バーストの秘密

上級編 (その1 構造の秘密)






・ネック仕込みの謎(その1 角度編)

バーストを語るときよく出てくる数字に、ヘッド角度17度、ネック仕込み角度3度というものがある。さらに60年半ばまでは3度だったネック角度が、後半から5度になるから音が云々としたりげに語る人は多い。確かにこれは全体の傾向としてはそうなっているし、それなりに音やプレイヤビリティーに関係がないともいえない。だが、バーストマニアの見方は違う。バーストも、何十台と数を見てゆくと、そもそも手作業が多いだけに、NCで削ったようにすべてがピタリと同じ角度というわけではないことに気付く。さらに長い年月の間に経年変化が起こり、たとえばネック起き等の影響などで、結果的に現状のネック角度で比べればけっこう個体差がある。わかりやすいブリッジ部分の高さで見れば、千差万別というのが実際だ。角度が音に与える影響というと、テンションの変化が大きいのだが、そのテンションそのものも、テイルピースでいかようにも調整可能なのがレスポールだ。これでは、こと音に関しては角度がどうだからどうだとは言えない。はっきり言って、ボディーの重さや材のクセのほうが音に与える影響は大きい。しかし角度の傾向は、シリアルナンバーがなくなってしまったものや、本物偽物の判別等には役立つ情報だ。従って、知っていて損はないのは言うまでもない。

・ネック仕込みの謎(その2ディープジョイント編)

ヒストリックコレクションの登場以来、どうも「ディープジョイント」というのが強調されすぎているようだ。言葉が独り歩きしているきらいがある。音の違いがわからないヒトでも、目で見てわかる構造の違いは理解しやすいせいもあるとは思うが、はっきり言って、妙にこだわりすぎている。言われているほどの問題ではない。もちろん全く同じ材で作ったなら、通常の中子構造より、ディープジョイントのほうが音響上有利なのは言うまでもない。しかし、いいマホガニーを使い通常の中子構造で作ったギターと、セコいマホガニーを使いディープジョイントで作ったギターを比べれば、文句なしにいいマホガニーのヤツのほうに軍配があがる。また、構造以上に細工の精度がものを言う。ガタガタの隙間がある精度で切削し、接着剤で埋めたディープジョイントのネックよりは、生のままハメても抜けないくらい高い精度で作られた通常構造のネックのほうが、音的には格段に上だ。80年代のプレミアムリイシューに音の良いモノが多いのも、この「構造より工作」という事実を示している。構造がデタッチャブルだって、オールドのストラトのようにいい材を使い、精度の高い工作をすれば、セットネック以上によく鳴ることを思い出してほしい。あくまでも音に関しては、材>工作>構造という序列で影響するのだ。

・年式差より個体差

通になると、バーストでも58年の音、59年の音、というように年式別の音の違いを語り出す人が多い。確かに全体の平均値で考えれば、各年次ごとの音の特徴というのはある。しかし、それは多くの本数を通してみた場合の話であって、個々のギターで比べる場合には、ちょっと話は変わってくる。このような年次別の傾向は、あくまでも統計値のアヤだ。個体差と全体傾向の違いというのは、どういう場合にでもあるものだ。たとえば、アメリカ人と日本人と比べて、日本人が勤勉でよく働くというような言いかたをするが、これと似ている。個人で比べれば、不真面目でいいかげんな日本人もいっぱいいるし、勤勉実直なアメリカ人もいっぱいいる。年次別の音もそれと同じ。ましてや、手作りに近くて、材の音響特性がストレートにでるレスポールだ。58年は音が太くて、60年は音が繊細とかいうけれど、60年製の平均より音の繊細な58年製の個体もあるし、58年製の平均より音の太い60年製の個体もある。どれもみんなオールドのバーストらしいいい音なのはもちろんだが、よく聞くと一本一本の音の個性の違いは大きい。だからこそ、コレクションだけでなく自分でプレイしたいというヒトほど、何本も何本も欲しくなるワケなのだが。

・ブリッジ位置の秘密

アコースティックギターを設計・製作する場合、ブリッジ位置をどこにするかというのは、極めて重要な問題になる。いかに音響特性を考えてボディー構造を作ったとしても、ブリッジの位置次第でそれを生かすことも殺すこともできる。大きい音量と豊かな倍音を持った、いい音で鳴るためには、ボディー全体のちょうど「節」に当るところにブリッジを持ってくることが理想的だ。そこからズレると、妙な倍音にのみ共振して音に色が付いたり、逆に特定の倍音についてはボディーがそれを打ち消すように働いたりしてしまう。レスポールはソリッドボディーだが、ボディーの鳴りを十二分に活用して音作りをしているという点では極めてアコースティックギターに近い。ソリッドでアコースティックのボディーをシミュレートしているギターとも言える。それだけに、レスポールのブリッジの位置は、長年のギブソン・フル・アコースティックギターの設計ノウハウを活用し、構造上ベストの位置にある。ソリッドボディーギターの場合、必ずしもこういう設計がなされていないモノも多いが、このアタりにもレスポールの鳴りの良さの秘密がかくされているといえるだろう。

・バースト誕生の秘密

サンバーストレスポールはどうして市場に投入されたのか。それは基礎編に乗せたデータが語っている。57年から58年にかけては、極端にレスポールの販売本数が落ち込んでいる。その理由としてはミュージックシーンの変化が背景にあるワケだが、ギブソン社としてはそれ以上に当面の販売のてこ入れが重要な課題となった。このため、どちらかというとギブソンの得意とするターゲットを中心にレスポールを販売する戦略が立てられた。その結果登場したのが、伝統的なギブソンらしいギターの味つけをしたレスポール、すなわちバーストだった。カーブドトップ構造を活かし、フルアコのゴージャスなイメージを取り入れるべく、フィギュアド・メイプルの杢を活かしたサンバーストフィニッシュが採用されたというわけだ。もっとも、ギブソン社は最初レスポールをサンバーストフィニッシュで出そうとしていたが、もっと斬新なフィニッシュを希望したレスポール氏によってゴールドフィニッシュが標準仕様になったという顛末がその前にあるのだが。しかし、レスポールのトップの厚みは、ギブソン社がストックしていたハードメイプル材では製作できなかったため、全米の木材ディーラーから材を集めて製作された。この結果、ハードメイプルでもいろいろな杢の材が集まり、バーストのあの個性が生まれたというのだからおもしろい。この戦略も、ミュージックシーンの前には結果的に無力に終わってしまったが、すばらしい杢のギターは、昔からのギブソンマニアがコレクションとして購入した結果、それらがほぼミントコンディションで今に残っていることを考えると、それはそれでまんざらでもない結果と見ることもできるだろう。



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