***** 2003年3月8日 *****
(独り言)


 10cmも積もれば堂々「大雪」扱いな首都圏で生まれ育った身としては、
降雪という気象現象を、一種「イベント」のように捉えているフシがある。
公園や校庭で雪と戯れた子供の時分は言うに及ばず、大人になっても尚、そ
こに現出されるある種の非日常性、遅れてやって来る電車にさえ、妙にわく
わくしてしまう・・・・・尤もまだ酷い目に遭っていないからだろうケド。

 あの5年前の首都圏の鉄道が壊滅(!)した悪夢の夜も、横浜駅で暴動寸
前にまでなっていた頃、なにげに梅小路から鈍行と一部新幹線とを乗り継い
で帰ってて終電のつもりが本来より随分遅れて来た373系の普通列車の車
中の人であった私は、藤沢辺りで立ち往生しつつもそんな騒動などツユとも
知らず、リクライニングシートでグースカ寝入ってたし・・・・・着いたの
は朝だったけど。

 で、なんとなく雪国への憧れのようなものは、あった。しかし前述のよう
なお気楽な認識の延長にあるので、そこで暮らす人々にしてみれば、甚だ失
礼な話カモ。ごめんなさい。

 さて、別件で札幌へやってきた。そうだササラ電車の季節だよな、と事前
に札幌市交通局のページを覗いてみれば、ササラ電車の紹介ページが。ふむ
ふむ・・・・・問い合わせ先まで載っているので、事前に伺わせていただい
たのである。雪が降らなくても毎朝露払いに走ること、4:30頃に出場す
ること・・・・・4:30ですかい(汗)。



 ・・・眠いんである。昨日は寝不足で10分も座ってるとカクンと寝てし
まいそうな状態だったところへ、4時前に起きた。しかも寝るつもりのタイ
ミングじゃないところで寝入ってしまったものだから、眠りも浅かったに違
いない。しかしである。行かねばならぬ。凍結した道をイソイソと出かける
のであった。

 宿は豊水すすきの駅近く。真西へ進めばいずれ、市電の線路にぶつかるハ
ズなのである・・・・・冬は降っていないとはいえ、さすが道内随一の繁華
街、結構人気(ひとけ)もあれば、ちとアレなベンツなんぞが、アイスバー
ンをかっ飛んでる。東京じゃこうは行かないんじゃなかろか。

 もう1区画先だったかな、まだか、まだか・・・と歩いていると、前方で
何やら黄色いしましまが横切るのが、見えた。

 不覚!

 遅かったかぁぁぁ・・・・・って時計を見れば4:40頃。4:30頃出
場にしては、ちと早過ぎないかい。だが慌てることは無い。ササラ電車はす
すきの電停へ向かったのである。そのまま行き着いて、じきに戻って来るの
を狙えば良い。

 そこは東本願寺前という電停だった。高感度フィルムを入れたカメラに、
単焦点の高速レンズ、我ながらやる気である。寒さも忘れ、じっと電停に立
つ。やがて黄色い光がチラチラ見え出した。ササラ電車の回転灯である。ゴ
トゴトとやって来たそれは・・・・・ササラのユニットを上げたまま。残念
だが降雪が無いんじゃ仕方ない。雪かきをする必要が無くとも走って来るの
は、線路の巡回なのであろう。

 さてどうしたもんか・・・・・折角なのでまた先回りである。そう、市電
の路線は環状線に近い、巾着袋のような姿をしている。今、その口の近くに
いるわけで、電車がぐるーりと回ってくる間に、ひょい、と口の反対側へ行っ
て、よゆーかまして待ってりゃ良いのである。

 果たして、西4丁目電停へ来てみれば、電車がどう頑張っても着けない時
分。よゆーのよっちゃんである。さてさてどう撮ろうかな、まあただ撮るだ
けにしかならないけど・・・・・などと思案しつつ待っていると、電車はな
かなか来ない。所要時間を調べたわけではなかったのだけれど、それにして
もちと遅くはありませんかい。時計はとうに5時半を回っている。地下鉄の
初電が6:00過ぎ、それに乗りたいのだけど・・・・・もう来ないんじゃ
なかろかと・・・・・・と、正面に黄色いチカチカが見え。折り返しの間に
パチパチと。



 ・・・というのは昨日のことであった。眠いんである。昨日に続き、また
4時前に起きた。昨夜は雪が降り出し、これはと期待をしまくっていたのだ
が、起きてみれば止んでおり。積もるという程でもなく。ふむ・・・。

 しかしである。そんな降り具合でも、クルマが踏み固めて軌道の溝に詰まっ
てしまっては難儀であろう。今日こそ、形なりにも働いている姿が、見たい。
またまた東本願寺前へと歩く。また微妙な頃合に着いてしまったので、既に
行ってしまった後なのか、非っ常〜に気になる。おおそうだと路面を見る。
特にソレと思しき跡は見えづ。まだらしいな。しかし今日は逆回り、という
ことも、あるんじゃなかろか。

 それならそれで、まだ通ってないのならいずれ来るハズ、と待ち伏せを決
め込む。こんな時分に独り電停に立ってる図というのも、いかがなものかと
ちらと思いつつ・・・。

 やって来るに違いない方角をずっと睨んでいると、時折ソレっぽい光が見
えたりしてややこしい。またか、またか、とめげずに見ていると、今度こそ
はかーなーり怪しい光。あれだ。何やら煙が舞い上がっている・・・・・よ
し!

 舞い上がった雪煙は後続車のライトに白く輝き、その中にぼぉっとシルエッ
トで浮かぶ、ササラ電車。黄色い回転灯をチラッチラッ、と光らせて、悠々
と走ってくる・・・・・かっちょえぇ。

 もう、必殺仕事人かと。

 出来ることなら、それを望遠で狙いたかった・・・・・なんか再訪の予感
(汗)・・・・・と、ぶぅー、ぶぅーとササラを叩き付け、雪を舞い上がら
せながら、黄色いしましまが近づいて来る。これを流し撮り。

 と。

 行き過ぎたところでピタ、と止まる。え、反対側の電停に立ってたし、危
ないことしてないよな・・・・・と焦っていると、バックして来る! しか
も渡り線を渡って、ササラをぶんぶん回しながら、こっち側へ来る! あわ
わわ、と逃げ場を探していると、ピタ、とまた止まり、再びすすきのへ向かっ
て行った・・・・・やれやれ渡り線の掃除か。ほっ。

 今度は道路側から撮ろうと思い、すすきのの方へと歩いて行く。交差点の
曲がり角で内側から流そうという魂胆。程なくして現れたササラ電車。信号
で佇む姿をぱちぱち、雪をビシビシ飛ばされるんではないかと心配しつつ、
走行をぱちり。



 その後丘珠空港でYS−11なんぞ撮ってて、合間に市電に乗りに来た。
今回の渡道で、ササラ以外の普通の市電を、初めて見る(笑)。西4丁目の
電停へやって来ると、丸っこい市電。あの、ライトが寄り目2灯の、VWバ
ハバグ(BAJA−BUG)みたいな顔が幼少の時分より学研の図鑑で馴染
んでいたりするのだが、それとはちょーっと様子が違う。感じは近い気がす
るのだけれど、違うんだろか・・・。ともかく、ここ2、3年の間幾度か市
電は見ていながら、いつも角張った今風の車体の電車だったから、この丸っ
こいのは嬉しい。

 乗りに来るなりいきなしコレ、嬉しいではないか。いそいそと車内へ。乗っ
たついでに車庫を覗こう。路線図を探して車内をキョロキョロ、窓越しに写
真をぱちぱち、顔も綻んでいたことだろう。すっかり不審者モードである・・・。
思えば修学旅行で来た折に、乗ったきりであった。最早数えたくもないほど
(苦笑)前のことだけれど、広告電車化はしてなかったな、あの頃は。



 その名も「電車事業所前」電停で下車。外から様子を伺う。おお、いるい
る、ササラ電車に丸っこい電車。職員のと思しきクルマが無造作に駐めてあっ
てちと邪魔くさく思いつつも、ぱちぱちと。うーむ、入れてもらえないかな。

 意を決し、建物へ入る・・・・・通りかかった人に来意を告げると、慣れ
た様子で部屋へ案内される。広報担当らしき人が呼ばれてきて、ではどうぞ、
ととんとん拍子にコトが進む。アポ無しなのに・・・書類に名前を書くでも
無し。

 後ろについて歩きながら、手馴れた様子に、しょっちゅう訪問があるんで
すかと訊ねると、どうやらそうらしい。今日は小学生が来たとかなんとか。
ホームページからもウェルカムな感じが伝わってきたけれど、ナルホド。さ
あご自由にどうぞ、と勧められるも、勝手に歩き回るのはかえって気が引け
る・・・。

 ササラ電車は4両いた。予備車にしては多いなと思えば、大雪の時は手分
けして走り回らないと間に合わないのだという。我ながらアマアマであった。
うち新型が1両、なんかブラシの回転が弱いのか、車体が軽いのか、旧型と
比べてあまり強力でないらしく、専ら新雪用だという。なるほどそういうこ
とも、あるものなのか。

 ササラは山口県の竹のものを、取り寄せているという。こりゃまた遠いと
ころからと思えば、色々な産地のものを試した結果、山口県の竹が塩梅良かっ
たのだとか。エジソンの伝記のような話である。プラスチック等も試してい
たらしい。どれくらい使うと交換になるのかと訊ねれば、「減ったら取り替
える」と。いや、だからそうじゃなくて・・・。

 もう1つ気になるは、丸っこい市電。こうして見ると結構いて、これまで
会えなかったのは余程の不運ではなかったかと。広告電車化が進んでいるが、
それが楽しいと若年層には人気で、高齢者層には評判がよろしくない由。ふー
む見解の分かれるところではある。ほどほどのブレンドが良いのかな。これ
が標準色ですね、と言われたそれは、緑色の裾にちょろっと白が入った、大
人しいもの・・・・・ん、これだっけか? なんか違う。もっと明るい緑に、
黄色があしらって無かったかな。そんなことを言うと、「毎日見てるとかえっ
てあんまり覚えてない(笑)」と。聞けば昭和30年代の製造という。そう
いえばそういうラインをしてる。どこか優しい。綺麗にしてあるからあまり
意識しなかったが、老朽化も進んで、段々手がかかるようになってるらしい。

 そろそろ丘珠へ戻らねば・・・・・お礼を言って、再び電車に乗り込む。
路面電車の復権と言われている昨今、そういえば、すすきのと西四丁目とを
結んで環状線に、という構想もあったか。一方で、低床化など路面電車に求
められる性能も変化してきている・・・・・庫の中で佇んでいた、昭和30
年代の愛らしい電車達、彼らの行く末を、想った。


(終)