広告会社における媒体作業のあり方



現状では、そもそも媒体の価格相場自体がスケールメリットで決ります。だから、純然たるメディアバイヤーとして、大手広告会社の媒体部門が、本気でバイイング・パワーを発揮すれば、圧倒的な好条件を引き出すことが可能です。現実に、媒体スペースの買い手市場化は、今後一層進むことは誰もが予測していることですから、こういう取引に関しても、研究しているヒトは(当然ひそかにだけど)研究してますよ。このような将来の媒体取引は、外為のディーリングルームみたいに、手を打つ瞬間の判断だけが人間の作業で、あとは機械がやることになるのでしょう。

これの一番の問題は、本気でこれをやり出すと、媒体部門というか、メディアバイヤーとして競争力を持てる会社は、せいぜい数社で、あとは、広告主を担当する企画チームだけで、媒体作業はすべて社外のメディアレップ任せ(のほうが儲かる)という、アメリカ的な状況になってしまうことです。中堅広告会社は自前の媒体部門は持てなくなります。圧倒的な価格交渉力を持つメディアバイヤーでなくては、有利な価格設定は不可能になるからです。

現状でも、そのぐらいバイイング・パワーは企業間で違います。けっきょく、過去にいわれた「対媒体交渉力」も、このスケールメリットあふれるバイイングパワーそのものだったんですね。ぼくは、テレビ出身だし、ずっとテレビ作業を見てきていうんだけど、電通・博報堂に代表される広告会社は、媒体に対しては利権もなにも持ってません。日本の広告市場の黎明期、昭和30年代の電通吉田元社長の時代ならいざ知らず、市場構造が買い手市場になった、1980年代以降の媒体市場では、利権などそもそもつくれるワケがありません。

媒体作業ってのは、「できて当たり前、できなきゃバカ」の世界になっちゃったんだよね。この10年間ぐらいで。つまり、失敗して文句つけられることがあっても、できたからといってそこに付加価値があるわけじゃない。GRP3000%っていったら、3000%出りゃいいだけ。必要な作業だけど、そこで付加価値を生むわけじゃない。これって、媒体作業をしている人にとってはなかなか見えにくいし、見えてもモラールを考えると言いにくいところだよね。ぼくの経験からいうと、媒体作業って広告作業じゃはしっこもはしっこ、最後の尻拭くような部分なんだけど、中にいるとなかなかこれに気づかないし。

つまり、
1. いまやっている媒体作業には、付加価値はない
2. 媒体作業に絡んで付加価値を提供できない限り、手間をかける意味はない
この二点が、現在媒体作業を担当している人には、極めて見えにくいし、まず、ここを理解しなきゃいけないってこと自体を、理解することが大変なことなんだ。それができてはじめて、付加価値のある媒体作業とは何か、考えられる。

たとえば、数年前のヒットキャンペーンに「答えは15秒後」シリーズがあったけど、あのキャンペーンのアイディアは、素材のクリエーティブじゃなくて、一枠飛ばして答え編を出すっていう、媒体利用のアイディアだよね。媒体利用の付加価値って、こういうところにあるはずだし、このアイディアが媒体の担当者主導で出たのではないってところが、致命的だよね。こういうアイディアがでてくる媒体作業でなければ、いっぱい人手をかける必要などないですね。

広告会社の収入源は、広告主の広告費であって、これは、広告主と密着して広告主の課題に対して付加価値のある提案を出し続けてはじめていただけるお金だ、ってことを忘れちゃいけません。これを忘れなければ、どんな時代になっても広告屋は生き残れる。対媒体社の交渉力も、広告主のお金のスケールメリットがあってはじめて出てくるモノ。先に交渉力があるんじゃないんだよね。よく勘違いしてるヒトがあるけど。自分のビジネスの強みはどこなのか、もっときちんと知るべきですね。

日本では過去、企画立案を行う営業チーム部門と、媒体等の仕込みを行うバイヤー部門が、一体の会社として同一の利害の元に動いてきました。しかし、もともと媒体バイヤーと、営業チームとは、利益構造が違う別の会社です。だから、変に一つの利害関係の元にある「ふりをする」よりも、早く別々の価値観を持って、独自に動けるようにするべきです。

それだけでなく、これをもっと進めて、媒体バイヤー部門は、メディアバイイングカンパニー化して、ほかの広告会社にでも、広告主直でも、価格破壊でスポットを売りまくって、とにかくスケールメリットをさらに追及すべきでしょう。それが、正しい方向です。欧米のメガ・エージェンシーは、レップやSPプロダクションを買収して、総合広告コングロマリット化を目指す。日本の大手広告会社は、事業部化、分社化で同じ総合広告コングロマリット化を目指す。これはこれでいいではないですか。



(94/09/09)



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