Gallery of the Week-Apr.11●

(2011/4/29)




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夜明けまえ 知られざる日本写真開拓史 四国・九州・沖縄編
東京都写真美術館 恵比寿

日本全国の美術館、博物館、資料館等が所蔵する幕末〜明治中期の写真を発掘・紹介するシリーズ展、「夜明けまえ 知られざる日本写真開拓史」。第一弾の関東編から4年、第二弾の中部・近畿・中国地方編から2年を経て、その第三弾となる四国・九州・沖縄編が開催された。全体は今までの二回とは異なり、「であい」「まなび」「ひろがり」という三部から構成されている。
とはいうものの、会場に展示された作品は、今までの回と同様、幕末のアンブロタイプを中心とする肖像写真であり、出品に応じている施設が、かなり限られているのも共通している。とはいうものの、そもそも現存している作品が限られている中で、いろいろな制約にも配慮しつつ、毎回これだけ集めているということは、評価できる。
今回の対象地域には、日本の写真の発祥の地といえる長崎や、独自の写真技術研究で知られる島津藩が含まれているが、やはり長崎関係のコレクションが多く、展示物全体の中でもシェアが高い。これに加えて、明治維新で活躍した西南雄藩のものが多く、ひとつの特徴となっている。
また初公開となる、長崎大学図書館所蔵のボードイン・コレクションの、デジタル映像でのプレゼンテーションなど、当時の日本の風景や風俗などを記録した作品も多く、文字や絵では伝えきれない当時の空気を感じさせてくれるのも、なかなか興味深い。そうやってみると、この一世紀半ほど、イメージとは異なり、意外と日本人は変わっていないということを、改めて感じさせてくれる。



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第4回写真「1_WALL」展
ガーディアン・ガーデン 銀座

『ひとつぼ展』をリニューアルした「1_WALL」展も、2009年のスタートから第4回。「壁面」にコダわったインスタレーションという視点も含めた表現として、そのスタイルもすっかり定着してきた感がある。今回は、またまた写真「1_WALL」展の巻。大震災の影響で、会期が一週間ずれ込んだものの、6人のファイナリストを集めて開催された。
例によって、手近な無料展ではあるものの、「1_WALL」展は、かなり表現トレンドを先取りして入選作を選ぶ傾向があり、今という時流を感じ取る上では欠かせないコンテストだ。とはいうものの、今回は作品を眺めていて、多少面食らうところがあった。というのは、ここ数回の傾向とは違い、広い意味では「写真展」という形式に収まっている作品ばかりだったからだ。
もちろん、テーマ設定や技法は、70年代、80年代の写真作品とは大きく異なる。しかし、メタな作品としてのあり方、たとえば「組写真」とか「大伸し」という形式においては、極めてオーソドックスな作品が並んでいる。その中では、一番ユニークな形式をとった作品がグランプリではあったのだが、この伝統回帰は一体何を意味するんだろう。
この一ヶ月は、自粛ブームである。それを反映したのであればまだしも、これらの作品が選ばれたのは、それ以前の段階である。詮索したところで始まらないが、奇をてらわない、新たな地平を築く前提として、歴史を踏まえなくては、歴史は超えられない、という意識が若手にも広まっているのなら、それはそれで大いなる前進ということができるだろう。



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ボストン美術館 浮世絵名品展 錦絵の黄金時代-清長・歌麿・写楽-
山種美術館 広尾

100年以上の歴史を持つ、アメリカでも有数の美術館である、ボストン美術館は、世界各地の美術品を幅広く収集していることにより知られている。中でも、モース、フェノロサ、ビゲローなど、名うてのコレクターによって、明治初年の日本で収集された日本美術コレクションは、その充実した内容で知られている。特に、約5万点の版画、約700点の肉筆画、数千点の版本からなる浮世絵は、世界屈指のコレクションである。
この展覧会では、膨大な浮世絵コレクションの中から、18世紀末から19世紀初頭の天明・寛政期に焦点を当て、当時活躍した清長・歌麿・写楽の作品を中心に絞り込み、錦絵の絶頂期を振り返る。浮世絵コレクションは、ボストン美術館内でさえほとんど公開されなかった分、保存状態がすばらしく、オリジナルの状態を今に伝えている
浮世絵といえば、ここでテーマとなっている18世紀末の江戸っ子にとっては、戯作、狂歌。黄表紙本、さらには吉原の花魁などとならぶ、花の町人文化の一環であった。それは、美術品というより、風流な趣向をこらした風俗の一部であったろう。「絵」そのものより、その発想のベースとなっていたり、そこに暗示されていたりする「世界観」を楽しむものであった。その基盤として、的確かつインパクトのあるオリジナリティーあふれる描写があったのだが、そこに美術品としての味わいを発見したのは、外国人であった。
このコレクションは、まさに、その「発見」を行った当人たちが集めたものだけに、こうやって並べることで、浮世絵のどこに着目し、どこにユニークさを感じ、どこに美を感じたのかというプロセスが見えてくる。個々の作品の鑑賞もさることながら、この百数十年前の先人たちの感動を追体験できるというところが、この展覧会の醍醐味であろう。
このところ、浮世絵がブームである。浮世絵に関連した展覧会はもちろん、各種イベントや番組なども多い。それを反映してか、動員もいたって盛況である。通常の展覧会だと、混雑していても、シニア層と学生層が中心ということが多いのだが、ビジネスマンを含む一般層も相当に多い。場所柄もあるかと思うが、けっこう目立つ傾向だ。そういえば、山種美術館がここに移ってずいぶん経つが、実は初めてやってきた。少なくとも、月に一度は、こういう有料の美術館イベントを入れなくてはいけないよねえ。



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ポスターにみる戦中・戦後 第1期:公共事業・社会事業を中心として
昭和館 九段下

その設立経緯から、戦時中のものが中心となっているものの、昭和初期から戦後の昭和20年代ごろまでの生活資料を蓄積している昭和館。今回の展覧会は、昭和館館蔵の昭和前半のポスターを、第1期「公共事業・社会事業」第2期「商業広告・文化催事」と2期に分けて展示する企画である。
昭和館の主旨からして、作品としてのポスターにスポットライトを当てるものとはならず、そのポスターの利用目的と社会的背景を見て行く構成となっている。中には、杉浦非水氏、山名文夫氏など有名なデザイナーの手による作品もあるが、基本的には生活の中に溶け込んだ、無名の作品が中心となっている。
その分、ポスターがオフセット印刷になる前、いわば商業ポスターと手描きポスターとの間に差がなかったこの時期の、大衆印刷文化のベースレベルを見渡せる、稀有な機会となっている。やはりそこで気がつくのは、テーマ内容こそ戦前、戦時、戦後と変化するものの、意匠そのものは連続している点である。
考えてみれば、そこに生活している人々は同じだし、庶民レベルでの日々の暮らしも連続している。教科書に載っているようなトップダウンの歴史観と、人々が生活実感として感じている歴史観とは、しばしば大きく異なる。そのギャップを埋める意味でも、生の物証に触れる意義が大きいことを実感できる。第2期もまた見てみたい。



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にっぽんの客船 タイムトリップ展
INAXギャラリー 京橋

4月の声を聞いても、今ひとつ周りが落ち着かないし、震災の影響もそこはかとなく続いている。そんなワケで、今回もまた手近なところでお茶を濁させていただく。建築やインテリアにスポットライトを当てた展覧会を開いているINAXギャラリーで、戦前の豪華客船の黄金期に活躍した日本の客船をテーマにした展覧会が開かれた。題して、「にっぽんの客船 タイムトリップ展」。
その時代を代表する船として、外航船からは南米航路で活躍した「あるぜんちな丸」、内航船からは伊豆七島の大島航路で活躍した「橘丸」を取り上げ、当時の客船の命ともいえるホスピタリティーを支えた、ハードウェアであるインテリアや設備と、ソフトウェアである料理やサービスの両面から紹介する。当時、国際航路での評判は、国威を賭けたものであり、それらは、日本国内の水準を大きくしのぐものとなっている。
いろいろな意味で興味を惹くテーマだが、考えてみれば客船というのは、「交通機関」であると同時に、その規模感からすると建築物並のスケールがあるワケで、「乗物」と「建物」の両方に趣味がある向きからすれば、とても関心がわくのもうなづける。さらに、舶用機器というジャンルがあるように、船上の設備はサイズや耐久性等制約も多く、その設計は地上のものより難しい。
機能とデザインの両立が求められるということは、モダニズムの頂点ともいえ、アールデコから未来派と続いた時代の先を感じさせる世界となっている。豪華客船で旅行したいとは思わないが、これは「乗り鉄」でないのと同じコト。建築を眺めるのと同じような視点で見ると、船舶も面白いということを改めて感じさせてくれた。



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