Gallery of the Week-Mar.09●

(2008/03/20)



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香本正樹展 「間でゆれる」
ガーディアン・ガーデン 銀座

香本正樹氏は、2008年3月に行われた「第30回 グラフィックアート『ひとつぼ展』」において、「表現採集」でグランプリを獲得し、その賞として開催されるのが今回の個展である。香本氏は「編物」の手法を使い、独特のオブジェのような作品を製作するアーティストである。今回も、この手法で制作した十数点の作品が展示されている。
「編物」というのは、技法としては極めて合目的的である。その結果は、何らかの編布製の製品となるコトがほとんどである。しかし、香本氏のユニークな点は、本来手段である「編むこと」を目的化してしまった点だ。純粋に目的化した「編むこと」が結果として生み出したカタチ。それは、編物という技法を使っているものの、我々が知っている編物とは全くことなる存在である。
自己目的化した編目の自己増殖、それは、まさに合理的目的を飛び越えた「無の用」であり、アートそのものである。あたかも、バラバラに動いている気体の分子が、おびただしい量を集まると、熱力学的特性を発揮し、その気体特有の性質を持ってくるように、おびただしい数の編目は、数集まることにより、一つの世界を生み出している。
ある一定の基本ルールの繰り返しが、何度も何度も繰り返されることにより、全体としてのカタチを生み出す。このような試みによる造形は、フラクタル図形のように、コンピュータグラフィックス初期には、いろいろと行われた。しかし、それはディスプレイの中の習作の域を出るものではなかった。香本氏の作品は、その時試みられた方法論を、具体的な立体物化し、アートとしての作品にまで高めたもの、という気もしてくる。まだまだ可能性は大きいのではないだろうか。



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16人の手作り本展 「えとじ もじとじ てせいほん」
ギャラリー・スコット 銀座

飯田朋子氏、追川恵子氏、大山美穂氏、加納潤子氏、KEINOSUKE Y氏、Copine-m氏、 senobi(sekiyumi氏+たにつえりこ氏)、津村明子氏、なんばひろこ氏、橋本尚美氏、 深澤涼子氏、山口正剛氏、やまぐちゆみこ氏、ヨシダ ミキコ氏、綿貫香代美氏という、いろいろなルーツを持つ16人が集まり、手作りの本というコンセプトで作品を持ちよった同人展である。
日頃取り扱っている展覧会とは、ちょっと異質な面もあるが、メンバーの中に個人的に親しい方がいるので、ここでとりあげさせてもらう。初期においては、手作り絵本というコンセプトだったのが、メンバーの増加と共に、もっと幅広いカタチで、本のカタチをした作品を作る、という感じになり、本としてコンテンツの部分に注力した作品、本としての装丁に注力した作品、そういうフレームを越えて「本の形式」をとった「作品」まで、いろいろな芸風が揃って面白い。
この十数年、現代アートの世界では、自らシチュエーションやコスプレ設定をしたセルフポートレート作品を、主たる活動領域とする一連のアーティスト達が活躍している。彼ら、彼女らの作品は、物理的には「写真」である。だが、作品が写真だからといって、写真家であるワケではない(写真家としての作品を発表しているヒトも中にはいるが)。あくまでも、コンセプチュアルな部分が「作品」であり、写真は、そのヴィークルでしかないからだ。
そういう意味では、「絵や文字といった作品を本のカタチにまとめた」方と、「本という物理的なカタチをとった作品を創った」方がおられ中で、特に後者の、いわば「本型のオブジェ」とでも呼べる作品群には、今後の可能性を感じている。本という形式自体が、いろいろな表現形式の集大成(美術展のカタログ写真集というジャンルがさえあるし)である以上、極めて「メタ」な作品性ということになるのだろうが、それだけに、大化けする可能性も秘めているといえるだろう。今後の展開が気になるところだ。



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夜明けまえ 知られざる日本写真開拓史 .中部・近畿・中国地方編
東京都写真美術館 恵比寿

日本全国の美術館、博物館、資料館等が所蔵する幕末〜明治中期の写真を発掘・紹介するシリーズ展、「夜明けまえ 知られざる日本写真開拓史」。第一弾の関東編から2年を経て、その第二弾となる「.中部・近畿・中国地方編」が開催された。全体は、大きく肖像写真、風景写真、記録写真という三部から構成される。
実際に会場に展示された作品は、その半数が幕末のアンブロタイプを中心とする肖像写真であり、出品に応じている施設も、かなり限られている。もっともこれには、主たる眼目が初期写真作品のデータベース作りということもあるだろうし、いろいろな制約の中でも、それなりに見せどころのあるものを集めたということができるだろう。
そういう意味では、ここから読み取れる最大の発見は、写真創成期に極めて近い19世紀中葉、日本で写真師という仕事が成り立ってすぐの作品群であるにもかかわらず、すでに「日本的な作画」というトレンドが出来上がっていたことであろう。これはなにより、写す写真師の側というより、写される顧客の側に、写真というモノに対する何らかのイメージが共有されていたからに他ならない。
確かに、江戸時代の日本は、浮世絵に代表されるように、当時の世界の中でも、高度に発展した大衆レベルの画像文化があった。それがあったからこそ、写真がやってきても、それを受け入れ、自分達のスタイルに昇華して発展させるコトができた。それを確認できるだけでも、なかなか深いものがあるだろう。



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第3回 shiseido art egg 小野耕石展
資生堂ギャラリー 銀座

宮永愛子氏、佐々木加奈子氏と紹介してきた、今年の「shiseido art egg」。しんがりの第三弾をつとめるのは、として小野耕石氏である。またもや近場の無料ギャラリーではあるが、相変わらずまとまった時間がとれない上、第一弾、第二弾ときたからには、外すワケにはいかない。ということで、今週もおつきあい願いたい。
小野耕石氏は、極めて独創的な制作技法を用いて作品をクリエイトする。それはまず、シルクスクリーンの技法を用いて、版上に規則正しく並べられたドットに、何色ものインクを100回以上刷り重ねていくことで、虹よろしく、複雑な色が積み上げられた石筍状の盛り上がりが、きれいに並ぶパネルを作る。そして、そのパネルを色面構成のように組み合わせることで、大型のインスタレーション作品を作るのだ。
はなれてみれば、多層の色が重なり合い、毛の深いペルシャ絨毯のような、不思議な質感を生み出す。逆に、一つ一つの「盛り上がり」をクローズアップすれば、そこに込められた多様な世界と、それが無限に連なる拡がりが見えてくる。
加えて、またもや匂いである。無数のドットからたちのぼる、インクの匂い。まるで、新聞社の輪転機のある印刷所に入ったかの如き錯覚さえしてくる。アナログ印刷技術の衰退と共に忘れ去られてしまうだろう、かつての印刷業界を支えた、無数の無名の印刷工たち。隆起した一つ一つの「ドット」が、なにやら彼らの墓標のように思えてきて、あたりに霊気が充満しているような感じさえしてくる、不思議な作品である。



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