Gallery of the Week-Jul.12●

(2012/07/27)



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クラインマイスター:16世紀前半ドイツにおける小画面の版画家たち
国立西洋美術館 上野

ベルリン国立博物館展に連動し、常設展示内の「版画素描展示室」で開催されている特別展。16世紀前半のドイツでは版画が隆盛を誇ったが、その中でもクラインマイスターと呼ばれる、今でいうカード大、切手大の小さな細密版画の作家は、独特の世界を作り出し、大いにもてはやされた。その活躍の跡を、館蔵作品でつづる展覧会である。
ドイツなどのゲルマン地域では、中世を通して、カトリックや中世文化の主流だったラテン諸国とは違う、独特の文化を持ち続けてきた。ある意味、もみの木も雪もありえないところで生まれたはずのイエス・キリストの誕生日が「クリスマス」になってしまったのも、現世で与えられた運命を勤勉に生きることが、神の思し召しに近づくことになるという、プロテスタンディズムも、こういう異文化のぶつかり合いがなくては生まれなかった。
そういう意味では、16世紀のドイツの文化というのは、極めて興味深い。そういう目でこれらの作品を見ると、そもそも題材も当時のイタリアなどでもてはやされた宗教的ストーリーではなく、もっとファンタジー・オカルトの入った、土着的な要素満載のものであるコトに気付く。サイズ的にもカードサイズだったりすると、絵柄だけ見る分には、まるでタロットカードか、遊戯王のカードである。
ある意味、ヨーロッパにおけるドイツのプレゼンスは、やはりこの土着性の濃さであろう。これが、イギリス・フランスといった西方へは威圧感となるとともに、東欧やスラブといった東方へは親近感を生み出すのではにあだろうか。あまりに実感することが少ない世界なので、この目で見ると、非常にインパクトのある作品である。そういうことで、あえて一項を立てさせていただいた。作品が小さいためにコンパクトだが、見て決して損のない展覧会である。順序が入れ替わってしまったが、夏休み進行ということでお許しを。



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諸河久写真展 「電車道」〜日本の路面電車今昔〜
キャノンギャラリーS 品川

現役鉄道写真家では大御所の一人、諸河久氏が、かつて学生・アマチュアだった1960年代に、趣味として撮り貯めた、当時残っていた路面電車全路線のカットから選りすぐった「昔」の作品と、その中で今も残る路線を新たに撮影した「今」の作品を組み合わせて構成する写真展。意外にも、諸河氏としては初の個展なのだそうだ。
諸河氏というと、極めて正攻法の鉄道写真のスタイルをキープしながら、その中にきちんと個性やオリジナリティーを打ち出してくる、ストロングスタイル、あるいは横綱相撲というべき作風で知られている。その分、一般メディアにシンプルな広報用写真として使われていても、氏の作品だとすぐわかる。それが、みんな奇をてらいだした、SLブーム末期の鉄道写真の中では、強力な個性となって輝いていた。
しかしその一方で、鉄道趣味界においては、諸河氏の原点が鉄道模型が原点にあることも知られている。アマチュア時代の作品を核とした今回の写真展は、そのシュアな視線こそ共通しているものの、構図や絵作りにおいては、より趣味人としての原点を感じさせるものとなっている。特に路面電車の写真においては、街並やそのに生活する人々が欠かせない。画面の端々に写っている、それらの一つ一つにワクワクしてしまうのは、こちらがジオラマ屋さんだからだろうか。
そして、それを表現するのに欠かせないのが、デジタル技術である。光学・アナロク技術で大伸しをする限り、中央部も周辺部も同じレベルの解像度をキープすることは難しい。しかし、デジタルでスキャンしプリントするのであれば、フィルムの端っこでも同じレベルで画像化できる。まさに、ファインダーで見たのと同じ情報量をキープしたまま、大伸しができるようになってはじめて、これらのネガが真価を発揮したということもできるだろう。



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日本橋〜描かれたランドマークの400年〜
江戸東京博物館 両国

江戸東京博物館の開館20周年記念として開かれた、慶長8年(1603)の架橋以来、400年に渡って江戸・東京の象徴となってきたとともに、現行の橋も100周年を迎えた「日本橋」をテーマとした展覧会。浮世絵、絵葉書、写真等の画像資料を中心に、130点の館蔵資料で400年の流れを振り返る。
それらに描かれているのは橋だけでなく、人々の暮らしや街並の活気なども、各時代の動きを反映したものであり、日本橋の定点観測を通じた、江戸・東京の歴史のレビューという面にも気を使ったキュレーションとなっている。このあたりは、各時代を象徴する時代資料も効果的に使われている。
全体的な展示は、江戸東京博物館の常設展の延長という雰囲気ではあるが、アートファンから見ても興味を引く要素がある。それは、同じ「日本橋」というテーマが、浮世絵の歴史の中で各時代毎にどう描かれてきたかを通史的にみる展覧会にもなっている点である。風景画浮世絵は、対象物が同じ分、似たような表現を繰り返していたのでは、商業的に成り立たなくなってしまう。
おいおい、より斬新でインパクトのある構図や画風を求めることになる。これを、同じ主題で見比べられるという趣向は、なかなか斬新で面白かった。また、肉筆画でも、普段美術館では紹介されないような、からくり見世物系で使用された作品など、江戸時代の庶民文化の深さを感じさせる魅力がある。



7/1w
ベルリン国立美術館展 学べるヨーロッパ美術の400年
国立西洋美術館 上野

プロイセン帝国の国家的作品蒐集事業に基づくコレクションは、その強大な経済力と威信をかけた壮大な規模を誇り、近代ヨーロッパにおける美術館・博物館のあり方の規範を作った。中でも美術コレクションは、中世〜近代のヨーロッパ美術を網羅するものであり、それが現在のベルリン国立美術館の基礎となった。
今回の展覧会は、絵画館、彫刻館、素描版画館から、15世紀から18世紀にわたるヨーロッパ美術の歴史を、当時の美術の中心だった、イタリアと北方を対比する形で紹介するとともに、その時代のドイツの美術も加えた幅広い展示となっている。これにより、近代に至る美術史を通観するとともに、ベルリン国立美術館のコレクションの幅広さも味わうことができる構成となっている。
特に、15・6世紀の各種彫刻を含む宗教美術やドイツの彫刻などは、余り紹介されることがないジャンルであり、木彫の彫刻と日本の仏像との類似点など、いろいろ新鮮な発見が多い。そういう意味では、すでに知っている「美術史のメインストリーム」をなぞるという意味での通史的展示ではなく、ドイツから見た視点ならではの、ワキ道・ウラ道をしっかり見せてくれるところが興味深い。
そして、やはり日本人には人気の高いフェルメールである。これゆえ、都美館のマウリッツハイス展で、さらに2点揃ってしまってからではズル混みになる危険性が高く、その前にこっちだけでも見ておこうと、平日の朝一での鑑賞と相成った。これは正解で、修学旅行の中学生がちょっと目立つぐらいで、楽々、じっくり楽しむことができた。まあ、夏休みに入ったら、こうはいかないだろうが。



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