ドラマーとグルーブ





ドラムをコピーするのって、他の楽器よりかなり大変なんですよね。コピー譜があってもコピーできないのがドラムですから。それはドラムの本質って、パターンやフレーズじゃなくて、グルーブ(ノリ)にあるから。あるレベルの才能がないと、そもそもグルーブが出せないし、それに加えてあるレベルのテクニックもないと、グルーブを叩き分けられない。

これができないドラマーは、リズムマシン以下(笑)。機械のほうが不満も言わないし、間違えないし……、ってことになっちゃう。人間のドラマーとやるってこと自体が、リアルタイム・グルーブ発信能力を求めてるワケですから。たとえば本当にスゴいドラマーって、スネアだけ、4分4つ打ちで、見事にグルーブを出してきますよね。まあ、他のメンバーもそれを聞き分けて、それに呼応するだ能力が必要ですが。

ここで難しくしてるのが、グルーブってヤツが一体なになのかって問題。なかなか正体がつかみ難い。そもそもタイミングの問題じゃない。うまい人は、というより、うまい人ほど、アタマのタイミングは全部ジャストでも、スゴいグルーブを出せます。だからMIDIでいう、ヴェロシティーとゲートタイムのコントロール、あとアタックのダイナミクスと減衰率みたいなのでグルーブは表現できるということ。

この4要素を巧みにコントロールすると、たとえば、4分のアタマだけを正確なジャストのタイミングで鳴らしていても、裏やグルーブが聞こえて来ることになります。ギターとか、ピアノとか、一般の楽器だと、比較的このコントロールは、(簡単ではないけど)マスターしやすいけど、打楽器は、ほとんど味わいが グルーブだけという感じなので、その分難しいし、同じ意味でスゴい人のプレイはスゴいわけですね。

もう一つ勘違いしちゃいけないのが、グルーブっていうコトバ(ノリっていうコトバも同じだけど)には 二つの使われかたがあって、
1.その時、そのバンドのその演奏で共有されている「何か」
2.一般にタイム感やダイナミクスにより生み出される「何か」
という違った意味があること。この両者を理解して使い分けなくちゃ、こんがらかっちゃいますよね。

で、「1.」は、「2.」の一形態でもあるから、ややこしい。バンドやってて気持ちいいかどうかってのは、「1.」のグルーブですよね。「1.」のグルーブが出せるか、共有できるかって問題です。一方、プロはすぐグルーブが出せるなんていうときは、「2.」のボキャブラリーやコントロールの仕方が、プロはうまくて、すぐ合わせられる結果、「1.」のグルーブが、出てきやすいって問題ですよね。

で、このカギはどこにあるかというと、

a. グルーブの分解力
バンド演奏のリアルタイムでもいいし、音楽聞いているときでもいいし、MIDIでいうところの、Steptime Gatetime Velocity に加え、アタックの位置などをどこまで把握できるか。

b. グルーブの再現力
あるグルーブを思い浮かべたとき、それを自分の楽器でどこまで正確に演奏できるか。

c. グルーブの応用力
いろいろあるグルーブのバリエーションの中で、今どのパターンを奏けばこの場に最適か瞬時に把握できるか。

この3つの力のバランスがよいかどうかということが、King of Grooveになれるかどうかの鍵。もちろん、把握っていうのは、数字的につかんでもいいし、もっと他人に説明できないような、肉体nativeな情報としてつかんでもいいし、それは問いません。場数を積むと、たしかに経験値が上がります。しかし、少ない場数で経験値を高めるほうが、速くウマくなれます。そのためには「音楽にはこういう要素がある」っていうことがわかっていて、それを意識して聞くのが早道でしょう。

この、グルーブを出すのがウマいかどうかっていうのは、一般的な演奏のテクニックとはちょっと別のファクターなんです。テクニックはスゴいけど、なんかいまいちぴりっとしないひとは、このあたりをキワめてみると、びっくりするほど上達しますよ。


(97/02/05)



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