丹青通商ものがたり



SEをSE/30にアップグレードしてだいぶたった。030使ってはじめて、なんとか許せるスピードになったというのは、一言も二言も文句をいいたいことがあるが、ここでは本題でないのでよそう。まあ、なんとか、「使える」状況になったので、いろいろ仕事とかにも、ちょこちょこ使うようになってきたわけだ。
ちょうど今、ある本を書いているのだが、いろいろな事情で図版の部分まで請け負うことになり、これをMacでやることにした。すると、気になることが二つ出てきた。

一つ目は、なんといっても、外付けハードディスクでは運搬が大変なことだ。いつもは、Macはシンセのところにセッティングしているのだが、図版を書くときは、机のところまで持ってきて使う。これがめんどくさい。おまけに、虚しくハードディスクのLED用の穴まであるし。内蔵ハードディスクが欲しくなるのも仕方があるまい。

もう一つは、ハードディスクの容量だ。外付けは40MBだったのだが、音楽だけならこれで十分でも、図版の作成に使うアプリケーションやデータがたまってくると、けっこういっぱいになる。

そこで、意を決して内蔵HDを購入することにした。内蔵80MBのHDというコトにして、安いものはないかと Mac Japan の広告を探した。すると、

   「国産ドライブ使用80MB内蔵HD、\128,000」

というモノを見つけた。店の名前は丹青通商といった。これだ。ぼくは、銀行から13万円を引き出すと、秋葉原へ向かった。

丹青通商。前に2〜3度行ったことがある店だ。今はうって変わった瀟洒なビルになってしまった、かつての「国際ラジオ」の裏手のあたりにある。秋葉原でも、あやしいジャンクショップがいちばん集中しているあたりの、ビルの二階のはずだ。地下鉄を降りるや、ぼくは一目散に、そこへ向かった。

かつては、マニア中のマニアしか足を運ばなかったそのあたりである。なにせ、あの「秋月」があるといえば、泣く子も黙るであろう。しかし、「秋月」のキットといえば欠品が多かったが、文句を聞いたためしがない。それもそのはずだ。「秋月」のキットを買うようなマニアなら、そんな欠品パーツの一つや二つ、自分のジャンク箱を探せばすぐ出てくる。というハナシを、この前、某著名ゲームプログラマ氏(現在、アメリカで大ヒットした某ゲームの移植をしている)として、盛り上がってしまった。

しかし、今ではソフマップの「Macコレクション」ができたため、心あるMacユーザーにとっては、かなり親しみの持てる場所となっている。

ほとんど昭和20年代という狭い階段を上がって、2階にある丹青通商のドアをくぐる。いかにも「ブローカー」という感じのオヤジと、いかにも「をたく」という感じの若い店員と二人がいた。この店には、女のコの店員もいた筈だが、この日はなぜかいなかった。前には一人客がいて、PCコンパチのCGA/EGA互換ボードを求めていた。この店は、PC互換機にも強いのである。

ぼくは、オヤジの方に話しかけた。

ほ〜 :「この、内蔵80メガ」

オヤジ:「機種は」

ほ〜 :「SE/30」

商談はあっさりすんだ。オヤジはさっそく、奥のパーツ倉庫から、松下製の80MBのハードディスクユニットと、鉄製のフレームを持ってきた。さっさっと組み立てる。「をた」青年はその間、50芯のフラットケーブルにコネクタを圧着している。ユニットは新品のようだが、再生品の様にも見える。しかし、ちゃんと動いてくれれば問題はない。聞けば、この店で売っているMacのハードにはこれを使っているが、評判はいいそうだ。

フレームに組み付け、LEDをつけ、テストしている。どうやらテストを兼ねて前もってMac用にフォーマットしてあるようだ。待つこと十数分。どうやらでき上がったらしい。

二度目の会話が始まる。

オヤジ:「取り付け方はおわかりですね」

ほ〜 :「マックオープナーを持ってますから」

よく考えると意味のない会話だが、このときはこれで通じてしまった。そして、いくつかパーツを買い、あわせて13万円ちょっとを支払った。もちろん、領収書はきちんと印紙付きのをもらう。20万以下のOA機器はは必要経費で落ちるから貴重なのだ。

オヤジ:「すぐ使えるようにしておきましたからね。まいどありぃ」

すぐ使えるように、という言葉が多少ひっかかったが、多分「フォーマットしてある」というコトなのだろうと思って納得した。そして、家へと帰った。

いつでも、いくつになっても、秋葉原からの帰りは心がときめく。はやく家について、動かしてみたい。そんな気持ちでいっぱいだ。取説とかがある場合には、地下鉄の中で、もう、我慢しきれず読んでしまう。しかし、今回はむき出しのハードディスク。こんなモノを電車の中で取り出して、ニタニタしたのでは、単に「をた」というだけではないか。

とか考えているうちに、家までつく。さあ、着替える間も惜しいとばかりに、さっそく手には Mac Opener が握られている。さすがに専用フレーム。何の問題もなく、するりと収まる。LEDの位置もピッタリだ。ホンの2分ほどで組み立てられる。さあ、テストしてみよう。

前から愛用の、C&Eの40MBをSCSIにつなぎ、電源を入れる。

「しゅるしゅるる」

順調に行ってる。ふっふっふ。お、何だ。内蔵の方を読んでるぞ。そうか、システムも入ってるのか。まさかウィルスは無しだよな。といって立ち上がったデスクトップには、今までのぼくのシステムでは見なれないアイコンが並んでいた。

「何だ、これは。Excel、FilemakerII、そして……」

まさか、と一瞬この目を疑ったが、その次の瞬間、あの店構えが思い出された。あれなら、あるかもしれない。そう思うや否や、右手はアイコンをダブルクリックしていた。

「おお、起ち上がるぞ」

いろいろ試してみた。ちゃんと使えるではないか。確かに最新のバージョンではないが、正しく本物だ。ウイルスも入ってない。

「すぐ使える」とは、このことだったのか。

これこそ、アジアの醍醐味。Apple][のころまでは、九十九でも、どこの店でも味わえた楽しみ。今では、秋葉でもその数はへり、香港でしか楽しめないというこの快感。

「こんな店が、まだあったとは。もう、秋葉原エレクトリックパーツも終りだ。これからは、丹青通商、これしかない」

「すぐ使える」ハードディスクが欲しいヒトは、すぐに丹青通商に急ごう。


                              <終>

一部、公序良俗に反する表現がありますが、時効ということでそのまま公表いたします。あしからず。



(90/06)



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