデンでは、その他の領域での多方面の作品を、その制作プロセスと共に展示している。
極めて正統的なウマさを持ったヒトが、正攻法で勝負して、きちんとオリジナリティーを出して勝負する。言うのは簡単だが、こんなに難しいことはない。それに広告という領域では、時代がそれを認めてくれるかという、もう一つ別の関門も待ち受けている。ある意味、葛西氏の場合、そういういろいろな歯車が、ピタリとシンクロして、最高の結果が結実したと思うし、そこに至るプロセスも含めて、その時代との共鳴が見えてくる展覧会である。
それにしても、タイトルにもあるように、葛西氏が仕事をはじめたのが1968年。才能のあるヒトにチャンスが与えられるとともに、それが必ずやキチンと評価される時代がかってはあったということが、マジマジとわかる。やはり、60年代の日本というのは、それはそれでとんでもない世界だったんだろうなあ。



11/1w
大ロボット博 〜からくりからアニメ、最新ロボットまで〜
国立科学博物館 上野

今回は、ちょっと傾向を変えて科博のイベント。実はガキと一緒に行ったのだが、いろいろ思うところがあったので、あえてこのコーナーで取り上げたい。始って最初の週末、パブリシティーもいろいろ効いているし、おまけに台風一過の好天とあって、相当の人出。券売所に対して、既に規制がかかっている状態。とはいえ、こちらはガキが「科博友の会」会員なので、これはクリアしたものの、中でまた入場制限がかかっている。
けっきょく、これは例のミイラ博のときと同様、全員シアター経由で入出場するために起っていることなのだが、昨今の世情からすれば、「行列ができる方がワクワクする」ということなので、演出ととれないこともない。中に入ると、前半が展示、後半がHONDのASIMOシアターとなっている。前半の展示の方は、タイトル通り「からくりに始まる、日本の自働人形の歴史」、「アニメ特撮にみるロボット」「最新ロボット技術」を扱っている。
真っ当に考えれば、この3つのテーマでそれぞれ掘り下げて三部構成にするのだろうが、不思議なことに、これらが渾然一体となった展示になっている。ある種、子供達が興味を引きそうなテーマの間に、先進技術的な展示を混ぜこめば、一緒に関心を持ってくれるだろう、ということなのだろうが、そうは問屋が卸さない。ピーマンが嫌いな子には、いくらピーマンを刻んでまぶしても、食べさせられないようなものだ。そもそも、科学に関わる人たちが、こういう発想をするところが、子供たちの科学離れを招いていることに気付かないのだろうか。
今の子供たちを、科学好きにするのはそう難しいことではない。科学はマジックだ。科学は錬金術だ。と、黒魔術のようなおどろおどろしく不可思議な世界として見せれば食い付いてくる。「合理性」を全面に出したがるからこそ、科学離れが起っているのだ。算数や漢字のドリルも、「IQクイズ」のように見せれば、子供が喜ぶエンターテイメントになる。ドリルの余白に、アニメのキャラクターを描くだけでは、けっして子供を騙せないのと同じだ。



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