Gallery of the Week-Dec.12●

(2012/12/28)



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成田へ−江戸の旅・近代の旅−
旧新橋停車場「鉄道歴史展示室」 新橋

成田山新勝寺は、2泊3日程度の小旅行で気軽に行ける江戸に近い行楽地として、江戸時代から庶民の間では観光地として人気があった。特に、深川で何度も行なわれた出開帳により、成田山の知名度は高く、「成田屋」市川団十郎の不動信仰が篤かったこともあり、成田山への参詣は、観光の定番となっていた。
それが、今のような「初詣」の人気スポットになったのは、鉄道の影響が大きい。実際、元旦や三が日に有名社寺にお参りするという初詣の習慣自体、鉄道ができて日帰りの参詣が可能になってはじめてひろまったものである。というより、鉄道会社、特に沿線に有名社寺を持つ電鉄会社が、誘客キャンペーンとして作り出した習慣である。
そういう意味では、成田山がいまのブランドを築いたのは、鉄道の影響ということができ、特に、明治時代の成田鉄道をめぐる日本鉄道と総武鉄道の競争、昭和に入ってからの京成電鉄と国鉄の競争といった、ライバル同士の熾烈な競争が、結果的に成田山の存在を大きくした。
実際展示も、古墳時代から始まるものの、中心は明治期・昭和期の、鉄道間での誘客競争の部分にある。そういう意味では、内容的にも「鉄道歴史展示室」にふさわしい企画であるということがいえ、とってつけたような無理はない。それにしても、展示品の半分ぐらいが、白土貞夫氏のコレクションである。そういう視点から見ても、なかなか面白い展示といえる。



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この世界とわたしのどこか 日本の新進作家vol.11
東京都写真美術館 恵比寿

12月に入り、年末が近づいたので、多少イレギュラーな進行とさせていただく。よって、今週は2週分・2段積み。「日本の新進作家」は、東京都写真美術館が写真・映像の可能性に挑戦する将来性のある作家を発掘し、創作・発表の機会を提供する場として毎年行なっている展覧会であり、今年が11回目になる。
今回は、香港写真芸術協会とタイアップし、同じ内容で日本の現代写真家を紹介する展覧会を、10月に香港で開催したという。 菊地智子氏、田口和奈氏、笹岡啓子氏、大塚千野氏、蔵真墨氏という、今活躍している新進作家5人を取り上げている。
興味をひかれるのは、絵画を撮影し作品化する田口氏、フォトショップを駆使して作品を創り上げる大塚氏はさておき、残りの3名の作品は、極めてオーソドックスな写真である点だ。それぞれ、人物や景色を、真っ向から正攻法で捉えた作品である。技術と被写体こそ現代のものだが、作画意図はエバーグリーンなものだ。
ある意味、これは技術とそれを受け入れ鑑賞する社会の側が充分に熟成され、デジタルも銀塩も変わらなった(あるいは、デジタルが写真の常道になった)コトの証なのだろう。気付けば東京のタクシーは、みんなオートマミッションになっているが、何かが変わったわけではない。それと同じで、それだけデジタルがデファクトスタンダードになったということなのだろう。



12/2w
北井一夫 いつか見た風景
東京都写真美術館 恵比寿

日本を代表する写真家の一人である北井一夫氏は、世の中の流行やトレンドと関係なく、独自のキャリアを積み、独自の視点を築いてきた写真家として知られている。この展覧会は、北井の学生時代の作品から現在の最新の作品まで、代表的な作品を網羅し、その活動を回顧するものである。なんと、美術館における氏の初めての個展であるという。
会場は、「抵抗」、「バリケード」、「三里塚」、「いつか見た風景」、「村へ」、「新世界物語」、「フナバシストーリー」、「お天気」、「1990年代北京」、「ライカで散歩」と、各時代順に、組写真、写真集ごとに構成され、みるものを北井ワールドヘとひきこんでゆく。
学生時代など、ごく初期の作品が60年代半ばの作品であることを除けば、基本的に70年代、80年代以降の作品で構成されている。ぼくらの世代にとってもまさに同時代、実際に目にし、肌で風に触れてきた風景であるはずだ。おまけに、ぼくにとっては、中高時代から写真撮影してきたので、実際にファインダー越しに目撃した時代でもあるはずである。
しかし、このフィクション感はなんだろう。そこにあるのは、当時へのノスタルジックな追憶ではなく、現代の立ち位置から見た「いかにもレトロな昭和」である。テクニック的には、当時としてもレトロで浮いていたものを巧みに切り取る構図ということなのだろうが、解説にいう「どこか懐かしく、それでいて新鮮な印象」というのがそれなのだろう。具象的な写真で、現実とは別のストーリーを組み上げる。北井氏のスゴさは、そのストーリーテラーとしての才能にあるのだろう。



12/1w
テセウス・チャン:ヴェルク No. 20 銀座
THE EXTREMITIES OF THE PRINTED MATTER
ギンザ・グラフィック・ギャラリー 銀座

テセウス・チャンは、シンガポールを拠点に活動するデザイナー・アーチストである。1986年に美大を卒業した後、広告会社において、デザイナーやアートディレクターとして10年ほど活躍した後、1997年にデザイン・オフィスWORKを設立して独立した。2000年には、独創的なプリントメディアである「WERK」を創刊し、自ら活躍の場を創造した。
その活躍は、シンガポールの国宝と今や賞賛され、国をあげてデザインの興隆を目指す、シンガポールのクリエイティブ・シーンの中心となっている。今回の展覧会は、開催に合わせて製作された「WERK」20号を中心とする世界を、ギンザ・グラフィック・ギャラリー全体を活かしたインスタレーションとして構成したものである。
「WERK」は決まったカタチを持ったグラフィクマガジンではなく、毎号毎号、テーマに合わせて変幻自在なスタイルで登場する、まさにアート作品としてのメディアである。会場は、1階が今回の展覧会のために作られた20号の、地階がそれまでの19号の、それぞれ作品性を立体化したインスタレーション作品となっている。
ある意味、デザインはファインアートの世界と異なり、天才の構築した世界が、百年後に評価されるというモノではない。優れたデザインが成り立つためには、時代や環境が受け入れ、理解されていることが、何よりも命となる。そういう意味では、周囲の活きの良さが、デザインのパワーを規定する。こういう世界が現れてくるということ自体、中華圏、そして東南アジアの勢いを象徴しているということになるのだろう。



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