関西楽器店めぐりレポート





関西の方へいってきまして、十何軒か、楽器屋をのぞいてきましたので、そのご報告をしたいと思います。はじめにおことわりしておきますが、ぼくは、関西の、あのアジア的でちょっと猥雑な雰囲気が大好きなのです。だから、ちょくちょくあっちに行くのですが、これから出てくる痛烈な意見も、その愛情がゆえの所産。関西の方。どうか、気を悪くしないでください。でも、もしぼくの誤解にもとずくような点があれば、どんどん反論してください。ほんじゃ、いっちょいきますか。

毎年、二回くらいはあっちにいって、ミュージックシーンに触れてくるんですが、いつも感じてたこと、今度もますます感じました。音楽と、コンピュータとが、他人の関係なんですね。いままでは、もしかしたら単に遅れているだけなのかな、という気もしていたんだけども、今度で、確信が持てました。こりゃ、根本的にLMの根っこが違う。

アイディアとか、ウィットとかといった、いわば考えオチのヘッドミュージックじゃダメで、パワーでノセるボディーミュージックでなきゃウケない。やはり、河内音頭に代表される音楽文化の歴史的土壌を持っている強みでしょうか。時空間を共有できる、バイブレーションの一体感が、重視されてる気がします。だから、ノー・コンピュータ、ノー・ドンカマってなって、ギターミュージックに走ってるんじゃないでしょうか。

なんてっても、メタルと、不滅のソウルとは、その手の代表格ですからね。それはそれで、ぼくももともとギター屋さんなので好きだし、非常にいいと思うけど、楽器屋さんに98がないというのも、ちょっとさびしいな。98を置いて、デモってたのは、心斎橋の三木楽器と、日本橋の某パソコンショップだけでしたよ。でも、カモンミュージックって、あっちだったよね。不思議だなぁ。
ラック音源も、あんまりみないし、ましてやS-900なんて、気配すらない。だからおもしろいんだけどね。その辺のノリで、一発ドーンと当てるミュージシャンが出てくると、日本の音楽界も、活気づきそうな気がします。ほら、頑張って。

つづいて、気になったエピソードを箇条書き方式で、アットランダムにいってみます。

1.めためた古いシンセを売っている
もう、これは、アナログなんちゅうもんじゃない。アナクロシンセでっせ。ミニムーグの中古もよく見たけど、これは序の口。アメリカ村のフォーライフに何があったと思う。ローランドのSH-3だぜ。のっけから、まいったか。ぼくが、高校か大学入ったかって頃の代物だ。だが、この店はこれだけじゃない。ローランドのSH-09のデッドストック、つまり、新品があるんだ。
これはたまらんといって、そのすじ向かいのAleckに入ったら、ここにも大物があった。ぬぁんと、コルグのオルガン。二段鍵盤のやつ、BX-3だよね。それも新品で。その筋の人には、なにものにも代えがたい、B-3をほうふつさせるアレです。あるとこには、あるもんだ。神戸には、あのGS-2の中古を売ってたし。
そういやぁ、阪急梅田駅のわきのフォーライフには、Arpのモノシンセの中古があったけど、あまりに過去の遺物なので、型式がわからない。ううむ、これでは、話が盛りあがらん。残念。で、今回の大ヒット。いいですか。心を、落ち着けて。そっ、そっ、そっ、ソリーナの中古をですよ、けっこういい値段で売ってるんですよ。やっぱ、場所は秘密にしておこう。でも、結構メジャーな店ですよ。

2.生ギターがでかい顔して売られている
今や、完全に根暗の地方出身者の代名詞と化した、生ギター。東京じゃ楽器屋の奥の方に、こっそりと人目を忍んで置いてある。そしてその一角だけ、じっとりとした怪しい雰囲気が漂う。昼なお暗い、生ギター売り場。それどころか、売れゆきのいい店では、まったく取り扱っていない。
それが、大手をふって、店頭にずらりと並んでいる。そして、ああなんとキーボードより売り場面積が広いなんて。大阪じゃ、わりとキーボード関係の充実している、梅田ナカイ楽器・32番街店。ここですら、売り場の広さがタメなんだよね。ここ、最初キーボード専門店としてスタートしたはずなのに。で、きわみは、京都のワタナベ楽器。
キーボード売り場が、生ギターフロアの片隅にさびしく置かれている。これには、正直いって参りました。

3.店員がメタル少年ばっか
これも、キーボード関係が弱いのと表裏一体なのですが、ほんと、店員がメタル少年ばっかりなのです。東京ではおなじみの、キーボードメーカーから派遣店員としてきている女の子(彼女たちは、尻が軽いのでもおなじみ……、言ってはいけない業界ネタを言ってしまった)もいない。
こっちが、パソコンにくわしいと知ると、突然プロテクトの話題をはじめる、テクノ少年もいない。客のいないときには、もくもくとギターの練習にはげんでいるという、あのなつかしい、古典的な楽器屋の店員の姿が、そこにはあるのでした。ま、その、店員のレベル自体は高いともいえるのですが。

4.浪速エキスプレスがいまだに人気がある
別に、わるい意味じゃありません。さすが、地元。てなとこでしょうか。浪速エキスプレスといえば、ぼくの友達が中村健治選手の知り合いで、その関係で六本木Pit-innに解散コンサートを見にいっちゃったりしたんですが、これほどいまだに支持されてたとは、とても思いませんでした。
なにがって、楽器屋の、バンドやりたしのブレッティンボードの中に、必ずといっていいくらい、「フュージョンバンドやりたし・メンバー募集」というのがあります。そして、その曲目の中には、これまた必ず浪速エキスプレスの名前が、燦然とかがやいているのです。そういえば、中村選手のキーボード講座なんていうのも、どっかの店にあったな。

5.なぜかミラージュはよくみかける
キーボード、特にデジタルキーボードは、まえにも言ったみたいに、なかなかマイナーにしか扱われないんですが、そんなかじゃ、なぜかミラージュがよく目立つ。キーボード付のヤツはもちろん、音源ユニットもちゃんとある。東京じゃもう売れないから、あっちに押し込んだのかな。それとも、ミラージュって日本ハモンドだから、エーストーン以来の伝統で、あっちに営業が強いのかな。でも地元だけど、別にローランドがめちゃ強いわけじゃないからなあ。これ、今回の不思議一番です。

てなわけで、一応関西シリーズもここまでにしときます。御意見、御感想、なんでも、待ってます。


(1986年8月17日)



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