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2554 sun3965 CUB     94/04/20 02:23 もうひとつの碓氷峠                    74



 碓氷峠のルートは、現在のものの他にいくつか候補があったそうです。

 最初のアプト線建設の際にも、ずっと南の入山峠を通るルート(現在碓氷バイパ
スがあるあたり)もその一つにあったそうで、こちらにしておけばアプト式にする
必要も無かった? のだとか。でも犬釘1本にいたるまで輸入に頼っていた当事の
日本としては、少しでも建設費のかからない、最大66.7パーミル勾配のルート
を採ってしまった・・・・・。

 それが後に様々な問題を伴ってしまうのですが、戦後になってアプト式から粘着
式に切り替える際に、これまた幾つかの新線ルートの案があったそうです。

 一つは旧線に沿う形でやはり最大66.7パーミルの勾配を持つルート。もう一
つが、それを少し大きくくねらせて最大50パーミルとしたルート。そしてもう一
つが、これまた現在の碓氷バイパスがある方を通る、最大25パーミルのルート。
かなり迂回する形でくねくねして、ループもあり、まるでビッグ・サンダー・マウ
ンテンのようです(笑)。

 で、この25パーミル案の最大のメリットは、勾配が他の路線と全く変わらない
ということ。つまり、横川まで来た列車が、その先もそのまま運行が可能であると
いうことです。そして急勾配路線建設の特別な認可を受ける必要もありません。た
だ、当り前ですがキロ程は大分増えます。

 現実には、建設コストの問題(迂回線では旧線の施設などを活用出来ない。また
時期的には、あの東海道新幹線のそれと重なっていた)や、技術の進歩に伴う専用
の補助機関車の十分な安全性確保、迂回することによるロスタイム等々・・・・で、
結局ここでも66.7パーミルの案が採用され、そして我々の目の前をロクサンが
走っているのでした。

 「もしも」というのを、趣味の話だからこの際してしまうと、この25パーミル
案でも、横川〜軽井沢間の所要時間は30分程なのだそうです。しかも補機を必要
とせず、恐らく優等列車は横川を通過してしまうでしょうから、実質的には同等か
それ以上の早さということになるかも知れません。また入線する車両の形式も選ば
ないので、例えばEF58がやって来ちゃったりもする訳です。

 横川を出た列車は、右に左にと見え隠れする妙義山を臨みながら、すいすいと登
って行く・・・・・我らがロクサンが押し上げて行く「峠」と、スムーズかつ快適
な「峠」と・・・・・この2つのパラレル・ワールドの住人は、互いに「あっち側
の世界」を知りません。

 私達はロクサンやロクニや189系などを知っている訳ですが、しかしそれが、
「ある選択」の結果もたらされたものであるということを思う時、なんだか急にそ
れらがあやふやな存在に思えてくるから不思議です。

 さて北陸新幹線が建設され、「こちらの現実」の「碓氷線」は、その役割を終え
ようとしています。しかし「あちらの現実」ではどうなのでしょう。

 上越線にも三国峠という難所がありますが、これは現在も残っています。今や補
機を必要とする区間でもないですからね。これと同じように「あちらの碓氷線」も
残り続け、将来も鈍行列車で軽井沢へ行くことが出来るのかもしれません。

 「こちらの現実」では国鉄最大の「難所」となった碓氷線。結果ここだけの機関
車が活躍し、ここだけの今時ホームで駅弁を買うようなのんびりした雰囲気があり、
ここだけの「峠に挑む」という独特の緊張感とロマンがあるのでした。

 しかし、その「魅力」の源とも言える、いわば「非効率的」なところが、結局廃
止の理由になってしまうんです。

 もしもこれがなんでもない、単なる「信越本線の一部分」であったのならば、横
川も軽井沢も、ただの通過点にしか過ぎなかったでしょう。特に横川は「かつての
宿場町」「関所跡」というだけの、鈍行列車しか止まらない静かな駅になったに違
いありません。

 「あちらの現実」の、ループ線などは撮影の名所になるでしょう。それから横川
のちょっと高崎寄りの、国道と平行したカーブなども、有名撮影ポイントになった
かも知れません。「こちらの現実」では、わざわざ横川まで来て、ロクサンも、ロ
クニとの3重連も通らないこんな場所は見向きもされないのですが(笑)。

 もしも私が「あちらの現実」の住人であったら、やはり「峠」へ「峠」へと出掛
けたのでしょうか? いや、無いですね。


                         CUB



(註)やっぱ行くかもしれない。(^^;;;