実践作詞講座

その3 ソングライティング講座





ソングライティング講座 第一回

ということで、勝手にはじめてしまいました、ソングライティング講座。まあ、具体的な作品を前提に、そこにいたるプロセスを解説するという、我ながら僭越な企画ですが、ご声援もあるようなので始めることといたします。

さてこの「7/365の涙」は、Nekoyoさんのもとウタがあって、それに手を加えるとい
ういささかイレギュラーな作り方なんで、ちょっと説明しにくいところもあるんですが、なるたけ一般的な形で説明します。

さて、みなさん。こういうタイプの歌詞では、何がいちばん大事だと思いますか?それは、シチュエイションというか、コンセプトです。こういうウタは、自分の体験をうたったものだと、余りにヘビー過ぎてしまうんで、ちょうど小説や映画のように、ストーリーとして「ありそう」というのが、共感を呼ぶわけです。

中島みゆきのウタ作りなんかが、いい参考になりますね。あれは、まさに小説で、フィクションと割り切った中で、ドラマを作ってくということでは、すばらしいものがあると思います。ちなみに、ユーミンは、このドラマ性がよわいですね。

で、今回のコンセプトは何か。これは、理詰めで考えるんじゃなく、頭んなかに、まるで映画とか、TVドラマみたいに、映像が浮かんでくる(ぼくの場合)ものです。CXのアイドルドラマ1時間モノという感じかな。いや、ちょっとNHKのドラマっぽいところもあるなぁ。

ストーリーとしては、こんな感じ。

高校時代仲の良かった、わたし(女の子)と彼がいて、それが恋愛だったのか、友情だったのか自分ではわからなかった。で、彼の方のそれは友情で、だからこそ、卒業して違う町の大学ヘいって、彼女ができたことも教えてくれた。でも、それを聞いて泣きだしてしまってはじめて、わたしの気持ちが「恋愛」だったことに気がついた。だけど、もし、彼がこのままわたしを友達と思っていてくれるなら、泣きだしたことを許して。一週間待って。わたしもオトナになるから、友達のままでいて。

というような感じです。

それで、ウタを作るときには、ここんトコがいちばん大事なワケです。この「イメージストーリー」がないと、ここから先、全然進まないし、出来上がってもあんまりまとまんない。曲も含めてね。

だから、最初は、感動した映画のストーリーとか、小説とか、もちろん既成のウタでもいいけど、そういうモノをベースにコンセプトをみっちりとたてるといいんじゃないでしょうか。

もっとも、ウタにはもう一つの大きな流れがあって、これは「オレの叫びを聞いてくれ」ってヤツで、「こんなに愛してるのに、どうしてわかってくれないんだよー」か、「オレを振りやがって、こんちくしょー」とか、とにかく、なにか言いたくてしかたないときの気持ちを温存しておいて、これを、歌詞にぶっつけるわけです。

これは、そういう気持ちになれば、わりと簡単にできるけど、そういう気持ちになったことがないと、非常に空虚な歌詞になっちゃいます。だから、はじめは「ストーリーもの」から入った方がいいんじゃないでしょうか。ヒットもしやすいしね。

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ソングライティング講座 第二回

そういうわけで、年も変わりましたので、いよいよ連載の第二回を
いってみようかと思います。前回はほとんど前置きでしたんで、ウタを創る話は、実際上は今回からという感じですね。

さて、今テーマにしている「7/365の涙」は、もとになるNekoyoさんのウタがあったんでちょっと違うんですが、スクラッチ(はは、模型かよ)で創る場合には、まずはじめにストーリーからイメージを広げるわけです。

とはいっても、小説やシナリオを創るわけではないので、そんなに細かく詰める必要もないわけで、トイレの中で力みながら、とか、通勤通学の電車・バスの中で、吊革につかまりながらとか、そんな感じで自由に発想を広げるわけです。主人公の名前とか、性格とか、住んでるところとか、こういうのにこだわると、けっこうイメージがわきますね。

で今回は、そういうのとはちょっと違うんで、Nekoyoさんの詩を、まあ、じっくりじっくり、覚えちゃうぐらいによむわけです。

で、ある程度イメージがたまってきて、臨界に達すると、ここで、一気にひらめく段階に達します。この場合は、まずEmのモントゥーノ(注)のパターンが鳴りだしてきました(結局、キーはAmになったけどね)。ここには、理屈なし。ほんとに、わいてくるだけ。ある程度曲作りに慣れてくると、5分もすればここまでいけるようになるよ。

それとともに、パズルを解くような感じで、もとウタのAの部分の前半の歌詞、


卒業してはなればなれになってしまった私と彼
手紙もだんだんこなくなってきたね
「新しい彼女ができたら知らせて、
 祝福してあげるから」
なんていつも強がってたけど
本当はいつのまにかあてのない
待ちぼうけをするのがこわかったの


の中から、


卒業してもう半年 手紙もこなくなった
ときめいた ふたりの世界も このままはなれてゆくみたい
「彼女ができたら教えて、お祝いしてあげる」
強がりも ひとり待ちぼうけ するのがこわかっただけなの


というフレーズが、大ざっぱなメロディーと一緒に出てきたわけです。この時点で、頭の中では、さっきからなっている演奏が、もう、かなりちゃんとした進行をともなってきてて、メロディーが出てくるとともに、まあ、大ざっぱなアレンジも骨格ができてきています。

ここでは、同じメロディーのところで、「ふたり」と「ひとり」で対比させたところだけ、多少アタマでひねってます。これは、前半の「ふたり」がわいてきて、後半のところではなんか埋める言葉が欲しかったんで、ま、意図的にやったワケです。

それで、これとほぼ同時に、リフレインのメロディーも出てきました。そこで、リフレインに相当するCの歌詞、


祝福だってしてあげたいけど
今はできない
1週間泣き晴らして
思い出を流してから・・・
1週間で・・・忘れてあげるから


から、そのメロディーに歌詞をはめる形で、


一週間 泣かせて
思い出を流したいの
一週間 泣かせて
「友達」へもどれるまで


を、ひねり出しました。そうなると、あとは簡単で、Aとリフレインのメロディーから、Bのところのメロディーを創ります。これは、セオリー通りみたいな感じで、うまく流れができるようにすればいいわけです。

歌詞もBの部分のイメージをもとに、一部もとの言葉も生かしてはめ込みでいけます。

ということで、1番ができました。アタマの中で、そして、楽器をひきながらちょっと声を出して、唄ってみます。3〜4回唄えば、アタりが出るというか、変なメロディーとか、違和感のある部分とか丸くなってきます。さあ、これから2番です。


注: モントゥーノとは、ラテン(カリビアン)の基本となっているピアノのパターン。サルサ等の音楽の骨格ともいえる。松岡直也の18番としても知られる。

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ソングライティング講座 第三回

ということで、第三回いきます。
老婆心といわれれば、それまでなんですが、ほーんと、著作権の問題だけは、真剣に考えて下さいネ。

さて前回のところで、エイヤーっと書き始めてから1番ができるまで、大体10分弱。もっとも、アタマのところとかは、その前にチラチラ浮かんではいましたが。2番は、こうなると、いうべき内容も、フォーマットも決まってるんで早いモンです。

あ、その前に、全体の構成がありますね。ここでは、いわゆるユーミンスタイル、1番、2番、で、3番の前半が間奏になってて、リフレインに入る、という格好でいくことにして、間奏は、前半パーカッションソロ、後半ギターソロということにしました。

で、2番、それから、最後のリフレインに行きます。
1番から、フォーマットは、


******** *******った
****た ふたりの**も **********みたい

「**********、********」
**** ひとり***** *******っただけなの

久しぶりの電話 「好きなヒトができた」と
あなた** *******
*****ると思ったのに

一週間だけ 泣かせて
思い出を流したいの
一週間だけ 泣かせて
「友達」へもどれるまで


と、踏む韻を決めてしまい、あとはもとウタのイメージにしたがってはめていけば、いいワケです。ここは、はっきりいって、ボキャブラリーと、イメージの豊富さの勝負です。同じことを、どれだけいろいろな言い方ができるか。いわばコピーライターとしての才能が問われるところです。で、これは、5分もあればOK。「はい、いっちょ上がり」です。

作りたいウタのイメージをきちんと持っていて、あと、言葉のリズムというか、はめてく枠みたいなものがあれば、意外と歌詞というのは作りやすいものです。ここが、「詩」と「詞」の違うところです。常に、リズムをアタマにおいて、言葉がわき出てきてるかどうかです。

人間として、毎日言葉を使い、ヒトとコミュニケーションしている以上、言葉をハンドリングするのは、そんなに難しいことではない筈です。しかし、音をハンドリングするというのは、けっこう、非日常的なもので、これは難しいぞー。

よほどの天才でなければ、歌詞をもとに、そこにすばらしいメロディーを作っていくというのは、不可能でしょう。もっとも、歌詞を作るときに、プロの作詞家のように、潜在的なメロディーを入れ込んでおいてあれば、それを掘り起こすだけでいいメロディーはできます。

よくやるのに、既存の曲(外国曲がいい)に、全然別の歌詞をはめ込みで作るというのがあります。これだと、作詞の際に、潜在的なリズムやメロディーがあるワケですから、「ウタ」になる歌詞ができます。あとは、これを作曲家に渡せばいいわけで、プロでも、こういうやり方をするヒトは、けっこういますよ。曲まで自分で作るときには、もとウタのメロディーに引きずられて、とんだ目に会うことが多いですけどね。いわゆる、「善意のパクり」です。

「歌詞には、リズムが必要」、今回は、これを覚えといて下さい。


それでは、また。

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7/365の涙

       words and music by 江幡育子/藤井良彦

卒業してもう半年 手紙もこなくなった
ときめいた ふたりの世界も このままはなれてゆくみたい

「彼女ができたら教えて、お祝いしてあげる」
強がりも ひとり待ちぼうけ するのがこわかっただけなの

久しぶりの電話 「好きなヒトができた」と
あなたなら ほんとの気持ち
わかっていると思ったのに

一週間だけ 泣かせて
思い出を流したいの
一週間だけ 泣かせて
「友達」へもどれるまで


遠くの大学受けたのも おしえてくれなかった
信じてた ふたりの心も すこしづつすれちがうみたい

「わたしの気のせいよきっと、このままずっといられる」
それはただ ひとりうたがって 悩みたくなかっただけなの

久しぶりの電話 「好きなヒトができた」と
あなたには 平気なフリを
していられると思ったのに

一週間だけ 泣かせて
思い出を流したいの
一週間だけ 泣かせて
「友達」へもどれるまで

<間奏>

久しぶりの電話 「好きなヒトができた」と
あなたとは 自然なままで
話し合えると思ったのに

一週間だけ 泣かせて
思い出を流したいの
一週間だけ 泣かせて
「友達」へもどれるまで


(1989年1月)



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