Gallery of the Week-Jan.13●

(2013/01/25)



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第7回 shiseido art egg #1 three展
資生堂ギャラリー 銀座

資生堂ギャラリーが主催する、新進アーティストに個展の機会を与える公募展、shiseido art eggの季節となった。このコンテストは、今年で第7回目を迎える。今回も若手アーティストを中心に300点近い応募があり、その中から、久門剛史氏、ジョミ・キム氏、川村麻純氏の3氏が入選となり、個展開催の権利を得た。その第一弾として、久門剛史氏の個展が開催された。
氏の作品は、ギャラリー全体を使って展開される、家とオフィスを想起させる大型インスタレーションの上で、コンピュータ仕掛けの音や光が、15分単位でパフォーマンスを繰り広げるというものである。これをどう評価するかは、見ている当人の立ち位置により大きく変わってくるだろう。スタティックな作品で表現を行なっている人々にとっては、ある種、禁じ手、反則ワザと見えるかもしれない。
一方、音楽や演劇など、基本的に時間軸に沿って展開する「パーフォーミングアート」からすれば、スタティックな芸術を取り込むことはさして特別なことでも、難しいことでもない。現代オペラの舞台装飾など、ほとんどインスタレーション作品としか呼びようのないものもある。スタティックな立体(平面)表現と、時間表現のコラボというのは、決して特別なことではない。
また、機械仕掛けのパフォーマンスというのも、ディズニーリゾートのアトラクションで繰り広げられるレビューを考えれば、エンターテイメントの世界では、さほど珍しいものではない。しかし、絵画や立体の側から、時間への挑戦を試みた習作という意味では、それなりの波紋を投じる効果はある作品といえよう。



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白隠展 HAKUIN 禅画に込めたメッセージ
Bunkamura ザ・ミュージアム 渋谷

白隠慧鶴は17世紀末から18世紀半ばにかけて活躍した江戸時代中期の禅僧であり、500年に一人の英傑として讃えられ、臨済宗中興の祖と呼ばれているように、今に続く禅宗のあり方の基礎を作った名僧である。その一方で、独特の作風を持つ禅画の作者としても評価されている。この展覧会は、禅画家としての白隠にスポットライトを当てた、史上初の本格的な展覧会である。
白隠の禅画は、一万点以上描かれたといわれているが、それらの作品は民衆の教化に用いられたがゆえに、全国の寺院や収集家などに所蔵されたものが多く、鑑賞家の目に触れる機会は少なかった。それゆえ専門家の高い評価の反面、一般的な知名度がさほど高くないという、「玄人好み」の作品であったといえる。
この展覧会では、全国に散在する作品のうち、40数カ所の所蔵者から大作を中心に約100点を展示するものである。それらの作品を通じて、白隠の生涯と、代表的な作品のスタイルを回顧できるように構成されている。白隠の作風は、「いかにも禅画」という枠を大きく逸脱し、漫画や風刺画にも通じるウィットやユーモア、皮肉などを込めた、極めて人間性あふれる表現にある。
江戸時代の庶民も、現代の庶民も、生活環境こそかわっても、その生活気分はほとんど変わっていない。その分、白隠のメッセージはストレートに現代の日本人にもアピールする。禅宗といえば、鎌倉時代から戦国時代にかけては、政治的に大きな影響を持ったこともあり、歴史の教科書にも大きく取り上げられている。しかし、江戸時代の禅宗のあり方となると、ほとんど語られない。その歴史のミッシングリンクを、活き活きと垣間見ることができるという意味でも、貴重な展覧会といえる。



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ポーラ美術館10周年記念展 コレクター鈴木常司「美へのまなざし」
ポーラ美術館 箱根仙石原

年末に箱根の温泉に行ったが、あいにく荒天になってしまったので、観光はできず屋内施設めぐりとあいなった。幸い、世紀の変わり目頃から、箱根には美術館や博物館が増えたので、観光先には事欠かない。子供ができてから、こういう小旅行はほとんどできなかったので、それ以降にできた施設は、行ったことのないところが多い。このポーラ美術館も開館10周年ということで、初めての探訪である。
話には聞いていたが、リゾート地にある美術館としては別格の、本格的な作りの美術館である。館蔵のコレクションも、民間の美術館としては相当に充実している。今回の展覧会は、開館10周年記念ということで、ポーラ美術館の基礎となるコレクションとポーラ美術振興財団を築いた、ポーラ二代目社長鈴木常司氏の足跡を振り返る記念展である。
コレクションの中心は、印象派やエコール・ド・パリなど、19世紀から20世紀にかけての西洋絵画が中心だが、日本や東洋の絵画彫刻、のみならず化粧品メーカーということで、古今の化粧・美容関係の道具や資料なども幅広く集めている。これらを、美術館全館を使って展示している。今回はその第二期として、「モネとポーラ美術館の絵画」と題し、体系的なコレクションを持っているモネにスポットライトを当てた構成となっている。
コレクション自体は、社長を受け継いで間もない1958年にから収集が開始されたが、社会的責任を果たすべく、美術館として公開することを前提に体系的な収集を始めたのは、バブルに向かう1980年代からという。事実上、これほどのコレクションを収集するのは、円高と好景気が重なったその時期が最後のチャンスだったであろう。死後開設されたこの美術館の施設も含め、本当の意味での企業の社会的責任を果たすのは、オーナーでなくては不可能であるということを、改めて感じさせてくれる。



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