***** 2001年1月22日 *****
(独り言)



 玉電こと東急世田谷線の旧型電車が、いよいよ引退するという。クーラー
も無く、梅雨時のことなど想像するだけでゾッとしたが、自分の生活圏に
無い無責任さから、あの大手私鉄東急にあって、こういう路線があるのも
面白いかな、などと考えたりもしていた。アルミサッシを木目のシートで
カモフラージュしているあたり、なんだか良いのである。大事に使われて
いる感じ、手のぬくもりの気配が、ほっとさせてくれるというか。

 本当言うと、怪しいコルゲート付きの150形の方が好きだった。なん
となく。詳しい方ではないから細かい評論など出来ないのだけど、単純に
顔が好きだった。後に80形もライトが下に来たが、どうも違うのだな・・・。
どちらも春を待たずに姿を消す。

 以前から、たまーに乗ることはあって、陽気の良い時など、連結部分の
運転台があったあたりで、全開にした窓から入り込む風に当たりながら揺
られるのが、格別であった。ガタゴト、ガタゴト・・・。そのついでに写
真くらいは撮ったりしたけれど、特に撮影を目的に訪れることはなかった。
碓氷峠が落ち着いて、近いことでもあるしぼちぼち、と思っていた路線で
はあったけれども、ついつい後回しに・・・・・そして手遅れになる・・・
・・・何べん繰り返したことか。



 ミーハー心全開で・・・癒しを求めたりしつつ・・・挨拶方々訪れてみ
た。一応、身の程は弁えているつもりである。今更来ておいて、無い物強
請りするつもりはない。ちょろっと、パチパチ撮れれば良いや、といった
ところか。せめてお決まりの、環七を渡る(気分的には電車の方が「渡る」
側か)若林踏切のシーンくらいしか、もう考えてなかった。

 新玉川線に乗って、三茶に降り立つ。世田谷線乗り場へ向かって、早速
記念乗車券セットと、1日乗車券を求める。1日券は2回も乗れば元が取
れる。旧塗装の電車のイラストが入っていて、これはこの時期に増えるで
あろう客層向けなのか?

 構内へ入り、折り返し電車を待つ。ほどなく入って来るは、いきなし玉
電旧塗装の80形。2つ目の若林で降りてしまうのが惜しい。構内ではカ
メラを構える人達。駅を出てすぐの踏切にもカメラの放列。グループで記
念撮影する人達もいる・・・。

 西太子堂を過ぎて間もなく、環七を渡る。順光側の歩道橋に人影を探す。
3人くらい見える。これなら楽勝で撮れそうだ。若林駅にはギャラリーが
溢れ、今降りた電車へ一斉にカメラを向けている。彼らが移動の気配を見
せる前に、お目当ての歩道橋へ向かう。

 すぐには戻って来ないが、150形も来るし、新型電車を眺めてても面
白い。それと、踏切付近で奮闘する同士諸君を、文字通り高見の見物する
ような部分もあって・・・・・そういうのは失礼とは思うけど、脚立を持っ
てわっせわっせと走り回る様は、引いて見るとなかなかアレだなあ、と。

 振り返ると歩道橋上には10人以上のギャラリー。黙ってそっと隣に付
いて三脚が据える人がいたりで、いつの間にか身動きが取りにくくなって
いる。誰も喋らない・・・・・んー。とそこへ、MLでお馴染みの面々が
登場。いつものことだけれど、ミニゲリラOFF会と相成る。やがて今日
の主役80形が登場。一斉にシャッター音。光線がイマイチだったけれど、
まあそれもまた、リアリズムというやつで。お手本写真なら誰かが撮って
るさ。



 ML仲間は、キャロットタワーから俯瞰するつもりと言う。あっ、そう
か! それがあったんだ! 同行することにする。単独行だったら忘れた
ままだったに違いない。感謝感謝。

 富士山こそ雲に隠れていたものの、遠くまで見渡せる、雪晴れの世田谷。
家々の屋根がまだ白い。逆光気味で室内の映り込みに悩まされたが、自分
のバッグの裏側が黒いのを利用して、こいつを盾にどうにか対処。只見で
はなんだか悪いので、キャロットジュースを注文して、これをちびちびや
りながら外を眺める。次々とやって来ては、また下高井戸へ向かって行く
電車。残雪の道をゴトゴトと走って行く・・・・・やはりそこは世田谷線、
いや玉電の普遍的な姿がそこにある。お目当ての旧型電車が、なんだか些
細なことのように思えてきた。やっぱりいいな、世田谷線。

 撮りに来たからには、勿論撮る。他の同志諸君とともに、眼下をゴトゴ
トやって来る旧型電車へ、レンズを向ける。どこかで見たような気もする
けど、これが今日自分の出会った鉄道の風景、世田谷の家並みと、雪と、
儚い電車、ただただ、それらを切り取るまでのこと。やがて消え行く風景
の、いわば形見作りか。

 電車はまた、下高井戸へ向かって行く。残された時間のうち、あと何往
復するのか知らないけれど、これまで何往復してきたのかますます判らな
いけれど、いつものように淡々と、ちょっと多目の乗客を乗せて、通い慣
れた道を行く。ゴトゴト、ゴトゴト。


(終)