Gallery of the Week-Nov.09●

(2008/11/27)



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CREATION project 2009「手ぬぐいTOKYO」
ガーディアン・ガーデン クリエーションギャラリーG8 銀座

「CREATION project」は、同じ会場で昨年まで18回続いた、クリエイター達がボランティアで制作した作品を展示・販売し、収益金をユニセフへ寄付する「チャリティー展」をリニューアルしたイベントである。その第1回目のテーマは「手ぬぐい」であり、200人のクリエイターが自由にデザインした200枚のてぬぐいが、2つの会場内を整然と埋めつくしている。
基本的に、「てぬぐい」のデザインということしか決まっていない。いわば、何も描かれていない紙やキャンバスを渡して、好きなように作品にしてください、というのと同じである。それでいて、「てぬぐい」という規格だけは共通している。当然、200人いれば、200様のアイディア・コンセプトが、壁面いっぱいに並べられるコトになる。
オーソドックスな「絵画」的なモノ。前衛現代美術的なモノ。マンガもあれば、イラストもある。そうかと思えば、グラフィックデザイン的なのもあるし、美大の色面構成の課題みたいなのもある。それだけでなく、自分の得意な世界に持ち込むヒトもあれば、あえてチャレンジングな表現に挑むヒトもいる。
アイディアというのは限界がないし、もし何か発想に制約があるなら、それは自分が自分に嵌めているに過ぎないというコトを、改めて感じる。チャリティーなど、元来の趣旨もさることながら、タコ壷にハマリがちなマインドを、広い視野で鳥瞰できる地点まで引き戻してくれる展覧会である。そういう意味でも、ミクロだけでなく、マクロな視点から作品を見たいものだ。



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皇室の名宝 -日本美の華 2期正倉院宝物と書・絵巻の名品
東京国立博物館 上野

天皇陛下御即位20年記念展である「皇室の名宝」は、皇室御物や宮内庁所蔵の代表的作品をの紹介する展覧会である。展示は1期と2期とに分かれており、1期は江戸時代から明治時代までの絵画と工芸品を中心とし、2期は古代から江戸時代までの考古、絵画、書跡、工芸品で構成されている。
今回は2期の展覧会であり、第一章「古の美」、第二章「古筆を絵巻の競演」、第三章「中世から近世の宮廷美」、第四章「皇室に伝わる名刀」の4パートから構成されている。各種御物も見応えがあるが、今回の目玉は、なんといっても、第一章「古の美」の中で展示される正倉院御物だろう。
皇室御物は、特に銘品ほど公開されるチャンスは多く、聖徳太子像、法華義疏、喪乱帖などは、公開された機会はほとんど見ている。一方、正倉院御物は、公開される機会も少なく、銘品といえども、何年に一度かの奈良国立博物館での公開でしかお目にかかれないモノも多い。伝世品中の伝世品といえるモノだが、どれも予想以上に状態が良く驚かされる。
また、展示がゆったりとしているのも特筆モノで、絵巻物を全て拡げて展示する展覧会というのも、そうざらにはない機会である。このあたりも、皇室ならではの優雅さというべきだろうか。天皇陛下のお人柄か、スゴい人気の混雑ぶりだが、客の中心となっている老人に、非常にマナーが悪いヒトが目立つのが気になった。環境の悪い中で育った戦中派も、今や70代になったわけで、これからは、自分勝手な老人が「老人問題」として周囲に迷惑をかけまくる時代がきてしまうのではないだろうか。



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北川一成
ギンザ・グラフィック・ギャラリー 銀座

改めて言うまでもなく、ファインアートの世界と、グラフィックデザインの世界というのは、なんとも微妙な関係性を持っている。世の中全体からいえば、美大系の世界であり、洋画科や日本画科出身のデザイナーもいれば、デザイン科出身の現代アーティストもいるように、ある種近い世界ではある。使用している技法や材料という面でも、リニアでシームレスな世界になっている。
その一方、デザインでもアートでも、その周辺にいるインサイダーなら、この両者の間には、越えるに越えられない見えない壁があり、発想やモチベーションという面では、全く違う起点を持っているコトもよくわかる。その意味では、極めて非連続的な世界でもある。アートでもデザインでもいいが、それらの世界に生息する人々は、この「連続性と非連続性」の間に、自分のポジションを見つけ出さざるを得ないワケだ。
北川氏のスゴいところは、このアンビバレントな関係を、いとも簡単に越えて、この両者を自由に行き来する中から作品を作ってしまうところだ。もっというと、最初から、北川氏の中には「非連続性」がないのだろう。現実の状況をどっぷりと知るヒトほど、このマジックには驚かされてしまう。しかし、これも「人間には国境があるが、自然には国境はない」のと同じなのだろう。
今回の個展も、「デザイン作品を材料に使った、現代美術のインスタレーション」と呼ぶのがふさわしい。銀座では、資生堂ギャラリーをはじめ、ギャラリー全体をつかったインスタレーションが発表されることも多いが、今回のギンザ・グラフィック・ギャラリーは、まさにそれである。こういう使われ方をしたコトが、かつてあったのだろうか。アーティスト志望の学生にこそ、見て欲しい展覧会だ。



11/1w
トキワ荘のヒーローたち 〜マンガにかけた青春〜
豊島区立郷土資料館 池袋

昭和レトロブームの影響で、このところ、手塚治虫氏、赤塚不二夫氏など、現代日本のマンガ文化の礎を築いた、昭和の名漫画家たちの足跡を忍ぶ展覧会が多い。この展覧会も、その一環に位置付けられるものであり、藤子不二雄氏、石森章太郎氏などを加えた、1950年代から活躍したビッグネームたちの若かりし日々の梁山泊として知られた、豊島区椎名町の木造アパート、トキワ荘の日々を忍ぶ企画展である。
今回の展覧会は、トキワ荘の記念碑が、かつての所在地に近い豊島区立南長崎花咲公園に建てられたコトを記念し、豊島区主催で開催されたモノである。トキワ荘とそこに集った漫画家たち、その青春の日々などは、すでにかなり詳しく解明されているが、今回は、漫画家当人や遺族などの関係者が保有する記念の品々を持ちよって、展示している。
会場も、豊島区立郷土資料館という限られたスペースであり、どちらかというとイベントというより、手作りの展示という展覧会だが、写真を元に会場に再現された「寺田ヒロオ氏の部屋」ともども、「モノはなくとも夢だけはあふれていた」その時代のトキワ荘の世界と妙にマッチして、昭和の趣を感じさせるのは怪我の功名であろうか。昨今のレトロブームでは、ともすると「昔は良かった」的な必要以上の美化が目立つ場合もあるが、今回は場所柄もあり、当時のリアルタイムな雰囲気を思い出す。
ところで、トキワ荘というのは、実は昭和27年の建築というのを、今回初めて知った。山手通りの外側だと、戦災で焼けなかった地区とか、戦後すぐに建築がはじまった地区も多く、トキワ荘も、手塚氏が入居した時点で、すでに相当に年季の入ったアパートだと、勝手に思いこんでいた。ということは、建てられて何年も経っていない、けっこう新しいアパートだったことになる。昭和30年代生まれのぼくでさえ(なおかつ、育ったところからトキワ荘までは、自転車で20分程度だ)勘違いしていたのだから、世の中では、創成期の漫画界については、もっと広く勘違いがあるのだろう。そういう意味では、当事者は当たり前と思っている事実も、改めて記録にする必要があるのだろう。



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