Gallery of the Week-Sep.15●

(2015/09/25)



9/4w
色部義昭:WALL
ギンザ・グラフィック・ギャラリー 銀座

日本デザインセンターでアートディレクターとして活躍する色部義昭氏が中心となって「東京デザイン2020フォーラム」提唱した、2020年に向けた東京の新しい街頭サインをクリエイトするプロジェクト、「TOKYO PROJECT」の発表とともに、色部氏の近年の代表的なサイン計画を紹介する展覧会である。
会場の1Fは、「Tokyo City Font」を核とし、東京をより東京らしく解りやすく見せるための街区表示板を中心としたサイン計画である「TOKYO PROJECT」のプレゼンテーション。B1Fでは、川村記念美術館や市原湖畔美術館等のトータルなサイン計画を紹介する展示となっている。
会場を入ると壁面3面を使って、現行の街区表示板の街頭での様子、「TOKYO PROJECT」で提案している表示が実現した際の街頭での様子を、膨大な数のカットで見せる展示がなんと言っても圧巻。古い家屋、新しいビル。伝統的な表札から、現代的な企業ロゴ。いろいろな街の顔とのマッチングを、実際の街頭風景で見せるその展示は、もはや街頭観察である。
そう、タイポグラフィー、ピクトグラム、街頭観察。と書けば、ぼくのFacebookを見ている方ならピンとくるだろう(FB会員の方なら、「藤井良彦」で検索していただければ出てきます)。これは、個人的に大好物の世界なのだ。FBの読者の方なら、この展示を見て妙にほくそ笑んでいるぼくの姿をご想像しているかもしれない。まあ、そういうのに「いいね」を押していただいている方には、ぜひ見ていただきたい展覧会でもある。まあ、本来の趣旨とはちょっと違うかもしれないが。



9/3w
村上仁一写真展「雲隠れ温泉行」
ガーディアン・ガーデン 銀座

2000年に第16回写真『ひとつぼ展』でグランプリを受賞した村上仁一氏の個展が、公募展入選者のその後の活躍を伝える「The Second Stage at GG」シリーズとしてガーディアン・ガーデンに再び登場する。入賞後、世紀の変わり目の頃より写真界から姿を消していた時期に、日本各地の温泉地で撮影した作品の数々により、この展覧会は構成されている。
主としてモノクロ銀塩フィルムで撮影されたその作品は、そのLook and Feelだけみると、あたかも1970年前後に撮影された作品のように見える。特にその時代をリアルタイムで過ごし、そのような写真を写した経験のある者としては、強烈な既視感とともに、その時代の記憶がよみがえってくるかのような鮮烈さがある。
しかし村上氏は1977年生まれ。当然その時代を知っているわけではない。そして、見れば見るほど、手法自体は共通しているものの、写されている主題は当時の意識とは全く異なり、まぎれもなく現代の視点であることに気付く。そう、写真においてはあまりにも手法と時代のテーマが結びつきすぎているため、手法だけ用いて新たな表現手段として再構成するなどという発想がなかなかできなかっただけなのだ。
このあたりは、写真家としてではなく、写真雑誌の編集者として活躍している村上氏の立ち位置が大きく影響しているものと思われる。デジタル化が行き着くところまで普及した今となっては、銀塩時代の手法の多くはポストプロでの加工を含めればほぼ再現可能である。そういう意味では、機材でなく手法という意味で、古い器に新しい酒が注げること、そしてそれはまた違った味わいがあるコトを具体的に示した作品である。こういうやり方もあるという意味では、銀塩写真は使っているものの、デジタル時代の新しい可能性を示しているといえよう。



9/2w
絵画を抱きしめて Embracing for Painting 「絵画との出会い」
資生堂ギャラリー 銀座

先月から始まった、阿部未奈子氏、佐藤翠氏、流麻二果氏という三人のアーティストが資生堂ギャラリーで繰り広げる三人展「絵画を抱きしめて」も、後半戦に入り、第二部がスタートした。「絵画に包まれて」と題されたPart2もやはり、絵画の意味を現代的視点から再定義すべく、伝統的な手法を踏まえつつ、ポストディジタルの絵画表現のあり方にトライする展覧会となっている。
しかし、その雰囲気はPart1とはうってかわったものとなっている。Part1は、「資生堂ギャラリーらしからぬ美術展としてのオーセンティックさ」が特徴であったが、Part2では「この頃の資生堂ギャラリーさしさ」があふれた展示となっている。要は個々の作品展示ではなく、全体として、いろいろな作品により構成された一つのインスタレーションとなっている。
そういう意味では、これはPart1とPart2を通して見なくては意味がない。本来ならばギャラリールームが二つあり、ギャラリー1とギャラリー2というように、この二つの展示が続けて見られるようになっていたほうが、その真価を発揮するだろう。Part1だけ見たのではなんか保守本流みたいだし、Part2だけ見たのではいつもの展覧会と思ってしまう。
同じメンバーが同じコンセプトで、この二つの表現形態にトライするからこそ、これからの「絵画」のあり方を考え、トライするためのチャレンジングな作品となっている。ある意味、同じストーリーを同じ漫画化が、コミック調と劇画調と両方描いてしまうようなものである。表現の立体的な奥行きがどこまで作れるのか、ある種「心の中を3D的に捉える」ことにも繋がりそうなトライアルといえるだろう。。



9/1w
温泉と文芸と鉄道
旧新橋停車場 鉄道歴史展示室 新橋

このところ、「旧新橋停車場 鉄道歴史展示室」が得意としている、近代日本の常識とも言える生活文化の形成に、いかに鉄道が大きな役割を果たしたかを振り返る企画展示シリーズ。いままで、初詣や海水浴、野球など鉄道との関係を掘り下げた企画展が行なわれてきたが、今度は温泉である。火山島である日本では、温泉自体は有史以前からあり、古代から温泉浴がたしなまれてきたことは間違いない。
また、江戸時代には湯治場など周辺施設が整備され、有名な温泉地は全国的に知られていたことも事実である。しかし、国民的なレジャーとして、温泉が誰でも気楽に楽しめる観光地となったのは、明治以降、それも鉄道の開通により、安く迅速に大量の観光客が温泉に旅行することができるようになってからである。
今回の展覧会では、さらに温泉地の魅力を広めたメディア・コンテンツとして、小説などの文芸作品に着目する。ストーリーが展開する舞台として温泉が取り上げられ、その作品がヒットすることによりその温泉の知名度や人気が爆発する現象は、新聞小説が国民的エンタテインメントだった明治時代に顕著に見られた。温泉と文芸と鉄道、この三大話こそ、近代日本における温泉ブームの基本構造だというのが、今回の視点である。
会場では、熱海、塩原、伊香保、草津、花巻の各温泉について、その視点からの分析を、資料を基に展示する。今回から、内部の展示用壁面を外し、建物自体の壁面と窓を露出させたスタイルでの展示となっている。ショーケースと低いパーティションが並ぶスタイルだが、ちょっと動線を掴みにくく、全体の展示が散漫な印象になってしまっているのがちょっと残念ではある。




「今週のギャラリー」にもどる

はじめにもどる