Gallery of the Week-Aug.10●

(2010/08/27)



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第3回グラフィック「1_WALL」展
ガーディアン・ガーデン 銀座

「ひとつぼ展」をリニューアルした「1_WALL」展も、回を重ねて第3回。次第に、いい意味でのその「違い」が生み出され、それが応募者も運営側も共通認識となってきた感がある。ということで、第3回は例によって、まずはグラフィックから。今回も、一次審査で選ばれた30名から、二次審査で6名に絞られ、公開審査へと進んだ。
6つの作品はさすがに、それぞれ図版のようにミクロ的に見てゆくならば、甲乙つけがたいレベルにある。しかし、そこはそこ。作品群をインスタレーションとしてどうプレゼンテーションするかについては、それぞれレベルに差があり、明らかにインパクトが違う。ある部分、比例するところもあるが、全く次元の違う要素もある。
単に個々の作品だけでなく、インスタレーションとしての展示まで含めて作者に委ねられ、それが「作品」としてメタ的に捉えられるからこそ「1_WALL」展である。そこが、今までの公募展にない「1_WALL」展の魅力として確立してきたということができるだろう。
画材としてのディジタル、用具としてのディジタルが普及すると、「キレイ」にまとまった作品を作るのはたやすくなる。その分作品としては、違う面でオリジナリティーを発揮する必要性が生まれる。個々の作品だけではなく、作品のプレゼンテーションまで含めて個性を表現するというのは、そういう時代の方向性としては、鋭いところをついている。その可能性が、具体的に見えてきたコトを感ジさせてくれる。



8/3w
誕生! 中国文明
東京国立博物館 上野

中国文明の発祥地であり、数々の王朝が栄えた、中国河南省。俗に「中国4000年の歴史」と呼ばれている、中国文明の流れが、この地に眠っている。河南省文物局の強力のもと、そんな河南省で発掘された考古文物を通して、紀元前20世紀から紀元12世紀ごろまでの中国文明の歴史を振り返る、スケールの大きな展覧会である。
全体は、約150点の展示品からなり、歴史的な考古学資料を中心とする「王朝の誕生」、陶芸、金工など、技を凝らした副葬品からなる「技の誕生」、書につながる文字や壁画等の絵画に注目する「美の誕生」の三部構成となっている。
それにしても、この手の中国の歴史展をみるといつも思うのだが、発掘しても発掘しても、あとからあとから銘品が出てくる中国文明の奥の深さというのは、一体なんだろう。今回の展覧会でも、いくつかはすでに目にしたことのある収蔵品があるものの、その多くが、この10年ぐらいに発掘された、初見の品々である。
それも、半端でないスケールの銘品や、微に入り細に入り作り込まれた銘品が多い。昨今は、中国でも開発が進んでいるため、日本の70年代がそうだったように、得kん説工事と共に、新しい遺跡が次々発掘され、今までの歴史観を塗り替えるような考古学上の発見が続いているのかもしれない。いずれにしろ、掘り起こされた中国の今を知るためにも、欠かせない展覧会といえるだろう。



8/2w
日光道中−江戸の旅・近代の旅−
旧新橋停車場 鉄道歴史展示室 新橋

日光線開通120周年を記念し、江戸時代から日本を代表する一大観光地だった「日光」を、「旅」という視点からスポットライトを当てた企画展。観光地としての日光は、その主要な景勝地は、江戸時代からすでに確立していた。第一部「江戸時代の旅」では、将軍から庶民までの「日光参内」の様子とともに、観光地「日光」ができあがるまでを振り返る。
続いて第二部「避暑地日光」は、明治初年に政府のお雇い外国人や居留地の住民などの西欧人が、避暑地として日光を発見し、欧米的な観光の対象となったプロセスを振り返る。さらに第三部は「来晃は鉄道で」と称し、明治23年に日本鉄道により日光線が開通し、昭和に入って東武鉄道が開通するとともに、日帰りも可能な関東の奥座敷となる過程を振り返る。
関東圏に住む人間にとっては、極めて親しみ深い観光地である日光だが、そのポジションを獲得するまでの流れには、交通の発達が深くかかわっている。日ごろ見逃されがちな事実だが、鉄道の話題がいかにも「とってつけた」モノではなく、自然にテーマの中に溶け込んでいるところは、鉄道歴史展示室にふさわしい題材ということができるだろう。



8/1w
ベルギー王立図書館所蔵 ブリューゲル版画の世界
Bunkamuraザ・ミュージアム 渋谷

ピーテル・ブリューゲルは、当時勃興しつつあった市民文化をベースに、ヨーロッパの民衆の視点から、諷刺とユーモアたっぷりに人間性を表現した、16世紀の巨匠である。この展覧会は、ブリューゲルの作品を多く収録しているベルギー王立図書館の協力のもと、ブリューゲルをはじめとする同時代の版画作品約150点を展示し、当時のネーデルラントの版画文化を紹介している。
版画とは、大量の複製物を作成し、それを販売できるマーケットを前提としている。16〜17世紀のネーデルランドは、鎖国期の江戸時代の出島での貿易をオランダが独占したことからもわかるように、世界の商業・貿易の中心地であり、その商人たちの富を背景に、それまでの貴族文化とは異なる、独自の市民文化が花開いた。これらの版画も、そういった商人層を中心とする市民により支えられた。
そうなると、当然題材もテイストも、それまでの庶民的なものとなる。主題は、風景や船など具象的なもの、庶民や農民の祭や生活を表現したもの、宗教や道徳的な主題を描いたもの、と大きく3パターンに分けられている。その中でも、真骨頂といえるのが、宗教や道徳をテーマとしたものだろう。宗教といってもカトリックとは違い、新教ベースで現世利益を追求する市民層の信仰心を反映した作品が中心となっている。
現世で勤勉を尽くすことにより救われることを、おどろおどろしさとありがたさの寓意で描きあげた作品群は、正しく理解するには聖書の知識等が不可欠ではあるが、その絵柄の意味するところは、現代の日本人でも充分理解できる。それどころか、月刊MOEなどファンタジー系のイラストが好きなヒトにとっては、今でも充分通じるようなモチーフに満ち溢れている。実際、若者から中年女性まで、その手のモノが好きそうなヒトたちで、会場は満員だった。この手のモノは、日本ではやはり根強いと、あらためて実感した。



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