***** 2000年9月30日 *****
(独り言)



 あの喧騒の日から、早3年。友人がロクサンを運転するというので、冷や
かし半分で横川へ出かけた。予定の時刻は、14:30とのこと。単171
の時刻に近いと笑う。単171というと、3年前、ロクサン2号を軽井沢へ
押し上げたスジである。本務は25号だったか。奇しくも今日のロクサンは
25号。役者は揃った。

 丸山を覗く。廃線跡では、蔓草が路盤の下から這い上がり、線路を呑み込
もうとしていた。いや、一部は既に呑み込まれている。信号機へも取り付き、
這い上がる。人を遠ざけるように振舞う蔓草。草刈は行われていたと思うが、
さすがに現役時代のように手はかけられないのだろう。草に混じって、バラ
ストの隙間から苗木まで伸びている。少しずつ、線路が破壊・・・・・いや、
自然への回帰が始まっている。ゆっくり、ゆっくり。人工構造物の、営みの
絶えた遺構は、時の流れの中にあって、儚い。

 コスモス畑は、満開にはちょっと早かったようだが、賑やかに花を付けて
いる。倒れてしまったのもあるけれど、それでも上を向いて花を咲かせる様
は、健気である。今年は手入れのお手伝いも出来なかったので、聊か申し訳
無かったが、いくらか写真に収めさせてもらう。補強の入れられた変電所建
物、この姿も今後どうなるのだろう。秋にここで過ごすのは、もう何年目に
なるか。変わったものあり、変わらぬものあり、そしていつもの、ほっとす
るひととき。



 横川へ戻り、昼食。東京屋のろくさんカレー。

 友人の勇姿(笑)は、郵便局のあたりで迎え撃つことにした。「文化むら」
の中ではアングルが難しそうに思えたので、外から狙う。郵便局前の、弟16
中山道踏切跡から、ロクサンや「あぷとくん」の正面を狙ってみよう、とい
うのは前から考えていたのだが、これまでモタモタしていて、結局今回が初
めてになった。

 踏切の横には、峠の鉄道の建設からその後の、事故や災害の犠牲者への、
慰霊碑と招魂碑がある。今日は慰霊祭が行われるとの事で、祭壇が設けられ
ていた。3年前からだったか、毎年9月30日には、慰霊祭が行われるとい
う。廃止のその日、あとで友人から聞いて残念に思った記憶がある。その後
も縁が無く、今年初めて、居合せることになった。

 慰霊祭は14:00に始まった。黙祷を奉げる。合わせて「文化むら」内
では「あぷとくん」が汽笛を鳴らす。前はロクサンが務めたらしいが、「あ
ぷとくん」もいわば、既にこの峠の歴史の、登場人物の1人である。

 神主さんが祝詞をあげ、続いて関係者の人達が儀式に臨む。鉄道会社、建
設会社・・・・・大手ゼネコンというと、どうにも無知の門外漢にはバブル
期のイメージが付き纏うのだが、明治の頃からこの国の骨格造りに携わって
きたのも、確かなのだな。そんな当たり前のことを、今更想ったり。建設時
から多くの犠牲を強いられたその上に、この峠の鉄道の営みは、あった。峠
の鉄道との関わり方によって、色々な立場があるだろうし、自分などは外野
の傍観者でしかないのだけれども、自分なりの峠の鉄道への想いや、先人達
への敬意、いや畏怖の念を、ここに新たにした。この気持ちを、今後も大切
にしたいと思う・・・。

 参列者の儀式が一通り済んだところで、あなたもどうぞ、と祭壇へ招かれ
てしまった。さっきまで一緒にいた友人は、既に「文化むら」へ行っている。
フォーマルな装いの参列者の中、独り場違いなジーンズ姿で恐縮しつつ、慣
れぬ手付きで見様見真似で、済ませる。気持ちを行動にしたところで、少し
気分が和らいだ。お神酒まで頂戴する。これから写真撮るんだがなー・・・。



 友人の駆る(というほどの迫力は無いのだが)ロクサンは遅れて、15:00
を回ってから現れた。ちょっと単171というわけにはいかない(笑)。正
面から狙うと、ロクサン独特のスラントした窓ガラスが空を映すばかりで、
誰が乗ってるのか見えやしない。臨時駐車場へ回り込んで、側面からどうに
か収める。予報が外れ雨の降る中、手ブレ補正レンズをもってしても露出が
かなり厳しかったが、さてどうかな・・・・・。

 返しを撮るべく、走って先回り。宿舎道踏切のあった付近、今は変電施設
のある付近で、迎える。露出が取れず、流し撮りするしかなかったが、この
方が面白かろうと納得することにする。広角至近流しで、少しは流動感が出
てないかな・・・・・また走って、友人が降りるところを撮る。ぜえぜえ。(=o=;;;



 「文化むら」内へ入った。時間が遅かったが、庫の中など見て回る。最近
お目見えしたシミュレータにチャレンジしてしまう。友人の運転を見て感化
されたんだと思う。

 うを。なかなかすげぇ出来だよ、これ。失礼ながらもっとちゃっちぃのか
と思ったら、少なくとも「電車でGO!」水準は行っている。しかもコント
ローラーは、なんたってホンモノ!

 ¥1K札を入れ、ノッチなどを定位置にして、スタート。シリースに入れ、
コキ、コキ、コキと進段。横川駅の懐かしい風景が遠ざかって行く。SP段
投入。つい画面に見とれてしまい、展開に付いて行けず、計器類を見る余裕
も無い。本物だったらかなりヤバイ事態だと思う(笑)。第1閉塞の歓呼、
勝手に言われる。パラ投入。丸山もなかなかリアル。徐々にスピードが食わ
れて行く・・・・・トンネル出口で滑る、砂撒きのペダルを踏む。くぅぅぅぅ
たまらない!

 熊ノ平手前のトンネルで進号歓呼を受け、ホイッスル。既に涙ちょちょ切
れである。ここで助走を付け、再び勾配へ・・・・・この先が端折ってあっ
て、気付くと矢ヶ崎。ノッチを戻す。ブロワー音が上がって・・・・・いた
ような気がする。停止法が訳解らぬまま、終了。腰砕けのまま、運転席でし
ばし呆ける。

 ヤバイ、これはヤバイ。PS用のソフトで出しても、これ1本で十分楽し
めると思うのだが、どうか? 本物を操るのには敵わないから、競合しない
と思うのだが・・・。

 体験運転も、ちょっとメラメラ来た。しかし初期投資額の前に、相変わら
ず二の足を踏む・・・・・でも行ける時に行っておかないと、きっと後悔す
ると思うのだな。

 21世紀の計は、とりあえずロクサンを転がす、遅れ馳せながらこれで行
こうか(笑)。



 そんな私はさておき、「その後の碓氷」は、4年目に入る。



(終)