おたくの煩悩

第五章 軍用機


煩悩 その47
雷電(旧帝国海軍)
第二次世界大戦の銘機といえば、高度成長期の少年たちの必修項目だ。ぼくなんかは、基本的に親父が戦争にいった世代なので、第二次世界大戦には、今から考える以上に、歴史上、というより、ついこの間の出来事、という感じがしたことは事実だ。たかが、20年前だ。当時、第二次世界大戦を語ることは、いま、ビートルズを語るより身近な出来事だったのだ。
さて、そんな銘機のなかでも、日本の少年ならやっぱり、帝国陸海軍機に興味がいく。今も、ある種の反米・嫌米感情というのはあるが、当時は日米安保粉砕、岸内閣打倒の時代だ。米軍機には、どうしても抵抗感があった。その半面、独軍機は、それなりに人気があった。日独防共協定おそるべしだ。
そして、ぼくが日本の戦闘機の中でも一番好きだったのが、この雷電だ。前に述べたように、ずんぐりしたそのデザインもさることながら、海軍の戦闘機中最大のパワーを誇るエンジンを活かした、日本ではめずらしい重戦闘機であること、近代戦の戦略発想である防空戦闘機であることなど、それまでのちまちました日本の戦闘機を大きく外れるコンセプトで作られ、実際に戦果をあげた数少ない機種なのだ。これが、雷電を大きく気にいっていた理由だ。つまり、これならアメリカに負けない、という感じがしたからだ。
子供心にも、まだ戦後は終わっていなかったのだ。55年体制が崩壊した今だからわかる、高度成長の日々の心の陰だ。

煩悩 その48
F-86Fセイバー
ぼくの少年時代には、航空自衛隊の主力戦闘機は3代にわたって代替りしている。その初代ジェット戦闘機が、F-86Fセイバーだ。基本的には第二次世界大戦末の、P-51などの高速プロペラ戦闘機の基本設計を受け継ぐ、古典的なジェット戦闘機だ。
この前韓国にいったとき、625動乱(朝鮮戦争)の記念館みたいなところに、F-86Fが飾ってあったが、この機種が大活躍したのは、なんといっても朝鮮戦争のときだ。F-86F vs. Mig15というのは、冷戦時代の初代好ライバルとして、よく軍記モノのテーマとなっている。
基本的には、航空自衛隊のセイバーは、朝鮮戦争が終って旧式になった剰余機体を、米軍が日本で保管していたものを供与されたのが始まりだ。だから、当初はどっと与えられてもパイロットの養成が間に合わず、野ざらしになっていたという話もある。
さて、ぼくらにとってセイバーといえば、なにはさておき、特撮怪獣映画での活躍だ。東宝特撮映画の黄金時代、自衛隊の主力はセイバーだった。だから、当然のように活躍する。もちろん結局は、怪獣の秘密光線の前にあえなく撃墜されてしまうのだが。しかし、人間対蚊でも、蚊が何匹もぶんぶんまつわりつけば、相当うっとうしい。だからあのセイバーも、ロケット砲が当ってはいるし、精神的ダメージは充分にあげているだろう。
少なくとも、ただやられるだけの戦車よりはいい。

煩悩 その49
F-86Dセイバー
セイバーはセイバーでも、こっちはF-86Dだ。型番はFとDと添字だけの違いだが、実機はこれずいぶん違う。F-86Fは、基本的に第二次世界大戦中の戦闘機と同じ、目視でドッグファイトするための機種だ。したがって晴れた日中しか戦争できない。ずいぶん悠長なハナシだが、目視という状況については、敵も同じなのだからこれで済んだのだ。
それに対し、F-86Dは全天候戦闘機として作られた。どこが違うのかというと、レーダーがついているのだ。だから、雨の中でも、夜でも、戦闘ができる。これは革命的であった。外見上も、鼻先に大きく突き出したレドーム(レーダーのカバー)がりりしく特徴的だ。
しかし、小型の機載レーダーは、できたばかりで扱いは難しかった。さらに、ミサイルがまだ発達していなかったので、適当に「そのあたり」にタマを撒き散らすだけのロケット砲が主力武器であった。このため、コンセプトこそよいものの、兵器としての中身がついてこなかったのだ。非運の戦闘機でもある。
米軍も持て余したやつを、自衛隊は供与されたが、あまり活躍の場はなかった。今年の夏、名古屋にいったとき科学館の前を通ったら、石原産業で活躍していたドイツ製B6、名古屋市電とならんで、F-86Dが陳列されていた。奇しくも、むかし名古屋の親父の実家に来たとき、栄のオモチャ屋でマルサン製のF-86Dのビッグスケールモデルを買ってもらったことを思い出した。
エンジンが外され、前のエアインテイクから後ろが見通せるのが、おまぬだった。

煩悩 その50
ロッキードF-104J
さて、セイバーの次といえば、いわずとしれたロッキードF-104だ。最後の有人戦闘機とも呼ばれ、エリアルールなどなにするものぞといわんばかりの、ほとんど円筒状の胴体や、必要最低限のサイズしかないと思われる主翼、それに比してあまりに大きい水平、垂直尾翼など、独特のスタイルをしていた。
型番からもわかるように、米空軍のいわゆるセンチュリーシリーズの一環として設計された超音速戦闘機だが、これは米軍では正式採用されていない。これは、この機体自体が特異な用兵思想に基づいた戦術を前提にしていたからであろう。
それは、ドッグファイト的な空中戦のための戦闘機ではなく、どちらかというと旧ソ連の防空戦闘機に近い、一撃離脱型の戦法を前提としているからだ。いわば、空中ミサイル発射機、ミサイルの一段目のロケットとしての役割だ。専守防衛を旨とする日本の航空自衛隊では、この戦術は非常に受け入れやすいし、周囲への脅威も少ない。
そういうワケで、この機種が導入されたことは納得できる理由がある。しかし、それだけに上昇性能とかはいいが、機動性に問題があり、支援戦闘機への転用も難しかった。同じくF-104を導入したドイツが、その戦略上無理に戦闘攻撃機として使用し、事故が続出したことも有名だ。
しかし、このF-104J、相当の機数がアメリカに供与見返ぶんとして返還されたことになっているが、そのかなりのものが、直接台湾に輸出され、台湾空軍で使われている。三菱重工製の戦闘機が、海外の空軍で使われているのだ。
これって、武器輸出にならないのであろうか。不思議だ。

煩悩 その51
マクドネル・ダグラス F-4 ファントム
ぼくが子供のころは、かなりの部分がベトナム戦争の時期にあたっている。良きにつけ、悪しきにつけ、日本はベトナム戦争と大きく関わっていた。そして、日本が米軍にとっての最大の補給基地となっていた。
したがって、国民の関心も高く、毎日のようにテレビで新聞で、ベトナムでの悲惨な闘いの様子が報道された。主としてアメリカ・南ベトナム政府側のものが多かったが、日本電波ニュース社のように、限られた情報ルートながらも、北ベトナム側の情報もそれなりに流れたきた。
戦争そのものには、良いも悪いもなく、ないに越したことはないものだ。民族の存立をかけた民族同士の内戦ならまだしも、侵略戦争には大義名分はないからだ。しかし、映像には兵器がでてくる。それも最新兵器の活躍だ。ミリタリーマニアにとっては、戦争そのものの是非はさておき、最新兵器の映像という意味では、不謹慎ではあるがワクワクするものだ。
さて、当時の米軍の最新鋭戦闘機はF-4ファントムだ。運動性、機動性、積載量とどれもそれまでの戦闘機の水準を大幅にうわまっており(もともと、戦闘機以上の空戦能力を持つ、超音速攻撃機として設計された)、防空によし、攻撃によしと万能に見えた。
だからファントムの名前は、なんとも「かっこいい」ものであった。その後、F-104Jの後継機として、日本の航空自衛隊に正式導入が決ったときには、これまた不謹慎ながら、何ともうれしかったものだ。

煩悩 その52
グラマン TB-1 アベンジャー
第二次世界大戦中のアメリカ軍機で、ぼくがいちばん気になる機体がこれだ。世間では、アメリカのブッシュ前大統領が、戦争中にアベンジャーのパイロットをやっていて、日本軍に撃ち落とされたことから、かなり有名になったが、3人乗りの雷撃機である。
とにかく、当時の艦上機としては、びっくりするぐらい大きい機体だ。そもそもぼくは、戦闘機よりも攻撃機のほうに好きな機体が多い。これはそもそも戦術上の存在感によるところが大きい。戦闘機は、空戦を行うための飛行機だ。空戦により、敵の攻撃機も落として自軍を守ったり、敵の戦闘機を落として制空権を得て、自軍の攻撃機が活躍しやすくするのだ。つまり、敵機がいなくては活躍の場がないのだ。
これに対し、攻撃機は、敵艦なり、敵の部隊なり、敵の陣地なり、本来1対1の「白兵戦」ではなかなか撃破できない敵を、空から一発で撃破するための「武器」だ。
戦争を遂行する立場からいえば、まさに敵の中枢に対する、直接的な兵器なのだ。だから、対空兵器も戦闘機もない敵に対しては、攻撃機があれば圧倒的優位に立てるのだ。これが、ぼくが攻撃機が好きな理由だ。また、それだけに、戦闘機に比べると実用的でメカメカしたデザインになりがちなコトも、好きな理由になっている。
で、このアベンジャー、プラモデルでもよく作った。その中で忘れられないのは、戦後、自衛隊に供与された同機に改造したものだ。なぜか、アベンジャーが日の丸つけているのがうれしかったのだ。

煩悩 その53
グラマンA-6イントルーダー
われながらマニアックだとは思うが、現代米軍機の中では、イントルーダーはもっとも好きな機体の一つだ。超音速戦闘機みたいなハデさはないが、1960年代初頭の就役いらい、ベトナム、中東、湾岸等々、アメリカ海軍、アメリカ海兵隊の作戦が展開したところでは常に大活躍した。何をもって「強い武器」というかは「矛盾」の昔以来、定義が難しいところではあるが、「敵を撃破する」ことにおいては、イントルーダーは「最も強い軍用機」の一つであろう。
第二次世界対戦中の重爆撃機をしのぐ爆弾の積載量と、高度なレーダーと操縦性による、全天候低空侵入力は、1960年代初頭としては卓越した設計で、これゆえに戦術軍用機としては異例ともいえる超寿命を誇った。
対空兵器は何も持っていないが、もともと、空中戦のできない低空で侵入するわけで、山の谷間に入ってしまえば、圧倒的に強い。実際、海兵隊所属のイントルーダーが演習中に、山の中の高圧線をひっかけて切ってしまう事故はむかしよく起きた。
戦友を失った怒りから、秘かに出撃、単身ハノイを爆撃してしまうという「イントルーダー怒りの翼」という映画があったが、これはフィクションとしても、たしかにそういう任務ができないことはない意味で、「強い飛行機」だ。

煩悩 その54
LTV A-7コルセア
A-6と同時期に米海軍で使用されたが、A-6が全天候低空侵入という、特殊な用途の攻撃機だったのに対して、A-7は伝統的な海軍攻撃機、すなわち敵艦隊への攻撃と、地上への侵攻時の支援を主目的として設計された。配備の上ではA-4の後継ということになる。
ベトナム戦争中期から実戦に投入された。
すでに名機として定評のあった、F-8クールセイダーの部品を活用して設計したため、異例のスピードで実戦投入が行なえたことも有名だ。
コストが安く、積載量も大きく、機動力もあるため、もともと海軍機ではあるが、空軍でも導入されて活躍した、数少ない例でもある。
さて、ぼくはこのコルセアとか、クールセイダーとか、機種に大きなレドームがあって、その下に空気とり入れ口があるジェット戦闘機は、デザイン的に好きだ。なんといっても、猛獣とか、猛禽類の顔のような感じで、強そうだからだ。特に、エアインテイクにあわせてシャークティースなんか書くと、スゴい迫力だ。しかし、角度によっては、妙にぽかんと口をあけているようで、愛敬があるのもまた楽しいところだ。

煩悩 その55
三菱 F-1
いまや、引退の時期も近付いてきたF-1だが、かつては少年ファンにとっての「希望の星」であった。なんせ、「初の国産超音速戦闘機」だ。高度成長の時代には、こういう「日本初」で、「世界に伍する」技術は、大人も子供もワクワクしたものだ。やはり、日本人は最強の二番手というか、追いかけるほうが性格的に向いているような気がしてならない。
このF-1、当初はFST-2改と呼ばれた。超音速練習機であるT-2をFS(FSXでおなじみの「支援戦闘機」)に設計変更したものだ。しかし、この「改」というのは、帝国海軍の「紫電改」いらいの伝統なのかもしれないが、なんか変だ。最近でもF-4EJ改なんて型番があるから、自衛隊ではふつうなのだろう。まあ、自衛隊も基本的には日本の役所なので、常識が通らなくても仕方ないかもしれない。
考えてみれば、支援戦闘機というのも変だ。常識的には、攻撃機だ。しかし、日本においては一次防衛線は海上にあり、敵は、海の上を来るか、空を飛んでくるか、かならずどちらかからくる。地上での闘いに比べると、陸上軍をのっけているキャリアーをぶったたけば、一発で全滅できるのだから効率がいい。ということで、日本に必要な攻撃機は、ヨーロッパやアメリカのものと違って、「陸地の基地から、対艦攻撃を行う」ものなので、ちょっと機能が違っている。その意味では独特の名前があって悪いわけではないのだが……。

煩悩 その56
Mig-25
かつてソ連があった頃には、ソ連は恐くて強力な、世界のヤクザみたいな国だと思われていた。とくに、一般人にはそういうイメージがあったろう。しかし、ミリタリーマニアにとってはちょっと違う。ソ連とは決して侵略的な国ではなく、どちらかというと守り強さに特徴のある国だ。
そもそもロシアの戦略は、むかしからここに特徴がある。ナポレオンの侵略も、ナチスドイツの侵略も、この守り強さで勝ってきた。これはソ連になってからも継承され、攻撃力については極端に核ミサイルに依存し、実戦兵器はほとんどこういう用兵思想から作られている。この際たるものがベレンコ中尉の函館亡命で有名になった、Mig-25だ。
この機体、飛行速度と上昇性能は極端に優れている。しかし、航続時間とか、部品の寿命とかは、極端に短く、およそアメリカの基準からすればバランスが悪い。
しかし、これはこれでいいのだ。当時のソ連には、高速のミサイルを精密に制御する能力はなかった。ここでアメリカのマッハ3級爆撃機B-70に対抗するためには、地上からの管制で、ミサイルを、充分当る可能性がある爆撃機の近くまで持っていって発射する、「運搬人」がいるのだ。このためだけに最善の性能を追求したのが、Mig-25だ。したがって、これはこれでいいのだ。
ソ連を恐くみせていたのは、ソ連が恐くなくては商売にならないひとたちなのはいうまでもない。

(93/12)



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