Gallery of the Week-Sep.12●

(2012/09/28)



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第7回写真「1_WALL」展
ガーディアン・ガーデン 銀座

毎回、いろいろな意味で興味をひかれる「1_WALL」展。今度は、第7回写真「1_WALL」展である。いつも時代やその先を考えさせてくれる意欲的な作品が多いのだが、今回はちょっと驚いた。そこにあるのは、景色なのだ。写真が、窓なのだ。何かを感じようとして、ハタと困ってしまった。
確かに、被写体がインパクトがあることも確かだ。しかし、強烈な個性を放つ被写体を前に、それ以上の個性を持ってそれを切り取り、まさに個性のぶつかり合いとでもいえるような作品を創りだすフォトグラファーも多かった。というより、そういう異種格闘技戦のような迫力が、かつて写真の見所だった時代もあった。
なんていえばいいのだろうか、まるで「景色のセルフポートレート」みたいに感じてしまう。桐生氏の「文身」など、解説を読むまで、まさに作者のセルフポートレートだと思っていたし。それはそれでいいのだし、立派な作画意図であることは間違いないのだが、ぼくらのような世代の人間からすると、強烈な肩透かしをカマされたような感じである。
しかし、それはそれで世代的に刷り込まれたものの違いだ。「透明な自分」を表現したいのであったとするのなら、これほど「透明感」のある作品群は今までなかったろう。そういう意味では、きちんと時代の空気を反映している作品であることは間違いない。「透明な存在」でおなじみの酒鬼薔薇聖斗は、1982年生まれと、世代的には今回の作者たちのど真ん中に入っていたりするのも事実だし。



9/3w
建築を彩るテキスタイル展 −川島織物の美と技
LIXIL ギャラリー 京橋

幕末の1843年(天保14年)、京都で呉服業として創業した川島織物は、近代日本社会の波乱の中を乗り切り、今も川島織物セルコンとしてインテリア織物を中心に盛業である。そのカギとなったのが、近代化と西洋化の波が押し寄せた明治期に、ピンチをチャンスとして業容を拡大、事業の基盤を固めた二代目川島甚兵衞の、第二の創業ともいえるイノベーションだ。
この変化は、単に川島織物という一企業の存続発展だけでなく、日本の織物が、世界のインテリア界でなくてはならない高級材料としての地位を確立したプロセスでもある。このこの展覧会は、その二代目甚兵衞世界への活躍の跡と、日本の高級織物が世界に認められてゆくプロセスを振り返る企画展である。大きく謳われているわけではないが、川島織物のLIXILグループ参加記念という色合いも持っている。
ポイントは三つある。一つは、頭打ちになった国内の呉服市場をあきらめ、ジャポニズムがブームになった欧米に、和風インテリアとして織物を販売する戦略に転換したこと。次に、それを製品として実現するため、新たな工場を建設するとともに、デザイン開発を行なう考案部を設置したこと。最後に、万博出展を活用し、海外に独自の販売網を構築するというマーケティング戦略をとったことである。
狭い会場に対し、大きな製品というジレンマながら、よく多様な内容を消化した展示になっているといえる。また、美術史、工芸史だけでなく、企業史、産業史的な視点からも興味深い展示となっている。LIXILグループとしても、高級インテリアブランドは少ないので、それを強調し、LIXILグループの付加価値を高めて行きたいという意欲は感じられる。



9/2w
日活映画の100年 日本映画の100年
東京国立近代美術館フィルムセンター 展示室 京橋

1912年9月、日本映画の創成期に活躍した4社が統合し、「日活」こと日本活動写真株式会社が設立されて100年。映画の世紀だった20世紀を、波乱万丈に駆け抜けてきた日活の歴史にスポットライトを当て、そのドラマチックな歴史と、日本映画をめぐる状況を振り返る企画展である。
日活という会社自体、あるいは日本映画自体が激動の変化の中にあったこの時代を、第1章 日活参上!―向島の時代、第2章 京都―“目玉の松ちゃん”から時代劇全盛期へ、第3章 多摩川―リアリズムを求めて、第4章 復活―“アクション”と“青春”の日々、第5章 模索―ロマンポルノの時代、第6章 現代の日活という、6つの章で構成して振り返る。
日活の歴史自体が、順風満帆の中での成功というよりは、映画界の栄華衰勢の中で、危機と起死回生の大成功を繰り返す、極めてヤクザで荒っぽい軌跡である。それが、常に社会にインパクトを与える、エッジなエンタテイメント性を生み出す源になっていたかのようである。映倫を生み出したのも日活なら、ロマンポルノで当てたのも日活なのだ。
そういう意味では、ぼくらの世代からすると日活の代名詞とも言える「ロマンポルノ」のコーナー。内容的にはポスターやスチルだけなので、どうって言うこともないのだが、エロ本屋のアダルトコーナーよろしく、ピンクのカーテンで仕切って、わざわざ18禁にするアタりは、この手の展覧会の企画のワリには、オチがついていてついニヤリとしてしまう。「昭和の大衆文化」を考える上でも、好企画といえよう。



9/1w
マウリッツハイス美術館展 オランダ・フランドル絵画の至宝
東京都美術館 上野

小規模ながらオランダを代表するフランドル絵画のコレクションで知られる、ハーグにあるマウリッツハイス美術館が、今年から大規模な改修工事に入る機会を活かし、その代表的コレクションを東京都美術館のリニューアル記念展として紹介する展示会。保有するフェルメール3作のうち2作品、レンブラント6作品など、17世紀フランドル絵画の名作50点を紹介する。
会場は、「美術館の歴史」「風景画」「歴史画(物語画)」「肖像画と『トロニー』」「静物画」「風俗画」という6部構成からなり、限られた点数ながら、フランドル絵画とはどのようなものかを、わかりやすく網羅的に見せてくれる。もともと、個人の邸宅を改造した美術館ということだが、コンパクトに凝縮して見せる分、濃い展示になっている。
改めて見てみると、プロテスタンティズムや産業社会など、ゲルマン・アングロサクソン系の文化の台頭とともに、近代ヨーロッパが起ち上がる大きな変化が起こったわけだが、アートの分野でも、同じようにこの時代に近代への萌芽が生まれてきたことがよくわかる。ちょうどこの時代は、日本においては、鎖国の完成とともに、オランダによる欧州貿易の独占が始まった時代でもあり、なかなか感慨深いモノがある。
さて、人気の「真珠の耳飾りの少女」は、特別室の中で、ディズニーランドよろしくロープで区切られた待ち行列用スペース付きで展示されていたが、時間を選んで行ったので、ほとんど待たずに、けっこうゆっくりと見れたりした。会場に入るのも、ノーストレスだったし、やはりこういう読みには経験値がモノをいうようだ。8月中に訪問したが、夏休み進行で、9月の記事とさせていただいた。



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