Gallery of the Week-May.09●

(2008/05/29)



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矢萩喜從郎展[Magnetic Vision/新作100点]
ギンザ・グラフィック・ギャラリー 銀座

建築家出身で、デザイナーとしても活躍する矢萩喜從郎氏は、独特の視覚世界へのコダわりを表現した作品で、現代アートのアーティストとしても知られている。今回の展覧会は、そんな矢萩氏の、視覚の表現にこだわった新作百点で構成されている。
今回の作品は、一つのグラフィックの中に、全体と部分を同時に表現したモノ。粗い網版で写真の一部をアップにした図柄の中に、円形にそのオリジナルの写真を配した構成を基本とし、その「構図」でいろいろなモノを「見て」ゆこうというモノである。
ちょっとトリックアートっぽいところもあるが、ある種のコンセプチュアルアートである。コンセプチュアルな作品というと、オブジェとかインスタレーションとか、立体表現になることが多いが、あえてグラフィック作品でコンセプチュアルな表現にこだわったところがユニークな点であろう。
そういう意味で、オリジナリティーという面でのインパクトは非常に大きい。しかし、個々の作品がなんなんだろうと考え出すと、中にはメッセージ性を感じる作品もあるものの、正直言って行き詰まってしまうところがあることも確かだ。まあ、虫歯の検診の診断票でも100枚並べればコンセプチュアルアートになるワケで、ハコ全体を使ったインスタレーションと解釈するのが、最も妥当な評価ということだろうか。



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平成21年度 東京都写真美術館収蔵展 「旅」第1部 東方へ
東京都写真美術館 恵比寿

福原館長になってから毎年恒例になった、東京都写真美術館の収蔵品による企画展。ことしは、「旅」をテーマに三部作として行われる。その第一弾が、「東方へ」と題する、今回の展覧会である。確かに、旅と写真とはつきものである。写真を趣味としない人でも、写真作品の中に自己表現をしようと思わない人でも、旅行にいけば、景色を写し、記念写真を写す。
それは、自分の思い出をカタチに残したいというモチベーションであり、かつまた、自分が感じた感激を他人とシェアしたいという欲求の現れであろう。いずれにしろ、未知の土地へいった人間なら誰でも思う気分に、写真は強くアピールし、それが大衆の中に写真を広めていく要因となったことは間違いない。
第一弾の「東方へ」は、近代ヨーロッパの人々が、交通機関の発達と共に、エキゾチックな世界を求めて、ユーラシア大陸の東へ東へと、その足を伸ばしていった過程と、それとともに写真家や写真技術が、アジアの国々に渡っていったプロセスをシンクロさせ、日本に写真が伝来し、エキゾチックな日本が写真のイメージとして欧米に伝わっていった歴史を振り返る。
今回に限っていうのなら、よく公開されている作品も多く、テーマや歴史的年代も、過去の企画展とカブる部分が多かったので、比較的新鮮なインパクトに欠ける感も否定できない。とはいうものの、これは導入部である。ツカミという意味ならば、今後の拡がりへの期待を持たせるモノであるということもできるだろう。



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山崎博展 「動く写真! 止まる映画!!」
クリエイションギャラリーG8
ガーディアン・ガーデン 銀座

クリエイションギャラリーG8とガーディアン・ガーデンを通して開かれる、恒例のタイムトンネルシリーズ。その第28弾は、画像・映像作家として、1960年代末から活躍する山崎博氏の半生を振り返る展覧会である。山崎氏は、写真家として表現者の道をスタートさせたが、常に「写真」という概念を打ち破るフロンティアを追い続ける作品を発表しつづけてきた。
彼は、世間的に写真と認定される「作品」と、同様の機材や資材を使って写真を作る。しかし、作られた作品は、その時代時代における「写真表現」の枠の外側に大きくハミ出している。まさに、確信犯として、ボーダーラインを打ち壊しつづけてきた40年間の軌跡を、凝縮して振り返ることができる。
初期においては、「写真」ではあるものの、アートとしての写真作品の限界を打ち破る作品を発表してきた。そして、その辺境を侵食し尽くすと、今度は写真という枠組み自体に挑む。常にフロンティアを開拓し、さらなるフロンティアを求めるその姿勢は、まさに「前衛」と呼ぶにふさわしいだろう。
紙と鉛筆という「手段」があった時、詩人なら詩で表現をするし、画家ならデッサンで表現する。ペーパークラフト作家なら、オブジェを作るかもしれない。「手段」と「表現」とは、そのように独立しているモノなのだが、技術関与度の高い表現法ほど、「手段」と「表現」とが混同されがちである。ディジタル化が進む今という時代だからこそ、表現をどう発想するか、という大きなヒントがここにあるのではないか。



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手塚治虫展 未来へのメッセージ
江戸東京博物館 両国

手塚治虫氏の生誕80周年、没後20周年を記念して行われる、氏の回顧展。数々の作品にスポットライトを当てたイベントは、過去にも色々行われているが、今回の展覧会は、もちろん名作の数々は登場するものの、それ以上に「人間手塚治虫の生涯」にフォーカスしたものとなっている。彼がなぜ、戦後日本のコミックス文化、アニメ文化のクリエイターたりえたのか、その秘密に迫るイベントである。
個人的には、昭和20年代の「赤本」時代を除き、少年誌に連載を持ったり、テレビアニメの製作(「制作」ではないところがポイント)に乗り出してからは、リアルタイムで経験している。そういう意味では、いわゆる「昭和レトロもの」としても楽しめるのだが、それ以上に、時代と手塚氏とのインタラクションに思いを馳せるコトができるほうが、「サイマル世代の特権」といえるかもしれない。
その活躍のあとを振り返ると、とても「生誕80周年、没後20周年」という感じがしない。もっと長い歴史の中に、その活躍が深く刻まれていうような気もする。そのぐらい、圧倒的な速度感で、昭和の時代を生き急いでしまったということだろうか。客層も、外国人のマニアとおぼしき人も含めて、ここで行われる企画展としては、非常に幅広い。
「そこそこの人物」レベルなら、才能だけ、運だけでも、それなりに名を残すことは可能だろう。しかし、パラダイムシフトを起こすような「桁外れの人物」は、才能にも、環境にも、運にも恵まれた上に、それなりの努力とリスクテイキングをいとわなずにしてはじめて生まれてくる。人は定められた星の元に生まれるのだ、ということを、改めて深く感じさせてくれる。



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