ヴィンテージサウンドに迫る

現行モデル・リイッシューモデルの活用テクニック




このWEBサイトを開設してから、いろいろなギターマニアの方からmailをいただく。そのような方には、やはりレスポール・フリークが多い。そんな皆さんの関心事項の一つとして、スタンダードやクラシック、ヒストリック・コレクションといった現行のモデルで、どうしたらオリジナルバーストに近い音が出せるかということがある。実際、どのピックアップを載せたり、どんな改造をすると本物に近づくかという質問はよく頂く。そこで今回は、そういう疑問に対してぼくなりに応えてみたいと思う。
結論からいってしまえば、オリジナルバーストと、現行モデルは形に似ているところはあるものの、別のモデルであり、別の音を楽しむべきだということだ。ポルシェ911とVWビートルは、似ている部分は似ているが、いくらビートルを改造しても911にはならないのと同じだ。しかし、これは911とビートルのどっちがよくてどっちが悪いということではなく、違うテイストとしてとらえるべき問題だ。ビートルでなくては得られない楽しみ(たとえば、かつてのバハ仕様のようにサンドバギーとして楽しむ)は、逆に911をいかに改造しても得られない。だから、両方持っているというカーマニアもけっこういるはずだ。
もっといえば、コロッケの森進一のものマネに、本物同様の唄の感動を求めるべきか、というたとえかたもできる。ものマネの芸としてみれば、コロッケはすばらしいエンターテイナーだが、それは唄そのものの良さとは違う魅力だ。芸としてのジャンルが違う。唄が感動的かどうかとは別の次元で、芸の魅力は存在するし、客はそれを楽しむことができる。そのぐらい違うものとして、価値をとらえるべきだろう。
だから、ヒストリックにバーストの幻影を求めても仕方がない。それでは、せっかく独自のギターとしてのまとまりを持っているヒストリックがかわいそうだ。クラシックでもリイッシューでも、ヒストリックでもいい音のするギターはあるし、それはそれで使い勝手がある一本だ。オールドのバーストとは違うものの、それなりによくできたギターなら、その良さを引き出して使うほうがいい。

とはいうものの、これでは余りに原理主義的でそっけない答なので、リイッシューやヒストリックコレクションといったストックモデルのレスポールを使って、ヴィンテージのバーストの音に近づけるためのヒントをいくつか上げてみよう。

まずいちばん手っ取り早いのは、アンプにこだわるということだ。アンプが違えば出音も違う。ギターの音というのは、アンプを通って、スピーカーを通ってはじめて聞こえるものだ。われわれがCDやライブで聞くギターサウンドは、アンプを通って出て来た音だ。そして最終的な出音に対する影響を考えると、いいアンプを使う効果は大きい。なにか肩透かしのような答と思うかもしれないが、いい音がほしいなら、この効果は絶大だ。
誰々の音、あのアルバムの音、みたいなこだわりがある場合、ギターそのものよりもアンプのほうが先決ということも多い。銀パネのツインじゃ、Boogieの音は出ないし、BoogieじゃMarshallの音は出ない。その反面、たとえばMarshallに最近のレスポールを突っ込むことを考えよう。確かに本物のバーストと93〜4年頃のカスタムショップ製ではギターの音に違いはある。だがいざ鳴らしてしまえば、どちらにしろ出音は「Marshall+レスポール」というサウンドになる。
この音をオーディオチェック的に録音するならイザ知らず、ライブ会場等で鳴らすことを考えれば、その差はさらに小さくなってくる。実際、観客の立場になって考えれば、あるレベルの音質をクリアしていれば、その先の音のこだわりなどどうでも良くなってしまう。音がいいよりは、ノリがいいプレイのほうがずっと重要だ。
バーストをセコいアンプで鳴らすよりは、リイッシューをいいアンプで鳴らすほうが、ずっといい音になるし、迫力もある。これは覚えておこう。確かにいい音のするアンプ、たとえばヴィンテージマーシャルは安くはない。しかし、バーストよりはずっと安い。絶対的な金額でいえば、ヒストリックコレクションやプレミアム・リイッシューを買うのと同じぐらいの負担で済む。決して買えない金額ではない。サウンドを求めるなら、思い切ってアンプに奮発してみるべきだ。

次は、PUのセッティングだ。現行の57クラシック、バーストバッカーは、けっこういいピックアップだ。それをあえて乗せ換える必要はない。ナンバードだPAFだと交換してみても、そのギターの音色がよりストレートに出るだけで、バーストの音には近づかない。バースト的なナチュラルサウンドを目指すには、これをあえて変える必要はない。しかし音に不満があるというのは、そのセッティングに問題があるため、せっかくの音を活かし切っていないためということが多い。出荷時のセッティング自体が、機械的な調整にとどまり、ベストポジションになっていないせいだろうか。
はっきりいうと、フロントが上がりすぎている場合が多い。フロントはいい音だけどリアが、という不満はよく聞く。これは、セッティングのバランスが悪いからおきる。「バーストの秘密(その2 PAFの魅力)」でも書いたが、まずリアをベストポジションにした上で、フロントとリアを切り替えても、音量差がないようフロントを下げてみよう。さらにポールピースも調整すれば、かなりバランスのいい音になる。特にジミー・ペイジフリークの場合は、センターポジションの音色がキモなので、効果絶大だろう。
あとセッティングといえば、テイルピースも重要だ。ストックモデルは、ライトゲージを前提としている分、ヴィンテージに比べてテンションが強めだ。これが鳴りの違いにも影響している。だからテイルピースを思い切って上げて、弦のテンションを下げたほうが、オールド的な鳴りになる。それだけでなく、パワーで奏ききる奏法のみならず、微妙なニュアンスを活かした奏法がやりやすくなるので、プレイする音色を、ヴィンテージ的なニュアンス豊かなものとすることが容易になる。

さらに、ピッキングも変えてみるのも効果的だ。ヴィンテージは、かなりピッキングに神経質で、ちょっとタッチが違っても倍音構成が大きく変わる。それだけでなく、あまり力を入れなくてもよく鳴ってくれる。このため、ヴィンテージユーザーはピッキングのタッチに敏感になる。ピッキングでのニュアンスの出し方がウマくなる。アコースティックギターと同じだ。だからヴィンテージで鍛えられると、通常のレギュラーモデルでもいい音が出せるようになる。
レギュラーモデルは確かに鳴りが平板なので、メリハリをつけようとついつい力を込めがちだ。だがそれではかえってニュアンスを潰すだけだ。鳴りが平板なのではなく、アタックのヌケが悪いのだ。だから、力でおすのでなく、抜く部分を作ることで、メリハリをつける必要がある。ヴィンテージで鍛えられると、このメリハリの付け方が体に染みつくので、レギュラーモデルでもいい音が出せるという次第。
特にレスポールの場合は、パンチのある音を出そうとして、必要以上にリキんでいるプレーヤーが多い。その分、ヴィンテージユーザーは柔よく剛を制しているわけだ。これをマネるには、Hard→Medium というように、一段ソフトなものにして、ニュアンスが出やすくしてみるのも手だ。こうすると、力を入れようとしても腰砕けになるだけなので、不要な力を込めなくなる。そうなれば、おのずとピッキングニュアンスも出てくる。

視点を変えると、なにもレスポールの形にこだわることもない。ギターからアンプまで、トータルなシステムと考えて、それ全体で自分の好きな音を作るという発想にすれば、違うアイディアもわいてくる。コンポーネント系や、オリジナルギターでも、自分の求めている音が出てくるのなら、それでいいだろう。無理にレスポールの形にこだわるほうがおかしいということもできる。逆にいえば、ヴィンテージといっても、「それを使うだけでたちどころにいい音が出る」というものではない。いい音を出す可能性は秘めているが、それを使いこなすにはそれなりのワザが要求されることも確かだ。
ストレートに鳴ってくれる分、下手に奏けばどうにも間の持たないプレイになるし、音色も貧相なものになってしまう。サステインがいい、倍音が多いといっても、それはそういう風に奏いてはじめて出てくる音だ。所詮はギター。奏いてない音は鳴らないのだから。よく「ヴィンテージを使っていると、新しいギターを使ってもいい音で鳴らせるようになる」とか「ヴィンテージを使うと、ギターがうまくなる」とかいわれるが、その理由はここにある。ヴィンテージはごまかしが利かないギターなのだ。
そう考えれば、どんなギターでも「そのギターならではの音色」をきちんと持ってるギターなら、正面から四つに組んでその持ち味を引き出せば、いい音色でプレイすることは可能だ。
ヴィンテージユーザーは、ストックモデルを使ってもヴィンテージ的な音を出せると、よくいわれている。それはヴィンテージだからこそ、細心の注意とテクニックを込めて、いいプレイをしなくてはいい音が出ないからだ。実は「いい音の秘訣」はギターの側ではなく、プレイする人間のがわにある。これをまざまざと見せつけ、プレイヤーをごまかしの利かない世界に追い込んでくれるからこそ、ヴィンテージの御利益は大きい。このようにして、フィーリングフルな奏法や、ギターの取り扱いをマスターしているからこそ、ヴィンテージでないギターの扱いもウマくなるのだ。スーパーギタリストほど、どのギターを使っても、いい音を出し、いいプレイをする。大事なのはこの心であって、楽器そのものではないことを忘れてはいけない。

なお、このコラムを書くに当ってヒントとなった、最初の質問のmailをいただいた、静岡の岩崎さんには、この場を借りてお礼を申しあげたい。




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