実践作詞講座シリーズ

その2 メロディーへの歌詞のハメ方





歌詞を作る場合には、一般的にいって「曲が先で、歌詞をハメる」ほうが、曲としてのまとまりもいいですし、歌詞と曲との一体感も高まるようです。これは「言葉のリズム」に対して特別にセンスのあるヒトを除けば、「リズミックでノリのいい詞」を曲なしで書くのは難しいからです。しかし、曲が先にあれば、この問題はクリアされます。

さて、言葉を曲にはめるときに問題になるのは、メロディーに対して言いたいコトの音節数があわない場合です。しかしこのようなときには、ウマく解決する手連手管のテクニックがあります。このような「言葉のはめ方」についてご説明したいと思います。

言葉のはめ方-1 「フェイク法」

あなたがシンガーソングライターで、自分で唄おうという場合なら、いちばん簡単で手っとり早い方法は、歌詞にあわせてメロディーをフェイクさせることです。いわゆるコブシです。音符を増やしてしまうワケですね。ただし、これは、相当に歌唱力のあるヒト以外には、おすすめできません。しかし、力量のある人なら、音節の1つや2つ簡単にこの方法でクリアできます。よく、ブルースなんかである、コーダのところで、無伴奏で、適当なメロディーで、歌詞無しでシャウトするみたいなヤツ、あれができるヒトなら、この方法は、十分実用になります。

しかし、これは、メロディーでなく、歌唱力というか、歌声の説得力で引っ張ろうというやり方ですから、誰か他のヒトが唄う、そして、その人の歌唱力が物足りない、なんて時には使えません。この方法の、代表的愛用者に、山下達郎氏がいますが、彼が作った曲を他人が唄うと、「達郎の下手なモノマネ」になってしまうのは、このためです。あまり作詞のうまくないヒトが作ったリズムの弱い歌詞で、なおかつ修正一切まかりならんなんて時は、対応するにはこの方法しかありません。しかし、歌詞作りという点から見れば、これは明らかに邪道です。おたくっぽく例えるなら、BIOSを使わずにじかにハードにアクセスするようなものです。だから基本的には、特別な場合をのぞきお奨めできるものではありません。

言葉のはめ方-2 「接頭語・接尾語法」

第一回の「フェイク法」は、いわば邪道なんですが、いちばん明快ということで、まずご説明しました。で、今回のはいちばんまっとうな解決法ということができます。仮に「接頭語・接尾語法」と呼びましたが、これは前置詞や冠詞、助詞や活用語尾等を変化させることにより音節数を修正し、メロディーにぴったりはまるようにするモノです。

たとえば、

     愛してるって いったけど

というフレーズがあり、これじゃ、ちょっと音節数が足りないという時

愛しているって いったけれども

として、三音節増やすようなやり方です。

この場合、最も重要なことは、あくまでも曲の完成度という視点から見てゆく、すなわち、評価基準は、メロディーやリズムの心地よさにあるということです。だから、これらは、曲が完成してからの、微修正作業としてとらえなくてはいけません。詞が先行する場合、何かガイドになる曲があった方が作りやすいのは、実はこのためなのです。

その時にも、常に、リスナーとして聞いたときの、自然さ・心地よさが、判断の基準になります。何回も、声を出して唄ってみること、それでよくわからなければ、テープにとって、何回も何回も比較して聞いてみましょう。

言葉のはめ方-3 「言い換え法」

「接頭語・接尾語法」が、どちらかというと対症療法だったのに対し、この、「言い換え法」は、いわば、手術のようなものです。基本単語だけ残し、ジグソーパズルのように、はめかえ、並べ変えて、新しいことばも接着剤のように使って、再構成します。いわばほとんど新築に近い作業、あるいは自分で自分の作品を改作するような感じです。

たとえば、先ほどの例でいくと、

    愛してるって いったのに  ……(1)

とあったものを、もっと、ぐーっと冗長にすべく、

     「愛してる、あなた」 そう言ったことばも ……(2)

なんてするようなやり方です。

「あなた」、「そう」、「ことば」という、新しい単語の助けを借りて、全体が、かなり長くなってます。これと、1の「フェイク法」を併用すれば、(1)では、4小節でしかないフレーズが、(2)では、8小節でもクリアできるわけで、この方法は、曲全体のバランスから、構成をうまくとりたいときにも、非常に有用なことがわかります。

基本的には、この3つのやり方が代表的だと思います。あとは、これの組合せによる応用です。その場合でも、常に忘れてならないのは、曲としてみたときの心地よさということでしょう。リズム、メロディーは、全てに優先します。これが込められていることばだからこそ、「詩」ではなく、「詞」だ、ということができるのです。




(1989年1月)



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