2001.6.30 大島線最終日
 大島線のYSも、今日限りである。いや夏休みの臨時が飛ぶので、定期便としては、今日が最後なのである。

 そのようなわけで、今日はや氏と大島へ行って来ることになっている。よく解からないところで気合が入った結果、朝6:00羽田屋上集合。(=_=;;  累積へろへろの重苦に、30分も遅刻してしまった、すまぬ。や氏には先に済ませておいてもらって、自分も着いたところで早速チェックイン。 後ろの方を、と思っていたが機械を通す際に心変わりして前の方を。7A。2月に乗った席の1つ後ろだから、まあ、あのへんだな。ふむ。 と、操作画面に、7:30の天候調査次第によっては云々、と・・・・・おおい(汗)。

 屋上でや氏と合流。いやその前に、この羽田の惨状よ・・・・・霧、霧、霧。京浜島が見えない。離陸上昇の飛行機が忽然と消える。 海に面しているためか、川崎(南部)は晴れで羽田が霧、ということもよくあるようなのだけど、それにしてもこれ・・・・・ 大島はもっと酷いんじゃあるまいな。天候調査如何によっては、8:00を前にして本日の全行程終了、である。早起きしてそれは辛い。 飛ぶだけ飛んで、引返してくる、というのも、まあ、あり得る展開の中では比較的嬉しい部類に入るのだが(をゐ)、しかし遊びの物好きばかりが、 乗客ではないだろう。遠く霞む、今日乗ることになる・・・・・乗れる筈の・・・・・乗れたら良いのだが・・・・・YSをぱちり。

 出発ロビーへ降りて、LEDの掲示板を見る。841便、場合によっては引返す由の但し書きがスクロール中。写真に撮りながら、戦慄を覚える。 よく考えてみれば、普段接する殆どの乗り物が「乗れて当り前」であるから、まあ、これ程度の「非日常性」でもう、メロメロなのである ・・・・・いや面白がってる場合ではない。ないのだが、しかしこの「状況」を楽しんでしまっている自分が、やはりここにいたりするわけである。

 荷物を預ける。今日のフライトのタグが欲しかったので。大島から羽田に着くと毟り取られてしまったのだが、こっちからではどうか。 手荷物検査を通り、バス乗り場へ。今回、バスで最前列に乗るのが一つの、いや最大の課題だったりする。まあフロントガラス越しに、 近付いてくるYSを撮りたいと思ったからなのだが、前回隙を突かれその「ポールポジション」を逃したばっかりに、今度こそはなんとしても、 最前列なのである。悔いが独り歩きしているような部分も、少々あるカモ・・・・・待合席を見回すと、どうも客層にバイアスがかかっている風。 他人のこた言えないが、どうも濃いぃ感じなのである。怪しい。やはり怪しい。ならば警戒しなくてはならぬ。まずは乗り場ゲートの前を確保である。 何人たりとも割り込ませてはならぬ。とにかく今日は、勝たねばならぬ。 ・・・・・「大島行きのお客様、お待たせいたしました」・・・出来るだけ落ち着いた風を装いつつ、ゲートを一抜け。 この時点で傍目には尋常ではないかもしれなかった。まあいい、ともかくバスへ歩みを進める。後方の気配を覗うも、どうやら独走体制のようである。 勝利への行軍が続く。そのままバスに乗り込み、最前列を確保。呆気ない。圧倒的勝利にしばし、カメラの用意を忘れてしまった。

 バスが走り出す。エプロンへ出て、そして見えてきたYS。ビデオを回しながら、内心ガッツポーズ。回り込んでバスが止まる。ドアが開く。乗客が降りる。 しかしバイアスのかかった客層である。濃いぃ客層なのである。エプロンに留まりなかなかステップへ向かおうとしない。今このエプロンの一角は、 あれこれ思案して撮る者、自分を入れて撮ってもらう者、そっちまで行って良ーのかー?、な場所から撮る者・・・・・撮影会である。コクピットを見ると、 機長さんもこっち見てる、その心中を測る術は無い。地上の係員が「早く乗り込んで下さーい!」「出発が遅れてます!」「そろそろお願いしまーす!」 と繰り返し促す。幾度か繰り返され、ようやくにして、機内へ流れて行く・・・・・という状況を知っている私も、外で撮っていたのではないのか。 ときに今日のYSはJA8772、先月乗った機体である。

 着席を待っていたかのように、すぐさまエンジンが始動。見回すと、ニコニコした人が多い。カメラバッグも乗る前から目に付いた。 多分、みんな仲間なんだと思う(笑)。エンジンが良い塩梅に回ったところで、タキシング開始。この間に案内放送が入り、 引返しの可能性についても触れられたが、そして例の、救命胴衣の実演へ続いた。放送に合わせて、一番前に立つCAのおねいさんが、 救命胴衣をかぶる。いきなり一斉にフラッシュが! 膨らます為の、紐を引く真似をする・・・・・フラッシュ!、足りない時は口で吹き込む、 のポーズ・・・・・フラッシュ!、フラッシュ!・・・・・おいおい(汗)。CAのおねいさん、心なしか顔を歪ませてた気がする。 ・・・ん、今日は雑誌の取材なんかが乗ってる可能性も、あるわけか。あー、あの特集号か?(ぉ

 機はターミナルの前を通り過ぎて、34Lの入口へ来た。着陸する飛行機をやり過ごし、進入、やおらフル加速して・・・・・離陸。 ああ、上がってしまった。出発してしまった。果たして向こうへ着けるのか?、無事に帰れるのか?・・・・・今日一日の運命を、この小さな機体に託す。 左旋回して眼下には浮島。やがて外界は真っ白になってしまった。房総をかすめたのか、三浦を横切ったのかも判らないまま、時々海や陸地が見えて、 しばらく飛んできたところで、高度を下げ始めた。残念だけど、もうすぐ大島である。右へ、左へ、幾度か旋回したようである。やはり霧が濃い。 空港上を一旦航過してから進入するのだろうか。やがてうっすら海面が見えて来た。多分、碁石浜からのアプローチなのだろうけど・・・・・

 ぶぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・・うぃぃぃぃぃぃぃぃぃん・・・

 あん?

 エンジンがパワーを上げ、上昇し始めた。これ、もしや着陸復行、ってやつ? 昨年暮れに羽田で目撃して以来、 あんなに憧れていた(!?)着陸復行、でもまさか、そんな巡り合わせなど無いだろう、と思っていた着陸復行。まさかこんなにあっさりと、 体験するとわ・・・。どうするのだろう、このまま羽田へ戻ってしまうのだろうか・・・・・見回すと、方々で乗客がニヤニヤしている。 なんだかなー。あ、私もニヤついてら。

 CAのおねいさんから状況説明の放送が入り、しばらくして機長さんから詳しい説明。視程が悪く滑走路が視認出来ないために復行、 もう一度進入を試みて、やっぱり駄目だったら羽田へ帰ることになりそうだという。引き返し・・・・・ああ、なんという幕切れ。なんという有終。(ぉ でもなんか、どっちでも良いような気がしてきた。投げ遣りではなく、既に満足しているというか。「台風飛行」を読んだ後とあって、 どうしてもあの飛行を連想してしまうのだけど、まあ台風からすれば平和なものではある・・・・・また右へ、左へ、と旋回する841便。 陸地が見えたかと思うと、また海上を飛び、大きく右へ回り込んだかと思ったら、いきなり碁石浜に出た。バンクする目の前に灯台が見える。 ギリギリの至近で回り込んで、アプローチへ入るつもりらしい。陸地が迫ってくる。これはやる気だ。滑走路上に入った。 接地するまでの間が永遠のように思われた・・・・・どすっどどどど・・・・・ぶおぉぉぉぉぉん・・・・・機内で拍手が湧き上がった。おおこの、一体感!  しかしYSは、至って当り前のように、空港エプロンへ入って行く。プロフェッショナル・・・・・その言葉のままに。 ひゅぅぅ・・・エンジンが止まった。静寂・・・・・今体験した、ちょっとしたドラマの余韻。機内は殆ど無音に感じられた。

 降りてしまったは良いが、帰りの便は大丈夫だろか・・・。

 タラップから降り立つ。足取りがやや覚束ない。手もちょっと震えてる。恐かった筈があるものか。着陸劇に燃えてしまったのである。 空港にはYSへ贈る言葉でも出てるかと思ったけど、何も無し。デッキには4、5人の人影。帰りの便が不安なので、 忘れないうちにエプロンでや氏に記撮してもらう。ここでまた、バイアスのかかった乗客達によって撮影会が始まる。そこへクルーが降りて来たものだから、 たちまちこの、「YSさよならツアー」客達に掴まってしまった。一緒に写真に入ってくれ、と次々に強請られてる。ただでさえ、 今の緊張の着陸の後である。しかも遅れている。折り返しの出発の時間も過ぎようとしているのに、これまたなかなか終わらない。 今日の遅れの実態は、こういうことなのである(笑)。やはり今日のフライトは、「YSさよならツアー」なのであるな。勿論、 本来定期便ではあるけれど。けれどこれが、最後の定期便になるのかもしれないのである・・・・・この空模様からするに。

 帰りは844便。カウンターの「天候調査」の文字を気にしつつ、することもないので、レストラン(?)で早目のランチ。ソレな客が何人か。 今日発売の航空雑誌をいきなり読んでる人も。うーむ。他の大半人達は、どこかへ消えてしまった。着陸狙いの撮影ポイントへ行ったのか、 観光へ行ったのか・・・。私らの場合は昼の便で帰ってしまうので、中途半端に時間が無い。なのでウダウダしながら、 iモードで842便の羽田着を確かめたり。841便は結局1時間ものフライトだったのだけれど、842便では回復運転(飛行機では何と言う?)したのか、 30分ほどで帰ってしまっていた。なんだか他人の持ち時間を取ってしまったようで、悪いかなー、などと・・・・・ん、34L着陸だったら早いか。 昼の部までには空き時間があるから、朝の遅れはチャラになる筈だ。

 東邦航空のヘリが現れたのでデッキへ見に行って、カウンターの前へ降りてきたら、「欠航」の文字。さっきの「天候調査」が、 まんま「欠航」に化けている。あー、そう来るんじゃないかとは、ちょっと思ってた。思ってたのだが、実際目の前に突き付けられると、それなりの重みがある。 退路を断たれる・・・・・着陸の瞬間から頭に引っかかっていたことであった。しかし慌てることは無い。備えあれば憂い無し、 事前に調査はしてある。いやYSの切符が取れなかった場合を考えて調べてたのだけど、こういう成り行きであるにせよ、心強いことである。 払い戻す前に、チケットを写真に撮った。幻となったフライトの写真を。や氏が早速、東海汽船へ電話を入れてくれた。 16:30発アルバトロス。普通の船よりちょっと高いがそれでも、払い戻しのお金をこちらに回して、夕食代くらいは残る。 846便が飛べば、風向き次第ではこれに乗る前に港から見えるかもしれない。・・・考えようによっては、朝のフライトがエキサイティングだったので、 もう今日は良いかな、という気分も、ちょっとある・・・。他のお客も、カウンターの文字を見て「笑うしかない」状態に陥っている風であった。 あまりにもあっさり決めてくれた気もするけど、朝のアレからすれば、慎重にならざるを得ないのかもしれない。 飛んで引返せば物凄い損失なのだろうし・・・・・「台風飛行」を読んだ後では、ちょっと寂しい気もするけど。

 大島空港を後にする。ジェット化が完了すれば、ターミナルの建物も新しい方へ移るらしい。丸っこくて可愛らしいこの建物、 恐らく見納めになるのではと思い、名残にぱちり。元町へ歩いて行き、やはり中途半端な時間なので火山博物館などを観て、東海汽船の港へ戻る。 や氏と、iモードでチェックしていたのだが、845便は羽田を発っていた。ををやる気かぁ、と言ってたのだけど、これがなかなか、 大島に着陸したとも、引返したとも情報が出ない。パケット料度外視でプチプチ出すも、依然「到着予定」のままなのである。 定期最終便、パイロットも意地で進入を試みているのだろうか。時刻はもう16:00を回っていた。 本来なら846便となって羽田へ向かっている頃合である。まだどこかを飛んでいるのか? それとも・・・・・いや、そんな。

 そろそろ「アルバトロス」へ乗り込もうかと、桟橋の方へ出たその時である。

 ぶぅぅぅぅぅぅぅぅぅん・・・・・・・・

 えっ?・・・ああっ! 北の空の低く、YSが右旋回して行った。霧の中へ消えて行く。大島空港進入のアタックを続けていたのだ!  飛び立ったからには、降ろす・・・・・パイロットの執念だろうか。あの健気なプロペラ機共々、今まさに、霧の中で格闘している・・・!  なんだか、切なくなった。大島線の最後の定期便、有終を飾るべく、今、戦っている・・・・・しかし叶わず、845便は結局、羽田へ引返してしまった。 16:20頃、iモードで判った。羽田到着予定は16:40、ほぼ846便のそれである。機内の人達、そして羽田で迎えているであろう人達は、 今どうしているだろう・・・・・。大島の空で、一体何分旋回を続けていたのか。図らずも私達は、定期便のYSで大島へ降りた、最後の客となった。 呆気ないといえば呆気ない。しかしこの季節のこの路線の普段の姿からすれば、ある意味これも、「らしい」形だったのだろうか?

 それより最終便に乗るつもりだった人達、これから元町へ急いで、間に合うのかどうか。このアルバトロスが、今日最後の東京への足である・・・。 バタバタ駆け込んできた人達がいたから、セーフか? 2時間あまりの船旅の後、竹芝から羽田へ移動し、最後に一目と、今日身を預けたYSを闇夜に探す。 いたいた、2機見えるうちのどっちがどっちか判らないけれど、一方が今日頑張った機体であり、もう一方が、別の日に飛んだであろう機体である。 と、1機が牽引されて別のスポットへ移動した。明日の選手交代へ向けての、準備だろうか。

 次にYSが大島へ飛ぶのは7月末。それから3週間の、アンコール。さて、この1年で自分は何をしたのか、ちょっと考えてみる。 写真を撮った。乗りもしたし、色々買い漁りもした。まあ写真は、振り返るにやっぱり時間が足らなかった。ちゃちゃっと撮れるほど巧くはないから、 飽きるほど撮らないと、なかなか残せない。でも失敗作の山に染み込んだ記憶も、確かな財産ではあるかもしれない。 それに、あーでもないこーでもないと、丁度面白い時期でもある。さてさてどうするか・・・・・ 羽田発着が絶えると、そうそう見にも行けなくもなるけど、まあ、色々整理するには良い頃合なのかも、しれない。