Gallery of the Week-Jun.09●

(2008/07/31)



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「こだま」から「ひかり」へ -星晃の手がけた黄金時代の国鉄車輌-
Break ステーション・ギャラリー 上野

第5週まである月の第5週となると、すぐ次の月になってしまうので、ネタの配分に頭を使う。おまけに今回は、掲載日から、即、最終日。ということで、ちょっと通常とは違う「搦め手」から攻める。今回取り上げたのは、上野駅のBreak ステーション・ギャラリーで行われている写真展、「こだま」から「ひかり」へ、である。
要は、鉄道系の小ネタなのだが、こういう機会なら取り上げてもよかろう。在来線特急の黄金時代から、新幹線の創成期にかけて、多くの車輌設計に関った、当時の国鉄の副技師長、星晃氏。氏は、今も御存命であり、ちょっとした関係から、直接当時の国鉄に関するお話を伺ったこともある。鉄道のプロであると同時に、鉄道趣味の大先輩でもあり、「職権を濫用(笑)」して撮影したカットの数々は、今では貴重な昭和の記録となっている。
この写真展は、ネコパブ・レイルマガシンの協力の下、RMライブラリに収められた、35mmカラーポジで撮影された、昭和30年、40年代のカットの中から、華やかな特急列車の初々しい姿を集めたものである。カットそのものは、すでに雑誌等の印刷物で見たものであるが、デジタル化したデータから直接プリントした大画面は、小さな印刷物にはない存在感がある。
デジタルプロセスを通しているとはいえ、ダイレクトなプリントには違いない。その情報量は極めて大きく、よく見るといろいろ面白い発見がある。ポストプロ作業で、色の復元等行われているものの、十数年の間でのカラーポジフィルムの進歩も、充分見てとれる。点数は限られているものの、同好の士ならば、じっくり見ていけば何か発見があるだろう。



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平成21年度 東京都写真美術館収蔵展 「旅」第2部 異郷へ
東京都写真美術館 恵比寿

「旅」をテーマとした、今年の東京都写真美術館収蔵品による企画展。その三部作の第二弾が「異郷へ」と題する、今回の展覧会である。主として1970年代以降に活躍した現代日本の写真家によるシリーズ作品の中から、いろいろな土地の風土や人々を捉えた作品で構成されている。
具体的には、荒木経惟氏、秋山亮二氏、森山大道氏、柳沢信氏、須田一政氏、内藤正敏氏、北井一夫氏、牛腸茂雄氏、土田ヒロミ氏の9氏の、60年代末から80年代初頭という時期に発表された、70年代を中心とした作品が展示されている。
確かにこの時期は、日本の社会も風土も大きく変わった時代であり、消えてゆく景色や人々の表情、暮らしぶりといった変化に、時代の流れを感じ取り、多くの写真家が、それを作品として残そうとしたモチベーションを感じとることができる。
その意味では、「旅」と題されていようがいまいが、戦前からの伝統的な日本が消えようとし、今につながる新しい日本が生まれようとしていた時代をテーマにした写真展としてみても、充分に見応えがある企画である。これなら、無理して三回シリーズにしなくても良かったかもしれない。



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ADC 09展
ギンザ・グラフィック・ギャラリー 銀座
クリエーションギャラリーG8 銀座

ADC展は、いろいろな意味でその年の状況を反映する。去年は、後半から「未曽有の経済危機」となり、あらゆる経済指標がシュリンクする状況となった。当然、デザイン活動にかけられる予算も縮小する。まあ、例年ADC展を見ていれば、こういう景気変動の与える影響も想像がつくというもの。とはいえ、今年は参加作品も激減するなど、なるほどその影響は大きい。
ということで、全体に小振りになった感じがするのは、仕方ないだろう。グラフィックではなく、パッケージデザインやCI関係が多いのはまあいいとして、自分の作品集や、自分の展示会のデザインを出品作としている例が多いのは、ちょっとズルいのでは。たとえば作品集では、本そのもののデザインだけでなく、そこに掲載された過去のグラフィックの数々にも目が行ってしまう。いわば、メタ作品という感じで、その分までハカマをはいているようなものである。まあ、これも何度も出せるワザではないので、こういうご時世ならではの緊急避難と言えなくもないが。
しかし、よく考えると、こういう「売れない時代」だからこそ、ほどほどにまとめた広告ばかりでは、ますますインパクトがうすれ、埋没していってしまう。利益が上がらない中から、なけなしの費用を投下しても、これでは意味がない。こういう時代こそ、ローコストでもトンガった広告作品を作らなくてはいけない。その意味では、まさに不況期こそデザインの時代であるはずだ。このあたりは、クライアントの皆さまにも、よく考えていただきたいところではあるが。



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第1回 グラフィック「1_WALL」展
ガーディアン・ガーデン 銀座

ガーディアン・ガーデンが主催する、グラフィックと写真のコンテスト『ひとつぼ展』。2008年春に、30回を数えるのを機会にリニューアル。今回から「1_WALL」展として、新時代の公募展を目指し新たなスタートを切ることになった。「ひとつぼ展」同様、グランプリ受賞者には、個展開催とパンフレット制作の権利が賞品として与えられる。
栄えある第1回目の「1_WALL」展には、今回から予備審査と一次審査という二度に渡る選考を通過した、6名のアーティストが参加している。「ひとつぼ展」から「1_WALL」展への進化、それは主催者側のメッセージを読む限りにおいては、「ひとつぼ展」においては、ギャラリーの壁面の一定部分を使って、自らの作品をプレゼンテーションすることに主眼があったのが、「1_WALL」展では、単なる作品展示以上の、一定の空間の演出を含めた表現を競うモノになった点がポイントのようだ。
確かに、展示された6人の作品の中には、「ひとつぼ展」に出てきてもおかしくないものもあるものの、もう一段スケールアップされた、空間インストレーション的な要素が目立つモノが多い。いわば、ギャラリーの空間と作品との力関係の中で、ギャラリーの中に作品があるのではなく、作品の力がギャラリーの存在感を上回っているかどうかが、「1_WALL」的なるものということなのだろうか。確かに、「限られた会場での個展」に結実させることを考えると、よりインパクトのある表現を生み出せる力を問うことは意味があるだろう。けっこう面白い試みだと思われる。



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ヘルシンキ・スクール写真展 風景とその内側
資生堂ギャラリー 銀座

北欧のグラフィックデザインやインダストリアルデザインに関しては、近年日本でも高く評価され、関心が高まっているが、北欧のアートシーンというと、まだまだ情報が少ない。この展覧会は、日本・フィンランド修交90周年、資生堂ギャラリー開廊90周年を記念し、そんな北欧、フィンランドのヘルシンキ・スクールと呼ばれる写真家たちを紹介するものである
今回のキュレーターでもあるティモシー・パーソンズが主導してはじめられたヘルシンキ・スクールは、ヘルシンキ芸術デザイン大学の教師、学生、卒業生たちのグループである。ヘルシンキ芸術デザイン大学では、作品としての写真を作る指導のみならず、アーティストを養成する視点を持たせることに力を注いでいる。
今回の展覧会では、ヘルシンキ・スクールを代表する女性アーティストの中から、中堅のティーナ・イトコネン、サンドラ・カンタネンと、若手のスサンナ・マユリ、アンニ・レッパラというの4名作品を取り上げ、その世界を紹介している。これがフィンランドの写真界の全てを表すわけではなく、あくまでも一断面に過ぎないが、やはり独特の個性は強く感じられる。
それは、我々にとって親しみがあり、情報も多く持つ温帯や亜寒帯といった地域とは違う、白夜のある北極圏という地域のせいもあるだろう。また、ヨーロッパともアジアとも違うと同時に、ヨーロッパともアジアとも共通点をもつユーラシア的な立地にもよるだろう。それが、表面的なエキゾチックさだけではなく、心象の違いにまで昇華されている点が、確とした個性を生み出す要因になっているのだろう。



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