ギターの選び方





いろいろ話してみると、世のヴィンテージフリークには「バースト命」みたいな人も多い。バーストはもちろんいいギターだし、色々な音楽性に対応できるヴァーサタイルさも持ってはいるが、すべてにおいて常に完璧、ベストのギターというわけではない。得手・不得手は当然ある。だからこそ個性あるギターなのだが、それを忘れてか無視してか、バースト礼賛になってしまうと、これはちょっと考えものだ。ましてやタダでさえ高い買い物。そういう「信仰心」に基づいて手を出したのでは、冷静な判断ができかねる場合も多いだろう。そこで、自分に合ったギターをクールに選ぶにはどうしたらいいか考えてみた。

バーストを例に出した都合上、まずはレスポールスタンダードがあわない音楽にはどんなものがあるかから見てゆこう。まずはロックンロール。ちょっと違和感を持つヒトもいるかもしれないが、ストーンズにはバーストは似合わないことを考えればわかるだろう。ストーンズのステージでは例外的にサティスファクションで出てくるぐらい。おまけにこのサティスファクション自体が、ストーンズの中では例外的な曲ときている。

だから生っ粋のロックンロールバンドをやりたいなら、バースト系という選択はない。音が太すぎて存在感が出すぎるし、ツインギター、トリプルギターといったギター・アンサンブルをまとめにくいからだ。バーストではハードロックになってしまう。従ってこういう音楽を身上としている人なら、テレキャスター、ギブソンならジュニア、スペシャル系のP-90のやつという選択になる。どうしてもレスポールなら、カスタムの方がジャキジャキしてドライブ感があるから、そっちの方がいいだろう。

同様にフォービートものも、レスポール向きではない。確かにバーストはソリッドギターの中ではもっともアコースティックな音色を出すことができる。フルアコっぽい音色も不可能ではない。従ってメインストリームジャズもできなくはないが、フルアコにフラットワウンドを張った音にはかなわない。ジャズ専業なら、フルアコの方がよほど表現力が大きい。これは335みたいなセミアコでも太刀打ちできない世界だ。レスポールスタンダードの使用は、ポップスのヴォーカルものなどで、フォーっぽいアレンジが出てきたときとか、限りなくフュージョンっぽいビバップとかが限度だろう。

さてレスポールスタンダードでも、バースト以外にもいろいろある。これもまたやりたい音楽性によって得手・不得手がある。いつでも、どんな場合でもバーストが最高というワケではないのだ。自分のやりたい音楽がKISSみたいなアメリカンハードロックとか、NWOBHM的なメタルとかだったら、絶対バースト買ってもしょうがない。もっと現代的に倍音のコントロールされている、80年代の再生産モデルとか、場合によっては70年代のメイプル・ネックのモデルとかの方が、特にライブ時には使いやすいだろう。

自分のことを考えてみると、ぼくの場合はヴィンテージ・フェンダーはいらないというのが、この例になる。ヴィンテージストラトマニアには垂涎の、クラプトンとか、レイボーンとかは、聴くのは好きでもぼくは自分でやりたいとは思わない。自分の表現したいものは、あの音あのプレイでは伝わらないからだ。そういうこともあって、ヴィンテージのストラトはずいぶん持っていたけど、結局は処分してしまった。自分にとって必要ないから。54のストラトくれるって言われても、ぼくはいらない。実際はもらってすぐに売り飛ばすだろうが(笑)。

ぼくにとってフェンダータイプのデタッチャブルネックギターがいらないわけではないし、フェンダータイプのコンポギターもコンテンポラリーモデルはけっこう持っている。ただそういうタイプのギターに求める音がヴィンテージのストラトでは出ないのだ。ストラトはけっこう個体差があるから、もしかすると求める音の出る一本も存在するのかもしれない。しかしそれを探すまでもなく、ぼくが求める音はJAMES TYLERで実現してしまう。それ充分なのだから、そこから先無理する必要はないというわけだ。これなんかも、自分の欲しい音がはっきりしているからこそ割りきれる問題だ。

カギは音だけではない。ある種のファッション性がある以上、ギターは外見も大事だ。しかし色やフィニッシュならともかく、材質やカタチが関わってくるファッション性になると、音にも関係してくる。トーカイのタルボのように、アルミギターみたいな極端な例はさておき、木のギターでも違いは大きい。たとえばPRSもそうだし、権化としてはゼマティスなんてのもあるが、そのブランドのデザインポリシーのみならず、音のポリシーもはっきりしている場合は、二物を追ってもはじまらない。

PRSは死んでもバースト的な音は出ない。外見の共通点はあるために勘違いする人も多いが、もともとそういう音を出そうとして作られたギターではないからだ。もっとアメリカンロック的な、からっとした音だ。レスポールでいえば、バーストより70年代のスタンダードだ。ある意味ではギブソン系の音であることは確かだが、セットネックにしたコンポ系ギターという方が実態に近いだろう。ゼマティスも基本的に単板ギターなので、SGとかスペシャルとか、ギブソンで言えばそっち系の音だ。ゼマティスのデザインでレスポールの音ってのは無理がある。

いわゆるコレクションじゃなければ、買う目的がはっきりしている。ギターとして使いたいから、音を出したいから買う。これがはっきりしているなら、悩まず決め打ちできる。バーストなんて衝動買いできるものではない。自分の出したい音はヴィンテージじゃなきゃ出ないし、なら買うしかないという文脈で、自分にとって音楽が大事なら、これは手に入れなくては次の展望が開けないという信念。それを元にこれしかない、手に入れなきゃならないという強い意志を持ってはじめて購入に踏ん切れる。こういう確信犯でなければ、こんな大きな買い物はできない。

レプリカであろうと、いいことではないが偽物であろうと、実際の音と値段のコストパフォーマンスで判断して、良ければ決して損はないというのもこれが理由だ。たとえばバーストレプリカで100万しても、それが自分の求めていた音であり、自分が100万出しても欲しい音なら、それは「買い」といっていいだろう。ある意味でコンバージョンもそうだ。コンバージョンには使い勝手と音はあるが、ヴィンテージとしての価値はない。自分の求める音という基準がなければ、こういったギターを買う判断はできない。逆に言えば、こういうギターを買い求める人にとっては自分の求めてるギターという基準があるし、それを元にギターを選んでいるということもできる。

こういう面でも、本当に自分がほしいのはどういうギターなのか知っている必要がある。遊び相手は外見で選んでもいいが、結婚相手となると性格の相性の方が重要になるようなものだ。自分のほしいギター、必要なギターはどういうものかを知ること。そのためには自分の音楽性を知ることが先だ。自分がそのギターでどうしたいのか。それをわからずして、高価なギターなどとても買えない。安い買い物ではないし、何で買うのか、何のために買うのかが曖昧だと、偉大な無駄遣いに終わってしまうことも多いだろう。

自分の音楽性、それは何もオリジナルを作ったり、自ら歌いプレイして自己を表現するというのでなくてもいい。ゼップ命、ペイジ師匠命だって、立派な音楽性、指向性だ。その目標がなんであるかはさておき、それが明確になれば自分がギターに求める要素も明確になる。たとえばプロのギタリストで、ヴィンテージを買うに足る充分な収入があるヒトでも、自分の音楽性に合わないのなら、ヴィンテージは使わない。 もっとも、コレクションとしては買う場合もあるだろうが。

コレクションといえば、コレクターの場合も、ポリシーを持つべきだ。これがあるかないかで金の使い道は大きく変わる。ストラトのレアカラーとか、各年式を揃えるとか、テーマが決まっていれば買う買わないかの判断は明確だ。持っていない一本があるとか、今持っているヤツよりいい一本があるとか、そういう場合は買いだ。そうでなければ、興味も持たず、手も出さずにすむ。むやみやたらと触手を伸ばすより、買うか買わないかの判断もやりやすいだろう。

確かに、自分の欲しい音を知るためには、それなりの遍歴を重ねる必要がある。そのための授業料として、ある程度売ったり買ったりを重ねて究極の一本に近づくということも大事かもしれない。しかしいつまでもそれを続けていたのでは、いかに財産があっても持たない。あるいは、そもそもそういう音がする一本はありえないのに、自分のアタマの中で夢見て追い求めているのかもしれない。そういう無限ループにハマり込んでしまっては悲惨だ。そうならないためにも、自分のほしいギターはどういうギターかをきちんと知っておくことが必要だろう。



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