Gallery of the Week-Nov.12●

(2012/11/30)



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市川團十郎 荒事の世界
千代田区立日比谷図書文化館 日比谷

千代田区立日比谷図書文化館の開館1周年を記念して行なわれる、市川團十郎家と荒事に焦点をあてた企画展である。市川家の全面的協力の下、実際の衣裳や小道具、江戸時代からの浮世絵や書籍、歌舞伎写真家として知られる小川知子氏の写真により構成されている。
内容的には、十二代続く市川團十郎の歴史と、團十郎家のお家芸である「歌舞伎十八番」の紹介を軸として展開される。特に、手に取れるような至近距離で実際の歌舞伎衣装を見られるというのは、逆に小さな会場を逆手にとって活かした魅力ということができる。
昨今、また歌舞伎がブームになっており、良きにつけ悪しきにつけ話題となることが多い。もともと、世界観も歴史も奥深いものを持っているので、単に芝居を楽しむだけでなく、いろいろな歌舞伎マニアが現れている。そういう意味では、ディープなファンもライトなファンも、それぞれ楽しめる展示になっている。
会期末に近いことや、隣接する日比谷公園が紅葉シーズンに入ったこともあるのだろうが、シニア層の女性を中心に、狭い会場にはかなり観客が目立つ盛況であった。内容的にも、コンパクトなワリには充分に見所のあるものであったといえよう。



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Artbility meets 10 designers
10人のグラフィックデザイナーとアートビリティアーティストによるコラボレーション
クリエイションギャラリーG8 銀座

「アートビリティ」とは、障害者を雇用した印刷事業をおこなってきた「社会福祉法人東京コロニー」が、1986年からはじめられたアートバンク活動である。障害者アーティストの持つ才能を活用し、自立・社会参加を促すことを目指し、現在では約200名の作家による3000点以上の作品がストックされた芸術ライブラリーとなっている。
登録している作家達は、何らかのハンディキャップを持っているものの、作品を通して社会とつながり、ポスターや冊子といった印刷物などに使用され、その利用料を得て活躍している人も多いという。また、作品は審査を経た上で登録されるシステムとなっており、単なる障害者アートとは一線を画すクオリティーをキープしているとのことだ。
今回の展覧会では、10名のグラフィックデザイナーが、アートビリティの登録作家の作品を用いて、ポスターとブックカバーを制作するという、コラボレーション作品がメインの展示となっている。同時に、主要なアートビリティ作家の原画の展示も行なわれている。
知的障害系のエイブルアート作品は、ミクロな着眼点やモチーフにとてもユニークな輝きがあるものの、全体の構成力に弱さがあるものも多い。精神障害系の作品はその逆のものが多いのだが。今回の作品は、そのマクロ的構成にプロのデザイナーの力を借りることで、モチーフを活かした完成度の高い作品に昇華している。これが、仕事としての社会的アイデンティティーを築かせるというアートビリティーのコンセプトの具体化ということなのだろう。とても興味深い試みといえよう。



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琵琶湖をめぐる 近江路の神と仏 名宝展
三井記念美術館 日本橋

古くは近江国として知られた滋賀県は、日本一の琵琶湖を中心に、その周囲を山脈で取り囲まれ、関西圏でも独特の存在感を持つが、歴史的には古くから畿内と日本海、東国を結ぶ交通の要衝であり、渡来人が多く住みつくなど、独自の文化が花開いていた。また、その風土を活かし、宗教的な聖地も多く存在し、宗教という面でも重要な土地となっている。
今回の展覧会は、このような近江の宗教文化にスポットライトを当て、古代から中世までの仏教・神道美術の世界を再現するものである。延暦寺、三井寺、石山寺などの名刹を含む42の古社寺から選ばれた、国宝6点、重要文化財56点を含む100点以上の名宝が、「小金銅仏・金工品」「仏像・神像」「絵巻・経巻」「仏画・垂迹画」という分類で展示されている。
その展示物は、質・量ともに圧巻であり、法隆寺や東寺といった国宝・重文にあふれた寺院の宝物展時にもひけをとらない。これらが、一部の大社寺だけではなく、地元の信仰を集めるローカルな社寺を含めて収蔵されているというのだから驚かされる。さすがに滋賀県は、東京、京都、奈良に次ぐ(これらは博物館収蔵品も多い)国宝・重文のラインナップを誇るだけのことはある。
それだけに、歴史的な宗教美術品というだけでなく、みていると崇高な気分にさせてくれる感さえある。これで賽銭箱が置いてあれば、ご利益満点であろう。さすがに、その風土自体がいにしえから「パワースポット」として信仰を集めた近江の国だけのことはある。こういう展覧会も、なかなかいい。三井記念美術館の重厚な雰囲気ともマッチしている。



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横尾忠則 初のブックデザイン展
ギンザ・グラフィック・ギャラリー 銀座

1960年代から70年代にかけて、日本でもアングラと呼ばれたカウンターカルチャーが開花した時代。まさにその時代の空気を画像化したかのように、グラフィックデザイナー、イラストレーターとして時代の顔となった横尾忠則氏。その活躍は、もはや国際的なアーチストとして高く評価されている。彼の個展は、世界中で開催されているが、今回はブックデザインに絞った初の個展である。
横尾氏は、ポスターや、絵画、イラストレーションなど多くの作品を残しているが、書籍や雑誌に関するデザインは、そのコンテンツの中身とも深く絡み合い、彼のデザイン作品の中でも、とりわけ高度な小宇宙を構成している。その世界を、現物の本や雑誌、をはじめアイデアスケッチ、版下、指定紙、校正刷りなどにより紹介する。
作品を見てゆくと、本や雑誌のコンテンツと一体化した世界を創造するため、多種多様な技法やモチーフを縦横に活用しているのことを発見できる。多分、ブックデザインには、一番多くの「引き出し」を用意して対応していたのだろう。それでいながら、一目でそれとわかる個性と世界観をきっちり打ち出していることのスゴさを改めて感じさせてくれる。
一つ一つが濃厚な横尾ワールドのオーラを放っている本や雑誌を、ギンザ・グラフィック・ギャラリーの2つのフロア一杯にあふれかえる。このインパクトは、同ギャラリーで行なわれた展覧会の中でも、一・二を争う強烈さである。会場のデザインやレイアウトも秀悦で、いつもより会場が何倍か広く感じられさえする。



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神話のことば ブラジル現代写真展
資生堂ギャラリー 銀座

この展覧会は「神話」をテーマに、クラウディア・アンデュジャール、ルイス・ブラガ、ホドリゴ・ブラガ、ジョアン・カスティーリョ、エウスタキオ・ネヴェス、ケンジ・オオタとシア・デ・フォトという、現代ブラジルの6人と1組の作品を展示する企画展である。各アーティストがギャラリーの各壁面を担い、映像作品や組写真を出品している。
ブラジルというと、日本から地球の反対側ということもあり、地球の果てで何でもありな魑魅魍魎の世界というイメージが強い。もちろん、高度経済成長を遂げるBRICsの一翼としても知られるが、なんせ国土が広い上に、人跡未踏の地もありそうな感じがする分、世界そのものが一国に凝縮されているように思われがちである。
しかし、多様な民族や文化が集い、そのごった煮になっているという意味では、それはまんざら外れではない。その中には、グローバルレベルでの最先端の文化もあるだろうが、我々のあずかり知らなかった、独特の世界もあるはずだ。しかし、それらが日本に紹介される機会は稀である。彼の地の現代アートに触れられるというだけでも、なかなかスリリングな体験である。
もちろん、これはブラジルの現代アートの、それも写真のごくごく一部でしかない。それでも、充分に不思議な印象を与えてくれる。新興国の経済が、これからどういうカタチで世界経済を引っ張ってゆくのか興味津々なように、ブラジルのアートも、これからどこに向かって進んでゆくのか、大いに興味をそそられるところである。



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