Gallery of the Week-Feb.09●

(2008/02/27)



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奥出和典展 「KERBEROS」
ガーディアン・ガーデン 銀座

どうにも、今月はタイトなスケジュール。時間に余裕がないモノで、結果、全部昼メシついでの、ご近所の「0円モノ」と相成ってしまった。ふつう、ニッパチといって、2月8月はヒマがあるのではないかとも思うのだが、景気が悪くなると、実入りは悪いが手間が増えるのがこの仕事。ということで、景気同様、ショボい展開ですね。
この展覧会は、2008年2月に行われた第30回写真「ひとつぼ展」で、グランプリを受賞した奥出和典展氏が、その賞として与えられるガーディアン・ガーデンでの個展として開いたモノである。今回の作品も、その時の受賞作と同様、妹をモチーフに、直接モデルとして、あるいはそのイメージを表現するカタチで撮影した写真による構成となっている。
昨今、コラボばやりということもあり、いろいろな分野でチームやユニットによる活動が多くなっている。クリエイティブな分野でも、チームによる制作活動はよく見られるようになった。グラフィックデザイナー2人によるデザインチームのように、同種のコンピタンスを持った者同士で協力・切磋琢磨するタイプもあれば、ミュージシャンと映像作家というように、異分野の才能を持つ者のコラボチームというタイプもある。
さて、この15年ぐらいを見ると、セルフポートレートを主たる表現形態とする現代アートのアーティストが目立っている。それらは、表現の一つのジャンルといっていいだろう。ここでの「妹」の存在は、演出意図を演じる単なるモデルではなく、「あるがまま」が表現の原動力となっているという意味では、セルフポートレート内のアーチストの存在に近い。そう考えると、これはモデルとアーチストのコラボチームという、新しい形態の創作チームといえるのではないだろうか。



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第3回 shiseido art egg 佐々木加奈子展 「オキナワ アーク」
資生堂ギャラリー 銀座

第三回となった、今年の「shiseido art egg」。第一弾の宮永愛子氏に続いて、第二弾として佐々木加奈子氏の登場である。このところ、近場の無料ギャラリーが続いており、小物でお茶を濁している感もあるが、時節柄まとまった時間がとれないこともあり、お許し願いたい。
佐々木氏は、セルフポートレートや歴史的な土地を写した作品シリーズなどで知られた、写真アーティストである。今回の展示では、ボリビアにある沖縄村をモチーフにした映像とスチル写真を組み合わせた、インスタレーション作品を出展している。
もともと、写真家、映像作家としてスタートしただけあって、映像にインパクトがあり過ぎ、インスタレーション作品という枠組みから飛び出し、自己主張をしている。その点が特色ともいえるが、映像そのものが強力なだけに、なにかもったいない気もしてしまう。
映像は映像だけ、インスタレーションはインスタレーションだけ、それぞれ別の作品として独立させた方が、結果的に伝わるモノが多いと思われる。もしかすると、彼女の発想を受け止めるには、資生堂ギャラリーはちょっと狭過ぎたのかもしれない。



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Helvetica forever Story of a Typeface
  ヘルベチカ展
ギンザ・グラフィック・ギャラリー 銀座

誕生から半世紀以上経ち、21世紀に入った今でも、欧文書体の定番として広く使われるとともに、常に新しい使われ方を生み出してきたフォント「ヘルベチカ」。この展覧会は、この「ヘルベチカ」というフォントにスポットライトを当てた、ユニークな企画展である会場では日本を含む世界各国でデザインされたポスターや数々のグッズなど、ヘルベチカを使用した様々な時代の作品を展示すると共に、このフォントが生まれるまでのインサイドストーリーを示す資料も見ることができる。
そもそも、この「古くて新しい」シンプルなフォントが、なぜ、これだけ長い間インパクトを保ってきたのか。その裏には、日本(東アジア)と欧米におけるタイポグラフィーの意味合いの違いも大きく横たわっている。日本など、書道の伝統のある国においては、「字のカタチ」には、いろいろな意味性が深く刻まれてしまうし、それを読み取るリテラシーは、一般民衆レベルでも高い。当然、字体には、時代背景や社会情勢なども包含されてしまう。
それはそれで、グラフィックデザイン上の可能性を、いやが上にも高めている要素ではあるのだが、そのフレームから自由な字体というのも、存在し得なくなってしまう。その呈でいえば、「ヘルベチカ」は60年代の香りがしてもおかしくはない。確かに、活版の「ヘルベチカ」をストレートに組めば、「60年代のモダン」の雰囲気が漂ってくる。同じように、写植の「ヘルベチカ」なら、70年代っぽい雰囲気であろう。だがそれは、字体ではなく、全体のデザイン構成も含めての話である。
そういう意味では、このフォントが登場したのが、1950年代の末であり、ヨーロッパのデザイン界が、大戦後の混乱から脱し、60年代、70年代のポップな表現を生み出そうとする時代であったことと深い関係があるだろう。なにごとも、最初に完成度の高い仕事をやったヒトに、最大のチャンスがある。高度に発展した近代産業社会、大衆消費社会を代表するような字体として、最初に登場し、かつ、高い完成度を持っていたからこそ、最初から「将来の古典」として生き残るコトを運命づけられていたということができるだろう。



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The Second Stage at GG #24
  石川マサル展[CONNESSIONE コネッシォーネ]
ガーディアン・ガーデン 銀座

『ひとつぼ展』入賞アーティストを中心に、それら作家のその後の活動を伝える場として開かれる展覧会、「The Second Stage at GG」。その第24回では、デザイナー・アートディレクターとして活躍中の、石川マサル氏を取り上げる。石川氏は、1999年の『ひとつぼ展』に入選した後、ドイツ、イタリアで、グラフィックデザイン、プロダクトデザインで活躍し実績を積んできたキャリアを持っている。
その分、いままでの「The Second Stage at GG」シリーズとは一味違い、海外での業績を紹介する、「凱旋展」といった趣向になっている。そういう意味では、ガーディアン・ガーデンで行われる展覧会としては、どちらかというと「タイムカプセルシリーズ」のような印象を受ける。これは、この10年間の実績の成せるワザだろう。
石川氏は、デザインに関る多面的な分野で業績を残しているが、印象に残るのは、ロゴタイプやピクトグラムといった、制約の多いデザイン活動での作品である。通常、この手のデザイン作業は、先に制約条件を押えておき、その中で表現できる可能性を追求するコトが多い。しかし、ひとまず彼はそういう制約を無視し、イマジネーションを拡げるだけ拡げておいて、それをあとから制約の中にねじ込んでいるようにみえる。
実際、石川氏と会場でお話する機会に恵まれたのだが、やはりデジタル以降の時代に育ったデザイナーやアーティストは、イメージではなくカタチから入る傾向が強いのではないか、ということで意見が一致した。3Dグラフィックとかだと、最初に直方体とか球とか置いてみるところから作業がはじまることが多いが、これは何もないところからアタマの中でイメージをふくらますやり方とは、随分拡がりが違ってしまう。デジタルがコモディティー化した今だからこそ、また、カタチよりイメージが大事な時代になってきたということができるだろう。



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