Gallery of the Week-Jul.10●

(2010/07/30)



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銀座鉄道 親子みんなで楽しむ鉄道写真展
RING CUBE 銀座

奇しくも、今月の第3週で取り上げた広田尚敬氏の子息で、やはり鉄道写真家として活躍する広田泉氏がプロデュースし、自らの作品、および仲間の若手鉄道写真家の作品で構成した写真展。いつの間にか三愛ビルの8階・9階にできていた、リコーのショールームRING CUBEでの開催である。そういえば、40年以上前、このビルができたときには、9階は喫茶・食堂、8階〜5階は、三菱電機のショールームだったような記憶がある。
21世紀の鉄道写真のあり方を考える、というのが、今回の写真展のひとつのコンセプトになっている。確かに、21世紀に入って、鉄道も、写真もそのあり方が大きく変わっている。鉄道は、新幹線網と大都市部でこそ存在感を示しているものの、全国的なレベルでは、かつてのようなライフラインの主役ではなくなってしまった。写真も、銀塩からデジタルになることで、気合を入れて作画するものから、自然に空間を切り取るモノになってしまった。
そのような時代における鉄道写真のあり方は、確かに1970年代とは違うはずだし、そういう現代的な意義を見つけられなくては、今の鉄道写真を撮る意味はない。ぼくのように(記録写真を除けば)鉄道を被写体としなくなってかなりの年月が経った人間にとっては、それはどうでも良い話かもしれないが、今シャッターを押すヒトたちにとっては、課せられた重大な課題でもある。
そういう意味では、社会的には、老人と通学生しか乗らず「あってもなくてもいい」ローカル線を、いわゆる「ゆるフォト」的に撮る視点からは、間違いなく今が伝わってくる。それは、悪い意味でも、皮肉でもなんでもなく、たとえば多くの第三セクタ鉄道は、高校が「電動バイクなら通学可」とかなったら、その場で存在基盤を失ってしまう状況を、リアルに捉えていることを意味する。それが、今の時代の写「真」ということではないだろうか。



7/4w
【特別展】平城遷都1300年記念 奈良の古寺と仏像 會津八一のうたにのせて
三井記念美術館 日本橋

薮内佐斗司氏作のキャラクター「せんとくん」でおなじみになった、平城遷都1300年蔡に連動し、日本美術の原点ともいえる南都の仏像にスポットライトを当てた企画展。奈良を代表する、秋篠寺、岡寺、元興寺、興福寺、西大寺、正暦寺、新薬師寺、大安寺、當麻寺、當麻寺奥院、橘寺、唐招提寺、東大寺、能満院、長谷寺、般若寺、法隆寺、法起寺、室生寺、薬師寺の20寺院から、飛鳥時代から鎌倉時代に作られた、国宝3点、重要文化財44点を含む65点の作品が出展されている。
等身大以上の仏像ならば、堂内で、周りの雰囲気も含んで鑑賞するのがふさわしいが、3尺以下ぐらいの小型の仏像は、美術館で近くからじっくり鑑賞するのも味わい深い。そういう意味では、寺の堂内では埋もれてしまいそうな中・小型の仏像を、クローズアップで味わえるというのは、適切な企画であるといえよう。
時代的にも、それぞれ特徴的な作品を集めており、各寺院ごとの違い、各時代ごとの違いなど、いろいろな鑑賞しかたに答え得るラインナップである。もともと好きな仏像は、何度見ても感じるものがあるのが、仏像マニアであるコトを考えると、マニアにも初心者にも楽しめる構成ということができる。
ところで、先週末には奈良に行ってきたのだが、法隆寺の宝物殿では、夢違観音が出開帳中というコトで、本来の場所にはレプリカが置かれていた。図らずも、一週間内に、ミッシングリンクを埋めてしまったことになる。昔、東京の美術館で中国古代美術展を見て、その数日後に西安の歴史博物館に行くと、東京の展覧会に出品されたコレクションのところは、そのまま「穴」になっていて、頭の中で補完したのも思い出してしまった。



7/3w
鉄道写真活動60周年記念 広田尚敬展「蒸気機関車の時代〜昭和34年とF〜」
JCIIフォトサロン 半蔵門

広田尚敬氏の鉄道写真活動歴60周年を記念して、出版社6社を横断して7冊の写真集が出版された。その中から、広田氏が新進気鋭の鉄道写真家としてスポットライトを浴びた、昭和30年代の写真が中心となっている、「昭和三十四年二月北海道」(ネコ・パブリッシング刊)と「Fの時代」(小学館刊)に掲載された写真を再構成した写真展である。
どちらの写真集も、SLブームになる前の、まだ日本の動脈を支えていた時代の蒸気機関車を被写体としたモノクロ写真というところが特徴になっている。ともすると、ノスタルジアやレトロに流れてしまいそうなテーマだが、どのカットからも、40年・50年のときを越えて、躍動感や時代の息吹が伝わってくるところは、単なる記録としての「鉄道写真」の枠にとどまらない、鉄道を被写体とした写真作品という世界を創りだした広田氏の面目躍如というところである。
モノクロ写真を銀塩印画紙に引き伸ばした作品というのも、最近では貴重だが、こうやって物量で迫ってくると、その情報量の違いに圧倒される。実際にリアルタイムで、蒸気機関車の撮影に行った身としては、脳の奥深くにかすかに残っていた記憶が呼び戻されるような感じさえする。
ところでこの写真展に出品されている作品、全てノートリミングで、パーフォレーションのところの「黒み」まで入れて引き伸ばされている。鉄道写真は、その9割以上が印刷原稿となるコトを前提としている以上、通常はトリミング前提の作画をする。鉄道写真を撮らない人にはわからないかもしれないが、ノートリミングで絵作りがキチンとできているということは、尋常ならざる事態なのだ。実は、これが一番驚いた点。戦慄的なまでにスリリングな体験だった。



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2010 ADC展
ギンザ・グラフィック・ギャラリー クリエイションギャラリーG8 銀座

銀座の夏開きを告げる、恒例のADC展。今年も、会員展のギンザ・グラフィック・ギャラリーと、一般展のクリエイションギャラリーG8の二会場を通した同時開催ではじまった。このADC展は、その前の一年間の業界の流れを知り、時代の方向を知るのにピッタリで、発見や納得も多く、いつも楽しみにしている。
今年の傾向は、なんといっても「迷いがふっきれた」ということではないだろうか。この十数年、ディジタル化の波がデザイン界に及んで以来、その波とどう接するのかが、大きな問題となってきた。飲み込まれてしまうのか、飲み込んでしまうのか。人それぞれの立ち位置、人それぞれの思いの中、いろいろな試行錯誤が繰り返されてきた。
勝者は技術ではなく、人間の側であることは、渦中からわかっているヒトにはわかっていたし、そこをゴールとして、技術をツールとして表現の奴隷にすべく、新しい表現のカタチを探し求めてきた。しかし、その雌雄が誰の目にも明らかになったのが、2010年ということではないだろうか。自信を持って、グラフィックデザインの原点とも言える正攻法で勝負をかけてくる作品群に、それを感じる。
だが、どちらかというと、一般作品の方が、そういう自信のエネルギーにあふれている一方、会員作品にの表現には、多少内向的な印象を感じてしまう。まあ、それが逆になるよりは、自然なエネルギーの流れができているということなのだろうから、いいことだとは思うが、ベテランには、だからこそ、さらに時代の先へ行ってもらいたい。



7/1w
仲山姉妹展「菊ヲエラブ」
ガーディアン・ガーデン 銀座

2009年より『ひとつぼ展』はバージョンアップし、新たな公募展「1_WALL」に模様替えしたが、その第1回写真部門グランプリ受賞者、仲山姉妹氏による個展である。この「菊ヲエラブ」は、日本有数の菊の生産地である沖永良部島で、農園に住み込みながら菊の収穫に従事した日々の中から生まれた、オリジナルの新作である。
とにかく、とても不思議な気分にさせてくれる作品である。多分、作者にとっての「本当の作品」は、パフォーマンスとしての作者の沖永良部島でのリアルタイムでの生活そのものか、その結果彼女の心の中に残ったものであり、会場に展示されいているのは、その断片なり写像なりに過ぎないモノだろう。
もちろん、それが作者にとって「本当の作品」を想起する触媒になるという意味では、そこにあるモノも作品であるコトは間違いないのだが、この様な作者と作品と見る人との関係性は、なかなか経験したことのない刺激でもある。なにか、今までになかったような新しい表現形式が現れてくるのだろう。その胎動を感じさせる世界がある。



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