Gallery of the Week-Aug.13●

(2013/08/30)



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第11回 はがいちよう展&渋谷クラフト倶楽部展
東京交通会館 ゴールドサロン 有楽町

立体画家、ジオラマ・ドールハウス作家として知られる芳賀一洋氏の作品と、芳賀氏が講師を務めてる「渋谷クラフト倶楽部」のメンバーの作品による立体造形作品展である。ジオラマや鉄道モジュール、ドールハウスをはじめ、額縁の中に3Dのイメージを組み上げた文字通りの立体絵画まで、多様なジャンルの作品が展示されている。
この展覧会は、同じメンバーで毎年行なわれており、このところは毎回訪ねている。ぼくは個人的にジオラマ制作者でもあるし、知り合いも出展しているので、どちらかというとそちらのほう(日本鉄道模型の会)の関係での訪問ということになるが、その感想はこのコーナーに書かせてもらう。
立体絵画と称しているように、ある意味これは模型ではなく表現なので、作品としての完成度が担保されていれば、その手法やタッチは多様でいいし、「正解」を問われることはない。そういう視点がジオラマ作りに入ってくるのは、工学的な要素が強く、美術的な要素が軽んじられるのが日本の模型界の常だっただけに、基本的に良い傾向だと思う。
しかし、ドールハウス系の人は、なんでフィギュアを登場させないのだろうか。世界観を表現するには、人間の存在は不可欠だと思うのだが。まあ、鉄道の場合は「無人の荒野」を作る人もままいるが、プラモ系のジオラマでは、まず皆無なのだが。ところで、日本人はどうしてこういう家元制度というか、師匠-弟子の関係を作るのが好きなのだろうか。この手の世界でも、すでにいくつかの「流派」ができてしまっているが、ぼくなんかからすると、なかなか理解しがたい感覚ではある。



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大宮エリー展
ギンザ・グラフィック・ギャラリー 銀座

映画監督、脚本家、作家、演出家、CMディレクター、テレビ・ラジオ番組のMC・司会、さらにはインスタレーション・アーチストとしても活躍している、マルチクリエイターの大宮エリー氏。今回の個展は、「デザイン」をキーワードとして、多様な彼女の表現世界を、紹介するものである。
1Fの展示室では、今まで7年間の活動を振り返り、舞台、映画、番組、CMなど、主要な作品を網羅的に展示している。タブレット端末を利用して、座ってじっくりと映像作品を見ることができる展示も、ある意味「らしく」て面白い。B1では、全フロアを使用して、オリジナルの大型インスタレーション作品を発表している。
日本語の「デザイン」と、英語の「design」とはかなり意味が違う。英語のdesignは、日本語の業界用語で言うと「企画・プランニング」のほうがニュアンスが近い。コミュニケーション・コンテンツに関わっている人なら、彼此の違いは身をもって感じていることと思う。海外には、ヴィジュアルアイディアは天才的だが、絵自体はさしてウマくないアートディレクターがたくさんいる。
日本の場合、そういうスキルが「一次試験」のようになってしまっている分、海外のようにアイディア一発でステイタスを作るコトは難しい。だから、彼女のように「二物を持っている」タイプでないと、日本ではマルチクリエイターになれないのも事実だ。そういう意味では、デザインというキーワードは、なかなか意味深である。ところで、会場にきていたお客さんは、ほとんど20代の女性であった。彼女たちのカリスマになってるんだろうな。



8/2w
おみやげと鉄道
旧新橋停車場鉄道歴史展示室 新橋

少なくとも日本においては、旅行とおみやげは切っても切れない関係にある。海外旅行に行っても、空港内最後のデューティーフリーショップまで、おみやげを必死に買い求める日本人観光客は、どこに行っても見られる。ましてや、国内観光地となれば言わずもがな。各地の銘菓・名物を買い求める観光客というのは、さぞかし昔からあったのだろうと思いきや、それは決して古い話ではない。
いまのようなおみやげの習慣がうまれたのは、国内の主要都市が鉄道で結ばれ、国内の観光地ならば一昼夜程度で帰り着くことができるようになった、20世紀初頭以降のことなのだ。まさに、狭い国土の中に稠密な鉄道網が敷かれ、交通の便が飛躍的に改善されたからこそ、餅も固まる前に持ち帰れるようになった。初詣が、都市近郊の電鉄会社の隆盛と共に習慣として定着したのと同様、お土産文化もまた鉄道が日本に定着させたものなのだ。
もちろん、それ以前から旅の記念品を中間や知り合いに配る習慣はあった。しかし、そこでもてはやされたのは、神社仏閣のお守りなど、かさばらない品であり、お菓子や食べ物ではなかった。全国区の銘菓がうまれたのは、鉄道網の充実があってのコトなのだ。この企画展は、そんなおみやげと鉄道の密接な関係に注目し、そのながれを振り返るものである。
着眼点は、東日本鉄道文化財団らしく鋭いとは思うが、惜しむらくは、資料が限られることもあったのだろうが、全体としては「旅と鉄道の歴史」を越えるものとなっていない点である。たとえば、「伊勢の赤福」に言及しているが、社会史的、経営史的にもっと深く考察し、赤福が今に残る銘菓となった上で果たした鉄道の役割、みたいなものを掘り下げる手もあったのではないかと思われる点は残念である。




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