Gallery of the Week-Jan.14●

(2014/01/31)



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勝井三雄展 兆しのデザイン
ギンザ・グラフィック・ギャラリー 銀座

勝井三雄氏は半世紀以上にわたって、新しいテクノロジーを積極的に取り入れつつ、アートディレクターとして日本のグラフィックデザイン界をリードしてきた。その活躍は、デザインのみならず、イベントの企画や演出まで、多様な領域に広がっている。今回の展示は、勝井氏の活動の中でも特に重要な位置を占めるエディトリアルデザインに視点を置き、彼の活躍の後を振り返るものである。
勝井氏の残してきた主要な書籍雑誌および関連ポスターを地階に展示するとともに、一階では書籍デザインを発展させた、オリジナルの映像インスタレーション作品を展示している。それらの作品から伝わってくるのは、「ノスタルジックな尖鋭さ」とでもいうような感覚である。あの60年代、70年代をリアルタイムで経験し、その空気を吸った者にしかわからないセンスがそこにある。
考えてみれば、60年代の日本は、まだ決して豊かな社会ではなかった。この前の東京オリンピックは、世界の一流国たらんとして、精一杯の背伸びをして開催したものである。羽田空港から都心部までこそ首都高速道路が開通したが、23区内でも、一歩路地へ入れば、未舗装で下水も完備されず、トイレは汲取、排水はドブに流していた。
要は貧しい社会だったのだ。しかしその分、夢はあふれていたし、未来への希望はあった。成長期の社会とはそういうものである。その時代の勢いが、新しい作品の中からあふれ出てきており、その勢いがなつかしさを感じさせるのだ。逆説的ではあるが、オジさんオバさんの元気の良さがどこから来るのか、ふと考えさせてくれる展覧会であった。



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第8回shiseido art egg 加納俊輔展
資生堂ギャラリー 銀座

資生堂ギャラリーが、新進アーティストの登竜門として開催する公募展、shiseido art eggも回を重ねて第8回。324件の応募の中から、加納俊輔氏、今井俊介氏、古橋まどか氏の3名が入選した。今回はその第一弾として、加納俊輔氏の個展である。
加納氏の作品は、加工したリアルなデジタル写真を素材にプリントし、それをパーツとして使ってオーソドックスなアート作品を構成してゆくところにある。確かに、CG表現においては、テクスチャーを貼り込む表現は、もっとも基本的な技法として定着している。いわば、それをリアルな世界に取りこみ、作品へと創り上げる試みである。
すでに建築模型などでは、写真データを貼り込むことで、表面ディテールの加工に代える表現法が普及している。デジタルデータというとなんかスゴいものと思ってしまう人がまだまだ多いが、デジタルデータを貼り込むなんてのは、いわばぺたぺたスタンプを押すようなものである。テクノロジをベタに使うという意味では、なかなか面白いトライアルとして成功している。
多分、この2〜3年の間に、3Dプリンタを表現ツールとして作品を作るアーティストが間違いなく出てくる。その時のポイントは、「3Dプリンタだからスゴい」ではなく、「スゴいこともできるはずの3Dプリンタを、いかにベタに使いこなすか」にかかっているだろう。そういう意味では、加納氏の作品も、テクノロジをベタに使うさきがけとして、フォロワーが現れてくれるコトを期待したい。

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下野薫子展「Infinite Painting」
ガーディアン・ガーデン 銀座

下野薫子氏は、昨年の3月に行なわれた、第8回グラフィック「1_WALL」のグランプリ受賞者である。もともと油絵をメインに制作していたが、絵の具と筆の代りにデジタル技術を手段として使いこなした独自のスタイルの絵画表現を生み出し、それを生かした作品「reach」でグランプリを受賞した。
下野氏の作品のすばらしいところは、デジタル技術を使っていながら技術におぼれることなく、完全に画材として使いこなし切っているところにある。キャンバスに筆と絵の具で描くだけが絵画表現でないことは、現代美術におけるミックスド・マテリアルによる作品が示している。そういう意味では、この作品は間違いなく「絵画」であり、単なるプリントアウトではない。
デジタルも手段であり画材である以上、そのような新素材の一つでしかない。音楽や映像の世界では、もともとある種のテクノロジを前提としていたこともあって、90年代末から飛び道具ではなく、トラディッショナルなツールの一部としてデジタルを利用することが進み、今やデジタルだから特別ということは何もなくなってしまった。
しかし、ことアートの世界においては、長らくムキ出しのデジタルが大手を振って罷り通ってきた。ぼくなどは、この手のスタディーについては「習作ではあっても作品ではない」と警鐘を均し続けてきたつもりだが、この数年に至って、やっとデジタルを使い切った作品が現れてきた。下野氏の作品は、その中でもその新しい手段を、本当の意味で新しい表現に昇華した作品のひとつといえる。今後の活躍に期待したい。




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