バーストの秘密

上級編 (その4 ヴィンテージギターは木が命)






・レスポールのパワーは木から生まれる
「PAFの魅力」でも書いたように、ピックアップとしてのPAFの秘密は、その後に作られたあまたのピックアップとは違い、あくまでもナチュラル&アコースティックに音を拾うところにある。何度も言っているが、ピックアップはひたすらハイファイで、音にクセをつけない。もとのボディーの木鳴りをそのまま拾う。だから元の生鳴りが良くなくては、いい音がしないことになる。PAFに限らず、オールドピックアップの設計思想は、「いい生音」を、そのダイナミクスやトーンニュアンスを含めて忠実に拾うところにある。だから、ヴィンテージギターの音は、あくまでもボディーの鳴りが基本になっている。その一つの頂点と言えるのが、ソリッドボディーの極みと言えるレスポールだ。
戦前〜1950年代には、ギター作りに理想的な材が充分に入手できた。そもそも当時のギター製作本数は、多くても一機種当り年間数百台。バーストだって、上級フルアコなどと比べれば、どちらかというと生産本数の多いギターといえる。この程度の本数なら、最高の材を吟味しながら贅沢に使うことができる。このように当時入手できた理想的な材を前提に、エレクトリック・ギターの構造は設計された。
しかし、ギター作りに適したいい木は、50年代に使い果たしてしまった。60年代に入ってエレクトリックギターが売れる商品となり、60年代末に至って大衆商品化すると、もはや50年代のような凝ったギター作りは不可能になった。安い木を使い、機械化された流れ作業で製作するようになる。こうなると、当然いい音がしなくなる。これをピックアップの出力アップや音質補正でゴマかそうとした。これではいい音のギターを望む方が無理というものだ。
いまや、レスポールの形を取る限り、「いい音」がするギターを商業レベルで生産することは不可能と言っていい。スタインバーガーに代表されるように、新素材や新しい材を前提に、その材に向いた設計をするならまだまだ「いい音」のギターを作るチャンスも残っているだろう。だが、トラディッショナルなスタイルのギターについてはオールド・ギターが圧倒的に優れており、特にギブソンタイプのギターについてはヴィンテージを凌ぐクオリティーの楽器は作れない。ヴィンテージギターブームは、ギターが大量生産される商品になった時点ですでに必然的なモノになっていたといえる。
だから、ギターはただ古いだけではだめ。ヴィンテージギターは、枯れてきてよく鳴るワケではない。木や作りが違うのだ。たとえばロックレボリューションの68〜70年ごろ、バーストはたかだか10年落ちの中古ギターでしかなかった。今で言えば80年代半ば〜後半のギターと同じだ。ではその頃のリイシューが、いまあの頃のバーストほど鳴るだろうか? ちゃんと考えてみれば、この問題の答はすぐわかると思う。そういった50年代のヴィンテージ・ソリッドギターの中でも特に、レスポールは木にこだわり、それを生かす構造や技術にこだわったギターということができる。

・レスポールの音色はマホガニーが決め手
ギターの中でも最も音の関係する部分は、弦の振動を直接受けて共鳴するネック、そしてボディーだ。ギターが鳴るか鳴らないかは、まず第一にこれらの部材がよく鳴るかどうかにかかっている(弦は交換可能なため)。レスポールの場合、それらはマホガニーでできている。しかしヴィンテージギターはこのマホガニーの質が全然違うのだ。名前が同じでも、木がまったく違う。
実はマホガニーといっても、ピンからキリまでいろいろある。牛肉でも、松坂牛の霜降りと、スーパーで安売りのオージービーフとは全然違う。同じように、いろいろあるマホガニーは、見る人が見ればちゃんと区別がつく。ヒストリックのバックに使われているマホガニーと、バーストのバックのマホガニーと比べてほしい。目のつまり方や、木目の出かたが全然違う。
ヴィンテージレスポールに使われているマホガニーは、最高級のホンジュラスマホガニーだ。これは、現在では手に入らない貴重な材だ。もちろん昔から珍重されていた材だったが、まだギターの大衆化が起こらず、ギターの出荷本数も限られていた1950年代だからこそ利用可能だった。今となっては、このクオリティーの材はそもそも手に入らない。取り尽くしてしまって、まだ生えていないからだ。あと100年とかすれば、ギター用の材を取れる木も育つかもしれないが、現状では木そのものがない。
あと、あまり知られていないことだが、ヴィンテージギターは木取りも違う。丸太から、ギター用の材をどう切り出すかという、材のとり方の違いだ。一匹のマグロでも、大トロから赤身まで部分によって質が全然違うように、木も生ものだけに、どう切り出すかによって、とれる材のクオリティが全然違ってくる。それだけでなく、歩留まりも違ってくる、同じ材から、機械的に製材すれば三本分の材が取れても、理想的なとり方だと一本分しか取れないことも良くある。
ネックの木目の通し方が有名だが、ボディーもよく見ると贅沢な木取りをしている。今でもこういう木取りはできないことはないが、ただでさえ高い貴重な材ゆえ、その価格は一層ハネ上がってしまう。贅沢なマホガニー材を使用し、贅沢な木取りで使う。これなら、いい音がしないわけがない。この、音だけを考えてコストを考えない贅沢さが、レスポール伝説の正体ともいえる。

・オールドレスポールは煮ても焼いてもオールドレスポール
木が違う、作りが違う。だからレスポールだし、それでなくてはレスポールではない。オールドレスポールと同じクオリティーの材を、同じように木取りし、同じような技術と精度で組み立てれば、ちゃんとした音のする「レスポール」を作ることも不可能とはいえない。しかしそれではおそろしく高価になってしまう。おそらくオールドより高くつくことになってしまうだろう。また、製作可能な本数も材料や生産性の関係で極めて少量に限られるだろう。
そう考えてゆけば、オールドレスポールの価格も、決して高いプレミアムとはいえない。どちらかといえば、それでも割安なのかもしれない。コンバージョンが求められる秘密がここにある。少なくとも木部はオールドレスポールそのものなので、鳴りはバッチリ。そこに自分の好きな電気系統をのっけて使う。こうすれば比較的手ごろな値段で、レスポールの音が手に入るというわけだ。
この場合ピックアップは、ナチュラルでハイファイなものならば、それほどこだわることはない。木がきちんと鳴ってるから、それをちゃんと拾えればいいからだ。実際、ジミー・ペイジのレスポールは、リアPUがダンカン製のものに交換されている。しかし、出てくるのは典型的なバーストの音だ。それだけではない。その音こそがバーストの最高峰という人もいるだろう。
その判断は決して間違いではない。ピックアップの存在を透明にしてしまう鳴りこそ、レスポールの心髄。これも、豊かな木鳴りのなせるワザだ。木部さえきちんとしていれば、ルックスや電気系統がどうなっていても、楽器としての価値は変わらない。いわゆるプレーヤーズコンディションとして、楽器として使える限り、あるレベルの価格より落ちることがないのはこのためだ。木と作り。オールドの価値はここにこそある。

・ハードメイプルはトラの出が少ない
ご存じのように、レスポールスタンダードのボディートップには、メイプル材がラミネイトされている。しかし、メイプルにもやはり色々な種類がある。そのなかでもネックなどギターの構造材として使われるのは、ハードメイプルまたはハードロックメイプルと呼ばれているものだ。メイプルも、いろいろな種類や質がある分、その良し悪しにより音への影響も大きい材。よくしまっていて、堅固だが比較的軽いハードメイプルを使えば、ナチュラルな響きをもったギターができる。オールドストラトの場合、ボディーもさることながら、ネックのハードメイプル材の質が大いにモノを言う。
シンプルに鳴りに特徴があるマホガニー材を、ネックおよびボディーのメインの材料として使うが、固くて相対的に重みのある材であるハードメイプルをボディートップに貼り付けることで、アタックが出すぎないようにするとともに、サステインを豊かにする。基本的に、レスポールスタンダードのアコースティックでゴージャスな音は、このコンビネーションで作られている。トップの材質も、音に大きく影響するのだ。その証拠に、オールマホガニーのカスタムは、スタンダードより、ジュニアやスペシャルといった単板系ボディーのギターの音に近い。それはそれでロックンロールとか、使う音楽を選べばそれなりにベストフィットするギターだ。だが、それはスタンダードの音とは違う。「あの音」は出ない。
さて音的には申し分ないハードメイプルだが、別の視点からは問題点もある。それは、強烈なトラ杢がでにくい点だ。硬い分、ある程度のトラは必ず出てくるのだが、比較的上品なトラになりやすい。相当に強烈なトラ杢がある場合も、どの角度からも同じように深く見えるような杢にはならない。もちろん、ハードメイプルのトラも、どぎつくはならないが、それなりに深みがあり、見る角度を選べば、よく写真で見るようなバリトラに見える。だがレンチキュラー方式の3D写真みたいに、見る角度によって杢が深くなったり、浅くなったりするのが特徴だ。
トラの出方だけについていうのなら、ソフトメイプルと呼ばれる種類の方が、ずっと強烈なトラが出る。だから、ごりごりのキルトやバリトラのリイシューものは、トップがソフトメイプルで作られている。しかし、ソフトメイプルはきれいだが、楽器の構造材としては難点が多い。だから音が違う。杢の出の激しさ、深さで選ぶなら、ソフトメイプルに軍配があがる。トラマニアにはこの方がいいだろう。だが、ソフトメイプルトップでは、レスポールの音はしない。二兎を追うもの一兎を得ずではないが、音かトラか、ここはどちらかを選ぶべきだろう。


・軽さが命
バーストは軽い。そういわれるとピンとこない人も多いだろうが、バーストはオールドギターの中でも、比較的軽い部類に入るギターだ。俗に「8ポンド」といわれるが、確かに4kg弱のものが多い。これは手に持ったり、肩に掛けたりしたとき、はっきり「軽いギターだ」と感じる重量だ。オールドストラトというと、いかにも軽いイメージがあるが、4kg弱というのはそれと同じぐらい軽い。
オールドレスポールには比較的軽いものが多いが、年代や個体差によってもかなりばらつきはある。オールドレスポールの中でも重いといわれている53年頃のゴールドトップと比べれば、バーストは軽い部類に入るだろう。その重めの53年モデルだって、レスポール80とかと比べればずっと軽い。だからバーストを肩に掛けた感じ、手に持った感じは、いわゆる再生産レスポールのイメージとは大きく違う。
70年代、80年代の再生産レスポールは概して重く、ストラップで下げているだけで肩が凝ってしまうものも多い。ギターというよりベースに近い重さの個体も多い。それだけに「レスポールは重い」という、誤ったイメージを持っているヒトも多いと思う。バーストに代表されるオールドレスポールはアレとは全然違う。
そもそも軽いものほどよく鳴る。それは、いい材は重くない、いやはっきりいっていい材は軽いからだ。重い方がサステインはいいので、一見いい音がでるように聞こえる。だから安い材を使ったギターでは、ある程度重くすることで、音をごまかすことになる。しかし、それは安い材でのこと。いい材を使うのなら、軽くてもサステインが効き、レスポンスも良い分ずっといい音がでる。だがそういう材はほとんど手に入らなくなっている。それだけに軽さは伝説となってしまっている。
それに加えて、いい材ならではの経年変化として、よくいわれるように年とともに枯れるという変化もある。これはどんな材でも古くなればいい音になる、ということではない。いい材、いい仕上げほど、よく枯れる。枯れるというのも、そもそも筋が良くなくては起きない現象なのだ。こうして時間とともに、いい材の、いい作りのギターは、ますますよく鳴るようになる。





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