心に残るあのマシン

(その2)


その6 APPLE][ plus

なんか、呼ばれたみたいな気がしたんで、急遽計画をくりあげて、いきましょう。
おなじみ、APPLE][ plus でござんす。

ま、このマシンそのものは、みなさんよく知ってるワケで、あんまりどーこーいってもつまらない。そこで、APPLE][ を語るとき、きっても切り離せない「文化」、それも日本ならではの「裏文化」の話をしましょう。

APPLE][ も、plus の時代になると、市販のアプリケーションがいろいろ出てきた(もちろん、アメリカで)。
で、これを買ってきて走らす分には、そんなにコンピュータの知識がなくても、まあ、何かと楽しめるようになったワケだ。
マシンそのものは、ROMがかわっただけで、何も変わってないんだけどね。

で、日本なんだけど、ソフトは入ってこない、あっても高いという状況が続いていた。その意味では、マニア用マシンの域を出ていなかった。

ここにさっそうと登場したのが、見栄ユーザー、マタの名を「ソフト・コレクター」。
業界周辺に、めちゃ多かったんだけど、向こういくついでに、ゲームだろうと、ビジネスアプリケーションだろうと、ナンでもカンでも、金にあかして買ってくる、こだわりおじさん達だ。
彼らは、決して実用で使わないのね。
ゲームとかはするけど。

このルートを通じて、いろいろソフトが入ってくる。
しかしAPPLEのディスクは、FDCなしで直接ソフトでコントロールするんで、プロテクトがきつく、コピーツールも使うのが面倒。
一方、おじさんたちは、自慢のソフトを交換しあって、コレクションを増やしたい。
この、ニーズとシーズの間で、さっそうと名乗りを上げるマニア。

こうして、見栄ユーザーと、マニアとの、不思議な共生関係が出来上がった。

コレクションを殖やせる、おじさん。
最新のソフトにありつけるマニア。

こうして、日本のアップル・カルチャーは、「実用」ということばから、200万光年もほど遠く、暗く歪んだものになっていったのでありました。

しかし、このノリ、というか構図。今でもどっかで見ません?
そう、この辺にもいるけど、Macユーザーの世界ね。
ぼくも、Mac買って、久々にこのノリを思いだした。

結局は、うさんくさいマニアックなノリなんだけど、「アメリカン・カルチャー」とか、何とかことばでそれをかくして、自ら納得したりとかね。
まあ、もともと秋葉少年だし、そういうの嫌いじゃない方だし。

なんっつーか、ちゃんと、日本のアップル・カルチャーは、脈々と受け継がれていんだなーと、実感する私でありました。
おそまつなおちで、すいません。


その7 APPLE][ コンパチ

でた。これだ、これ。日本のアップルカルチャーを語るには、これを無視しては、バチがあたるってゆう、コンパチ機。
キットタイプと、完成品タイプがあって、どっちにしろえらい安い。本物の1/3位で、手に入った。

ロビン電子だぜっ。本多通商だぜっ。
むかしゃ、九十九だって売ってたぜい。
九十九でSYSTEM DISKのコピー買ったんだぞ。
要はどこでも本物でなく、コンパチを売ってたってこと。
そしてマニアが持ってるのは、およそ本物ではなく、コンパチ機だった。

で、コンパチ機しか持ってないマニアが決っていう自慢がこれ。

「本物は電源が弱くて、ボードをいっぱいさすと、ついてけなくなる」
「本物はRAMの発熱が大きくて、無駄な消費電力が大きい」

をいをい、このせりふ、どっかで聞いたことないかい。

これに、「クロックが本物より速いからね」の一言がつきゃ、

            「エプソン PC-286」

を、買ったマニアが、「昨日まで98けなしてたクセに」といわれて、返すことばとおんなじじゃないか。

そうだったのかー、すごいっ。
さすが、エプソン。
コンパチ機の本質を見抜いている。
マニアの納得する、うさんくささ。
これがなくっちゃね。この、秋葉ノリ。

で、ぼくが持ってたのも、このコンパチでした。
今でもどっかにあります。

だけど、ROMとか、そのマンマコピーして焼いてたんだから、考えてみりゃ、スゴい時代だね。まったく。


その8 NEC PC-8001

ということで、このシリーズもとうとうPC-8001まできてしまいました。

PC-8001。ヒトは、これをもって、マイコン時代の終わりといいます。
あの、秋葉原のジャンク屋のように、わくわくさせる「うさん臭さ」
が、ぷんぷんしているマシンにあふれていた、マイコン界。
これがゆえに、マニアが集まり、胸ときめかせたのでありました。

しかし、何ですか。このマシンは。
全く、うさん臭さがない。
それどころじゃない。余りにまっとう、役に立ちそうな感じさえする。

マニアにとっては、こんなつまらないことはありません。
自分たちしか知らなかった、マイナーなアイドルが、メジャーになって、マスメディアにびんびん登場し、人気者になっちゃう寂しさ。
違ういい方をすれば、金になるってんで、コミケに、電通が大スポンサーと、札ビラきって乗り込んでくるようなモノ。
だから、いまでも、マニアはNECが嫌いです。

いわば、フィリッピンからの「ワーキング・ビザ」といえば、「ウタを唄うかわりに、客にお酌をするしかできない、歌手」や、「おどりを踊るかわりに、カラダを売るしかできない、ダンサー」、しかいなかったところに、突如、マリーンみたいな本格派シンガーが出てきたようなモノともいえます。
そりゃ、フィリッピンパブびいきのおじさんが、マリーンのコンサートいったって、こりゃおもろくないはなぁ。

かくのごとく、マイコンはパソコンとなり、アソびから、ビジネスになってしまいました。
当時新入社員だったぼくからみると、これは、仕事のカタチが変わるまえぶれのようにさえ感じられたのでした。
しかし、仕事と縁のないヒトにとっては、恋人がさってゆくような寂しさを感じたのも、当然かも知れません。


その9 パソピア

あ、とうとう出てきちゃった。とーしばだよ。パソピアだよ。
まずいねー、こいつぁ。もめるよ、あとで。
でも、かいちゃおっ。しーらね、っと。

で、なんてったって初代パソピアね。
こいつはスゴい。
すごーい、おマヌー。
初回ロットで、5000台だかなんだか、そのぐらい出て、これは当時のパソコンのファーストロットの記録なんだよね。
ところが、とーしばの不幸はここからはじまった。

この、初回ロットの何千台かは、「とーしば初の本格パソコン」に期待するがあまり、系列の販売店が、店頭展示用に仕入れた、いわば見本だったの。
だから、客にはほとんど売れてない。ぜんぶ、店に並んでるだけ。
これを勘違いして、セカンドロットつくっちゃった。
これじゃ売れないわなぁ。2台は、見本いらないモン。

これからJ-3100まで、とーしばさん、パソコン冬の時代でした。

しかし、パソピアといえば忘れられないのが、キーボード(というか本体)の脇につける、一行の液晶ディスプレイ。
どういうヒトが考えたんだろうね。
で、これが、けっこう高い。
やっぱりおかしいよ。

で、パソピアといって個人的に忘れられない話。
当時テレビの仕事してたぼくは、なぜかお声がかかって、とーしばパソコンの総合プレゼンの一環として、パソコン番組の企画作って、プロモートにいったのよね。
企画書探してきて、久々にみたら、こりゃ笑える。
「おもしロジック・でじたる倶楽部」だって。ぼくが考えたタイトルだけど。
笑いたい方は、どーぞご自由に。
もう時効。時効だから、ノー・プロブレムで笑ってください。

でも、関係者の方、笑われて気を悪くしたらごめんなさい。決して悪気はありませんから。


その10 日立ベーシックマスターレベル3

ほんの出来心ではじまったこのシリーズも、いよいよ最後の第10回。
有終の美は、誰かさんも愛用していたという、このマシンを切りまくりましょう。
また、文句いうヒトがいるかな。

まあ、とにかくスゴい。
このマシンに使われているCPU、"6809"には、究極の8ビットという、わかったような、わかんないような愛称がついてたけど、まさにCPUが究極なら、マシンも究極。
究極の8ビットパソコンというのにふさわしい、超ド級の設計だ。

まず、なんてったって、どんガラがでかい。
日本のパソコン史上、ダントツのでかさ。
オール・イン・ワンタイプながら、下手なビジネスデスクなら軽く占拠しちゃうぐらい、充実した躯体。
あの、APPLE][を、タテ、ヨコそれぞれ1.5倍ぐらいに引き延ばしたような大きさだ。
これで、APPLEと、値段が同じレベルなんだから、安い、安い。
買物上手な奥さんがにっこりするかどうかは知らないけど、重量も格段に重いから、グラム単価だって、ずっとお買得。

また、スペックもスゴい。
ベンチマークなら、どこの製品にも負けない。
ハード機能の充実ぶりもハンパじゃない。
本邦初の、インターレース、ノンインターレースの切り替えをはじめ、およそ技術者が思いつきそうな機能はみんなついてる。

さすがに、日立製作所。
だてに「製作」してない。

かつて北の大地を震わせながら、雪の原野を我が物顔に走っていた、SL界の千代の富士こと、C62型の蒸気機関車を作ってたメーカーだけのことはある。
パソコン作ったって、半端なものは作らない。
手抜きせず、大型コンピュータ同様のノリで作るのが日立流だぜ。

とにかくハードウェアの純粋にハード的な意味での充実度では、歴史に残るマシンでありました。ただ、それだけでしかなかったというのが、不幸だっただけで・・・。

(89/02)



まえにもどる

「コンピュータや通信に関連した雑文」にもどる


はじめにもどる