Gallery of the Week-Aug.08●

(2008/08/29)



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160人のイラストレーターが描く銀座 GINZA・銀座・ギンザ
クリエイションギャラリーG8 銀座

今年で14回目を迎える、毎年恒例の東京イラストレーターズ・ソサエティの展覧会は、「銀座」 をテーマに、会員の過半数にあたる約160名の作家が、描きおろしの作品を制作・展示する。参加者には、ベテランのイラストレーターも多く、懐かしい名前も多く見られる。それぞれの作家が、銀座に関わる30cm四方の作品というシバり以外、自分のスタイルで、自分の好きなように描いた作品の共演である。
各々の作家の作風を、肉筆で味わうのもいい。テーマの選び方を比較するのも、おもしろい。これだけ数が揃うと、見るほうも、いろいろな見方、楽しみ方ができるというモノだが、一番インパクトがあるのは、やはり「手書きの力」ということではないだろうか。まあ、中にはコラージュや写真を使った作品もあるにはあるのだが、この時代、直接手書きのイラストレーションを見るチャンスは、確かに少なくなっている。
それにしても、アナログの強さというか、肉筆作品のもつ情報量は、とてつもなく大きい。それを印刷に起こしてしまったり、最初からディジタルで製作してしまったりしたのでは、とても伝わらないようなダイナミックレンジである。そして、それを駆使して表現できる作者の力量というのも、また強いインパクトを持って迫ってくる。アナログの手書きは不滅だし、その存在感はあなどれない。あらためて実感する瞬間でもある。



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『ひとつぼ展』30回記念展 ポストカードオークション「@hitotsubo.jp」
ガーディアン・ガーデン 銀座

おなじみ『ひとつぼ展』も、前回で、1992年にスタートして以来30回目。その間の入選者はグラフィックアート、写真両部門をあわせると、566人になるという。その中には、その後時流に乗り活躍をしているアーティストも多い。この展覧会は、『ひとつぼ展』30回を記念して、これまでの入選者に現在の視点からスポットをあて紹介する企画であり、グラフィックアート部門の入選者205人が、一人一点ずつ制作したポストカード作品を展示している。
「オークション」という趣向はさておいて、ポストカード展という形式は、ガーディアン・ガーデンのスペースに、全入選者205人の作品を収めるには、他に手がないともいえるものである。A3ポスターでは、100人分も収まらないだろう。しかし、この「ミーシーに全部詰め込む」というアイディアが、個々の作品を越えた、キュレーションの妙を引き出している。なるほど、「『ひとつぼ展』とはなんぞや」という問に対する答えがそこにある。
それはそもそも、ポストカードという「媒体」が、単なる平面アートにとどまらない可能性を持っているからだろう。確かに、全体の2/3ぐらいが、グラフィックアートの文法に沿った作品だし、そのまた2/3は、比較的オーソドックスな絵画・イラストレーション・グラフィックデザインの範疇に入る作品である。しかし、残りの1/3は、なんでもアリである。この微妙なバランス感こそが、『ひとつぼ展』の魅力ともいえるだろう。



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Vision of America 第一部「星条旗」
東京都写真美術館 恵比寿

いろいろな意味で、写真が今のような「文化」となった陰には、アメリカの存在感が大きい。記録・報道写真という面でも、記念写真という面でも、表現作品という面でも、アメリカという国やアメリカ人の影響が色濃く反映している。毎年恒例となった、東京都写真美術館の館蔵コレクション展は、収蔵作品を通して、写真術が発明されて以来の、アメリカと写真の170年を振り返る企画展である。
全体は三部構成とされ、今回は、「星条旗」と名付けられた、その第一部。写真が発明されるとともに、アメリカに導入された1839年から、ゴールデンエイジ直前の1917年までの約80年間が対象となっている。その中は、1.ダゲレオタイプ渡米、2.写された戦争と作られる神話、3.そして、西部へ、4.「動き」を写した男、5.よりよき社会を求めて、6.アメリカ芸術としての写真の6パートから構成されている。
最初、肖像写真として導入・定着された写真が、19世紀末に近づくにつれ、リアルな記録・報道のメディアとして、社会的に重要な存在となる。そして、撮影の対象が多様化する中で、写真が単に事実を伝えるだけでなく、ある種の「思い」や 「メッセージ」までも伝え得るモノであるコトが認識される。それとともに、社会派的なジャーナリスティックな作品と、芸術的なアーティスティックな作品とが派生してゆく。この、ちょうど写真が技術から表現へと高まってゆく時代が、第一部の対象である。
改めてここに集められた写真をみると、写真の歴史という以上に、アメリカの歴史について思うところが多い。我々の知っている、世界の超大国としてのアメリカが出来上がってからは、まだ百年たっていない。国内にフロンティアがあった時代のアメリカは、まだ世界のフロンティアであり、国は大きいものの「田舎大国」に過ぎなかった。しかし、20世紀を迎えるとともに、その経済力と技術力をバックに、名実ともに大国としての存在感を持つようになる。まさに、そのプロセスをここに集められた写真は、時の壁を越えてストレートに見せつけてくれる。この展覧会は、「アメリカの写真史」であると同時に、「写真によるアメリカ史」でもあるといえる。



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夢の饗宴 歴史を彩るメニュー×現代のアーティストたち
資生堂ギャラリー 銀座

16世紀以来の世界の王侯貴族たちの晩餐会、午餐会のメニューのコレクションで知られる、フランス在住のメニュー収集家・立松弘臣氏。立松氏秘蔵のメニューコレクションから、日仏交流150周年を記念し、1858年以降の国賓級の晩餐会を中心に選ばれたメニューが展示されている。それとシンクロするカタチで、晩餐をモチーフにした展示により構成された展覧会。
展覧会としての全体は、暮らしのためのモノづくり集団である、「graf media gm」によるインスタレーションにより構成され、そこに、阿部海太郎氏、アンドレアス&フレデリーカ、華雪氏、シアター・プロダクツ、ほしよりこ氏、南風食堂、森本美絵氏の各アーティストが、作品を提供し、ギャラリーを「饗宴」テーマにした場につくりあげている。
展覧会としての構成に関しては、多少テーマ設定に無理も感じられ、「?」なところも散見されるが、資生堂自体が、古くから資生堂パーラーなど、ハイブロウな洋食文化の定着に力を入れていたことを考えれば、こと「資生堂の文化事業」という文脈では納得し得る範囲ではないだろうか。それにしても、この150年でも、料理というか、レシピというか、食卓に載る「コンテンツ」は、農業や輸送・保存など、技術の発展により、大きく変わってきたことに驚かされる。実は洋風の食文化というのは、それほど深いモノではない。これが、もしかすると一番の「発見」かもしれない。



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