トップページに戻る

ひとりひとりが取り組める災害時のメンタルケアのヒント
  (文責:田村智英子。リンク、転載、改変、コピー自由です。)

災害にあわれた人へ
そして、そうした人たちを助けたいと思っている方々へ

    印刷用はこちら→ PDF Word


1.他人の支援は大切、でもそれができるようになるためにも、まず自分をいたわって

 自分の身体や心が元気でないと、人を助けようと思っても十分に役に立つことができません。これは心理援助の専門家でも同じです。まずは、きちんと食べて寝て休息をとり、楽しいことがある人はそうしたことを楽しんで、少し心に余裕ができるまで、自分をいたわってあげましょう。そして、他の人を助けるときは、自分のできることをできる範囲で少しずつやってみましょう。無理しすぎて長続きしないより、少しずつ長く支援するほうが有意義です。


2.今は泣いてもいい、精神的ショックを受けたり動揺したりするのは当然
  そして、人間の心には時間とともに回復していく大きな力が備わっていることも覚えておいて

 今回の震災は、現地の人にもそれ以外の場所にいる人にとっても、様々な形で大きな衝撃をもたらしました。しばらくの間は、気持ちが落ち着かない、夜眠れない、涙が出て仕方がないなどといった状態になるのは当然です。しかし、これまであった大きな震災や事故でも、多くの人は大きな困難を乗り越えて立ち上がってくることができました。それには時間がかかりますし、それぞれの人の状況によって、立ち上がるのにかかる時間の長さも違うでしょう。でも、ほとんどの人はちゃんと自力で回復できます。それだけの力を持っています。しばらくの動揺や混乱は当然ですから無理になくす必要はありません。そのうち段々元気になってきます。時間がいやしてくれることもたくさんあります。


3.人に気持ちを話して聞いてもらいましょう、人の話を聞いてあげましょう
  そして、お互いに気持ちを分かち合いましょう

 話しづらいときは無理に話す必要はありませんし、まわりの人も無理に聞き出す必要はありませんが、我慢して一人で苦しんだり気持ちをため込んだりしないで話すことで、気持ちが少し楽になることも多いと思います。話したい気持ちになったら、周囲の人に「本当に大変」「つらい」と話してみましょう。話をされた側の人は、「そうなんですね」「それは大変でしたね」と相手の話に心から耳を傾け、遮ったり強く励ましたりせずに聞いてあげましょう。何もできずに無力に感じるかもしれませんが、何もしてあげなくても問題を解決できなくても、話を聞いてあげることはそれだけで相手の人にとって大きな援助になります。相手のつらい状況を聞いて何と声をかければよいかわからなかったら、「何と言っていいかわからない」と言えばいいのです。大したことが言えなくても、一生懸命聞いてあげることが大事です。何も出来なくても時々電話やメールができるときに連絡してあげるだけで大きな援助になります。「あなたが生きていてくれて本当に嬉しい」と他人に思ってもらうことは、それだけで私たちが生きていくための大きなエネルギーになります。また、震災で体験したことや気持ちは人によって少しずつ違うかもしれないけれど、お互いに感じていることを話したり聞いたりして、気持ちを分かち合うことはとても有意義です。自分の心に余裕がないときはちょっとしたことに反感を感じやすいかもしれませんが、自分と異なる感じ方や意見に出会っても、否定せずに、お互いの違いも認め合いながら話を聞き合うことが大切です。近くに心理援助の専門家がいないときでも、私たちがお互いに気持ちを話したり聞いたりして支え合うことは大きな力になります。

(注) 災害にあって大きな精神的ショックを受けた人に無理に話をさせることは有益ではありません。心理援助の知識や技術がない人が、そうした話を聞くのも大きなエネルギーを要することだと思います。困ったときは無理に話したり聞いたりする必要はなく、専門家にまかせて一休みしてもよいと思います。ただ、私たちの多くはお互いに温かく支え合うことで少しずつ元気をとりもどしていくことができるのも事実です。心理援助の専門家の援助の仕方として、無理に話をさせてはいけない、励ましてはいけない、といったことが言われるのは正しいことです。でも、そうしたことを気にしすぎて家族や友人であっても被災者と話をするのを恐れることがありますが、話をしたり聞いたりすることが必ずしもうまくいかないことがあったとしても、お互いに出来る範囲で少しずつ支え合うことは大切です。

4.困ったことがあったら我慢せずに気軽に相談しましょう、そしてお互いに助け合いましょう

 ある程度の我慢は悪いことではありませんが、そんなにたくさん我慢しなくてもいいのです。困っている人が困っていると言ってくれないと、周囲はわからないことがあります。周囲の人はそれどころではないように見えても、相談してみると、いろいろな人がいろいろな能力を持っているので、案外簡単に解決できることがたくさんあります。日本には、「困ったときはお互い様」という素敵な言葉もあります。困ったことがあったら遠慮しないで近くの人にちょっと相談してみましょう。


5.見た目でわからなくても困っている人がいることを忘れないで

 困っている人は気楽に相談してほしいといっても、相談できずに遠慮している人もいます。見てわかる障害や困難を持っている人だけでなく、見た目でわからない持病や困難を持っている人もいます。実は身体のどこかが痛かったり心臓が弱かったり、貧血だったりめまいがしたりしているかもしれません。電車の運行が急に止まったりすると、短時間ならと思って乗車した身体の弱い人が座りたくても座れず困っているかもしれませんし、耳の不自由な方が放送が聞こえなくて状況を知りたいと思っているかもしれません。停電で止まっているエレベーターの前で立ち止まっている人がいたら、見かけではどこも悪そうに見えなくても、「大丈夫ですか」と声をかけてあげましょう。階段を上るのに荷物を持ってあげるだけでも助かる人はたくさんいます。そして、困っている人は、遠慮しないで周囲の人に声をかけてみる勇気も必要です。


6.身体を動かしてみましょう

 身体を動かすことは、リラックスやストレス解消につながります。精神的な健康に運動が役立つことは様々な学者が報告しています。大々的な運動をしなくてもいいし、動かせないところがある人は動かせるところだけでかまいません。家の中にいる人も、手足や背中を伸ばしてみるだけで違います。肩や手首、足首をぐるぐるまわしてみるのもいいかもしれません。


7.専門的な心のケアがたくさん必要とされるのはこれから
  身近に心理援助の専門家がいたら気軽に相談して

 直後に支援が必要な人々も大勢いますが、震災の直後はとにかく生きていくための環境を整え生活の安全を確保することに必死で気持ちが張っている状態の人も多いと思います。しかし、ある程度状況が落ち着いてくると心の痛みを感じる余裕が出てくるのか、しばらくしてから元気がなくなる人が少なくありません。家族が無事とわかったとたんに気が抜けたようになって体調を壊してしまう人もいます。人間の心には大きな回復力が備わっていますが、専門家の力を借りてより上手に回復力を活用することも有意義です。眠れないときや体調が悪いときは近くの医師に相談してみましょう。また、心理援助の専門家を利用できる人は気軽に利用してみましょう。精神科医や臨床心理士さんは、より深刻な状態の人に注力していて「あなたは大丈夫」と言うかもしれませんが、そうしたら「そうか、私は専門家から見ても大丈夫なのだ」と自信を持てばよいのです。もちろん、心理援助の専門家に会ったらといって心痛や苦しみが簡単に消え去るわけではないかもしれませんが、心理援助の専門家は、じっくり話をきいてくれる専門家であり、さらに、ひとりひとりが自分の心に備わる力で立ち上がっていくためのきっかけを作ってくれたり気持ちの整理の仕方のヒントを教えてくれたりする人たちなのです。


8.元気そうに見える子どもも(大人も)実は心の負担を感じている

 気丈な大人もそうですが、特に子どもは、不安があっても上手に表現できなかったり普通に遊んでいたりすることがあります。元気そうに見える子どもでも、小さい子どもはたくさん抱っこしてあげたり一緒にお絵かきをしたり、子どもの話をしっかり聞いてあげたりして、安心させてあげましょう。


 トップページに戻る   メンタルケア・心理支援情報の目次に戻る

以上の文章は、医療カウンセラーの一種である遺伝カウンセラーの米国と日本での認定資格を持つ、田村智英子個人が書きました(勤務先とは無関係です)。

この内容を利用して起こったことについての責任を田村が取ることはできませんが、心理支援のトレーニングを受け医療現場でいろいろな人の相談に乗っている立場で、少しでも役に立つことがあればと思って書きました。適宜、ご活用いただければ幸いです。


Hit Counter by Digits

ver.3 2011年3月24日