Gallery of the Week-May.12●

(2012/05/25)



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近代洋画の開拓者 高橋由一
東京藝術大学 大学美術館 上野

明治の洋画創成期を代表する、高橋由一の生涯を展望し、その業績を紹介する企画展。「鮭」はあまりに有名だが、それ以降ポピュラーになった洋画の油絵とは全く異なる、独特な画風については、作品の知名度に比べると、そのルーツが語られることはあまりない。そういう意味では、高橋由一は、すでに幕末期に画家として活躍しており、最初から洋画の油絵を模倣したのではなく、日本画の基礎が出来上がっているところから、油絵の手法を取り入れて画風を築いたことがよくわかる。
たとえば、戦前のヨーロッパのジャズミュージシャン、あるいは70年代ぐらいまでの東欧のジャズミュージシャンは、本場アメリカのトレンディーなジャズに接していたわけではないので(戦前の日本の方が、文化の伝統から米国を見下したヨーロッパより、よほどアメリカの大衆文化に接するチャンスがあった)、みようみまねで独特な「ジャズ」が進化を遂げた。これと同じで、システマティックな教育を受けたワケではなく、また、限られた情報しかない中で、高橋流ともいえる、油絵の具を使うが、独自の世界が構築されたプロセスを見て取れる。
それは、画面のサイズや形式にもいえる。一般的なキャンバス以外の材料に描いた絵が多いだけでなく、そのサイズも、定型的な版型ではなく、あたかもハイビジョンサイズやシネマスコープサイズを思わせる横長スタイルの作品も多い。そのスケールを活かして、広がりのある風景がを描写する発想も、形式を学ぶことから絵の道に入ったのではないことのメリットを感じさせる。
さて、地下会場は風景画なのだが、これがびっくり。明治10年代東北地方を治め、数々の新道を整備した、三島通庸県令の委嘱により、これらの道路を記録した石版画が展示されている。その中には、廃道マニア、廃隧道マニアにはおなじみの「万世大路」や「栗子隧道」をはじめとした、今はなき幻の道の開通直後の様子が活き活きと描かれている。そういう意味では、「オブローダー」の皆さんにも、ぜひ見ていただきたい展覧会である。



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光の造形〜操作された写真〜
東京都写真美術館 恵比寿

平成24年度の東京都写真美術館コレクション展は、写真の技法と表現にスポットを当てた「光と影の芸術 写真の表現と技法」をテーマとして展開される。その第一弾として開催されるのが、この「光の造形−操作された写真」である。コレクション展は、今後「自然の鉛筆 技法と表現」、「機械の眼 カメラとレンズ」と続く予定になっている。
この展覧会では、ちょっと前まで写真といえば常識だった(もっといえば、今でも銀塩写真については常識であるが)、ロールフィルムとハンディーカメラによる撮影が確立する以前の段階において、写真の表現の幅を広げ、新しいタッチを生み出すために試みられた数々の技法について、それを用いた代表的な作品を通して振り返っている。
具体的には、彩色写真、フォトモンタージュ、コラージュ、多重露光、リフレクション、ピクトリアリズム、トリミングである。印画紙のプロポーションと画面のプロポーションが異なるロールフィルムでは、引き伸ばして作品化するには、ある意味トリミングされることが必須であるが、4×5、8×10といったシートフィルムやガラス乾板が常識だった時代は、コンタクトプリントが基本だったからこそ、トリミングが技法になるというのは、もう少し説明が必要だろう。
いずれにしろ写真の歴史においては、彩色写真がカラーフィルムの実用化と共に極めて特殊な表現になったように、写真技術の発展に従って、それまでの技法の持つ意味が変わってきた。コダックの倒産に象徴されるように、写真のデジタル化がほぼ完成した今だからこそ、もう一度写真の技法の歴史を棚卸して、新たな意義を見つめなおしてみるタイミングだといえるだろう。



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NEWSmart「汐留鉄道クラブコラム展」
共同通信社ギャラリーウォーク 汐留

このゴールデンウィークは、各地で手を変え品を変え、鉄道関連イベントが花盛りだったが、これも広義の関連企画。共同通信社が配信する携帯ニュースサイト「NEWSmart」の中のオンラインコラム「汐留鉄道クラブ」で取り上げたコンテンツから、選んだ写真と記事を展示するもの。このコーナーにふさわしいかはさておいて、GW進行ということでお許し願いたい。
記事は、鉄道ファンである共同通信の記者・カメラマン達が持ち回りで、自分のこだわりのネタをまとめたもの。それぞれ、地域も領域もさまざまである。最近、日経新聞や朝日新聞では、明らかに「鉄記者」の手になるものと思われる、鉄分の多い一般記事も多いが、こちらばまさに「趣味と実益を兼ねた」記事である。
とはいえ、実際に配信される記事には違いなく、写真にしろ、文章にしろ、趣味誌的な世界とは一味違う。文章については「鉄記事」とは逆に、テーマこそ「鉄」ではあるが、記事としての客観性を担保すべく、妙にクールなのが面白い。写真もそうで、携帯配信ということもあるのか、過剰にライティングにコダわる最近の鉄道写真とは違い、対象をキチンとしたタイミングで捉えることを第一にした構図になっている。
回廊に沿った小展示ではあるが、見る人によってそれなりに発見があることも確かだ。発見といえば、1995年に撮影された、阪神大震災からの復活初電の写真だけが、カラーネガで撮影されたカットで、この20数年の間に報道写真も、モノクロ→カラーネガ、デジタルと、それまでの一世紀から一変して、急速な変化があったことに、改めて気がつかされた。



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鉄川与助の教会建築
LIXILギャラリー 京橋

今年の3月1日より、親会社の合併により名称を変更し、LIXILギャラリーと改めた、かつてのINAXギャラリー。新スタートとなる展覧会は、前と同様のコンセプトで、建築にスポットを当てた展示である。そのテーマは、鉄川与助。97歳という長寿を通じて、明治、大正、昭和の三時代に渡り、九州地区の教会建築で圧倒的な存在感を放った建築家である。
長崎の五島列島で、代々の大工の棟梁の家系に生まれた彼は、ひとり立ちした時期が、ちょうど明治に入り信仰の自由が認められ、隠れキリシタンたちが外国人神父の下、その信仰を再び公のものとした時期と重なっていた。このため、宣教師たちのディレクションによる教会建築に従事することが多く、自然と教会建築の第一人者となった。
今世紀に入ると、建築会社を起し、多くの教会やキリスト教関係の建築物を手がけた。戦前に30棟以上の教会を建築し、その多くが現存、4棟は重要文化財に指定されているという。不勉強なことに、実は今までその存在を知らなかった。それ以上に、長崎県には隠れキリシタンの歴史があることは知っていたものの、これほどまでに濃密に、すばらしい教会が建設され、今も残っていることが驚きである。
もちろん、離島の寒村の礼拝堂が多く、規模こそこじんまりとまとまったモノが多いが、どれも充分な荘厳さをもった空間を形作っている。それは、同じようにヨーロッパの村の中心に立ち、集落の求心力となっている教会にも、全くヒケを取らない存在感である。それを、ほぼ独学で、短期間の間にマスターしてしまった鉄川与助という存在は、まさに神懸りである。彼の信仰心については全く触れられていなかったが、これらの作品群をみると、そのアタりも大いに気になるところである。。



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