2002.3.6 雪の中標津へ
 目覚ましが鳴る前に目が覚めた。あんまり睡眠が取れてないかもしれない。TVの予報は全道雪と告げ、道東では吹雪いて視界不良の恐れ、と脅かす。 今日はムネ根室中標津空港へ飛ぶ行程。高校の修学旅行での旭川より東へ行くのは初めてながら、空港をウロウロして、果たして「行った」うちに入るのかは、 些か疑問・・・・・その昔アンカレッジを経由して「アメリカも行きました」とは言わなかったろう。ともかく、今日は無事に帰らねばならない・・・・・のだが、 脳裏に浮かぶ「吹雪く中標津」の絵面の前に、一日くらいなら足止め食らっても・・・・・などと恐ろしいコトを考え始めていることに、暫く自分でも気付かなかった。 第一欠航したら撮りようがねーじゃん。

 札幌の地下鉄というのは6:00にならないと動かないらしい。丘珠で朝の作業風景を見るにも、もう少し早く行きたかったところ。さすが北海道、 3月というに朝の空気はキンキンと硬い。栄町から歩いて、空港エプロンの脇に出る。昨日ズボズボはまりまくった粗目雪は再び凍って、 昨日付けた足跡の傍らを踏む足はその半分くらいしか沈まず、浅い砂利程の歩き易さ。飛行機の見えるところまで進むと、丁度エプロン端のYSを、送迎デッキ正面へ移動中。 昨日と風向きが違うらしく、機種を南側へ向ける。ん? ちうことは、つまり丘珠名物3機並びは、こちらへ顔を向けるわけか。前回に続いての幸運に、にんまり。 さーらーに向こうのハンガーからもう1機が引き出されて、今目の前には4機が。くぅぅ。心許ない脚立より高い、除雪した雪の小山に登ってパチパチ。 そこうするうちエプロン端に1機残して、3機並び完成。勿論これもパチパチ。体調が悪かったのか、昨夜飲んだたった350mlのビール(それも少し残した)で頭痛に苛まれた今朝、 バファリンがなかなか効いて来ずに時折立ち止まってはうーうー疼きに堪えてたのだけど、YSを前にウハウハするうち、それも治まってきた様子。なんだかな。

 空港ターミナルへ行き、早速搭乗チェックインを。今日はムネ根室中標津に行き、ここで撮ってから羽田行で帰るといった行程になる。

  「中標津で乗り継ぎですね?」
  「ええ、そうです、ね・・・」
  「荷物は直接羽田になさいますか?」

 それは困る(笑)。中標津に用事がある旨伝え、座席は前の方の窓側が良いと言ってみると、

  「1列目になりますが、よろしいでしょうか?」

 そら、よろしいに決まっている! うーんやはり今日は、昨日と何かが違う? 一応他はと訊いてみると、4列目と。プロペラのすぐ後ろか・・・・・しかし一列目で 「よろしいでしょうか?」とゆうのが、ちと気になる・・・・・なんでも、荷物が置けない由。ハットラックでも塞がっているのかな、とその時は思ったのだが、 足元に置くのはNGらしかった。あくまでも「前の座席の下」に置くものらしい。1列目は当然、前の座席が無いから、抱えて持ってろということになる。ナルホド。 1列目はさぞ競争率が高かろうと思うのはマニアの理屈、実際にはそういった「不便さ」で敬遠されているらしかった。隣の老婦人は「後ろの方」と指定。彼女は通に違いない(笑)。 前回函館からで後ろから2列目に乗ってみたところ、折角プロペラ機に乗ったというのにこれが、その実感が無いほどに快適だったのである。ともかく、今回の我が席は1D。また右舷か・・・。

 荷物を預ける前に送迎デッキへ上がり、3機並びを撮る。今回は魚眼があるから、これでどうにか収まる・・・・・とはいっても、収まりました、以上の写真にもならないが。 3機のレジをよくよく見れば、いずれも乗ったことのある機体。中標津行はこれらのいずれかなわけで、うーん、なんとなく残念・・・。やがて先行する函館行の搭乗が始まり、それを軽くスナップ。 右舷を手前に止めてあるから、乗客が連なれば鼻先をぐるりと回って絵的にもちょっと面白くなるのだけど、乗客は滞ることもなく機内に吸い込まれて行く。やっぱ雨の日だな・・・。 おっとこうしてられない、と自分も下へ降りて荷物を預け、搭乗待合室へ。腕時計を外してないことに気付かず、連続ピンポン攻撃に阻まれ、やや焦る。 出発して行く函館行きの音。待合室から窓越しに見えるYSを、ぱちり。間もなく搭乗の案内が入り、エプロンへ出て撮りながら前進。他にソレっぽい人を1人認める(笑)。 JA8729・・・乗ったことのある機体に当たるのは判っていたが、よりによって昨日と同じとは。機内へ入るなり1番前だからあっさり着席、カメラ抱えて出発を待つ。

 いよいよ481便中標津行もエンジン始動。中標津の気温は−5℃と。これはまた・・・・・YSはくるりと回って陸自のハンガーの前を過ぎ、滑走路北端へ向う。 やはり南風らしい。滑走路に出てまたくるりと回り、一息ついてフル加速。滑走路が眼下を流れ始め、やがてぐぅっと抱き上げられるような感覚。札幌が離れていく・・・・・と、 ターミナルビル前に佇むYSが見下ろせた。絵面的にも結構いい感じ。んがしかし、それなのにあろうことか、これをぼーっと眺めてしまった。 いわば空撮、なかなか見られるアングルではない。しかも空港のレイアウト上、この向きの離陸で、右舷側でないと見られないのである。何故、何故撮らぬ・・・・・不覚。 雪の季節でなければゴチャゴチャして見えるかもしれぬ。果たして条件が揃ったチャンスは再び・・・・・後悔後を絶たづ。聊かヘコむ。

 481便は雪化粧の地上を見下ろしながら暫く飛んでいた。さあてプロペラを、とレンズを取っ換え引っ換えしてパチパチと。魚眼でもと欲張ってみると、 固定フードが窓のアクリル板に当たって邪魔、どうにも前へ踏み込めづ。これは誤算であった。そうこうするうち雲に入ってしまい、外界は真っ白けっけに。 プロペラの、電動歯ブラシを噛み締めるような振動ばかり続くこの状況にそろそろ飽きだす。やはり寝不足なのであろう、時々プロペラの音がふっ、と途切れ、 まだ起きてる部分が「え!?」と驚き覚醒へ連れ戻す、そんなことを幾度か繰り返した。片肺への淡い憧れを抱きながら・・・・・。(ぉぃ 都合何度目のYS搭乗になるのか、 そろそろマンネリになりつつあるのだろうか。そうこうするうちエンジンの音が下がり、着陸が間近であることが告げられた。再び地上が見え出すと、 どうやら札幌より気合の入ってそうな雪化粧。降っている様子は無いが、これからの空模様如何によっては、己の帰還がかかってくる・・・・・引き返すなら今のうち、 この返しの便しかない・・・・・そんな不安がちらと過ぎるも、秘境でも外国でもないんだしなんとかなるさ、と能天気が押し切った。

 除雪の行き届いた滑走路へ、着陸。そういえば丘珠もだったが路面が横のしましま・・・・・北国仕様か? 到着を告げる機内アナウンスの、そのバックに何故か犬の鳴き声がきゃんきゃんと(笑)。 はて? 最後尾のスペースにでも積まれているのか・・・・・以前何かで「機内をニワトリが歩き回ることもあった」と読んだことを思い出す。外へ出ると、きーん、 とこれがまた冷える。段々「北海道」の実感が沸いてくる・・・・・首都圏の人間にとってはもう十分。パチパチ撮りながらYSから離れ、荷物を回収、すぐさま送迎デッキへ。 バルコニー様の外側は除雪もされておらず、足元が覚束ない・・・・・ともかくそこからは、滑走路と、その向こうに雪を頂いた山々が。丘珠へ帰るYSの出発は、 その山を入れてここからぱちり。東へ向けて離陸、ぐーんと右へ旋回して、頭上近くを昇って行く・・・・・ああ、行っちゃったか。大島定期最終日に見送った時のことが、 ふと蘇えり・・・・・あの時はまだ良かった。船で帰ることが出来たから。

 次のA320の着陸もここで撮ったりして、逆噴射かける際に滑走路脇の雪を巻き上げる様に鳥肌立てつつ、さて夕方のYSはどうしたものかと思案。 その前にこの返しの離陸まで1時間あるから、ロケハン方々移動してみようと動き出す。雪景色とあって送迎デッキも「滑り止め」と呼ぶには勿体無いカナ、 というくらい悪くなかったから、まあ気楽なものではある。風はコンスタントに東の方から吹き続け、離着陸の向きは心配無用・・・・・というわけで、小雪が舞い始めた中、 まずはターミナルを出て滑走路西端に回ってみて、アプローチ撮影の具合を見る・・・・・雪で霞むほどじゃないと面白くないカナ、滑走路まで距離から高度もありそうで、 地上の風景と絡めるのも困難カナ、滑走路方向は狙えないようだしナ、とここはパス。ターミナルから見て、滑走路のほぼ逆サイ付近まで回り込む。 道が高くなっていて、金網を抜くにも、脚立どころか除雪された雪の山に登ればよゆーのよっちゃんであることが判明・・・・・やりぃ。 1時間もいるものだから消防車みたいなモンでA320に融雪剤を吹き付けてる。その光景にこっちはウハウハ。いよいよ出発、うむうむ、こんなか、こんなか、と唸りながらこれを撮影。 念のため次のB737の便も、着陸と離陸を。うーん、よし、ここに決めた。ところで撮っている最中、犬を連れた人がやって来た。いや主人はクルマに乗って、 犬は外を駆けて来るのだけど・・・・・道路の逆サイに置いた私の荷物に、その犬が異常な興味を示した。こっちは今まさに撮影しようとしているところで、 どうしたものかと戸惑っていると、主人がクルマから降りてきて「いーからいーから、ホレ」と犬を窘めた。主人と目が合ったので会釈をすると、 「こんな雪の中でも撮るの?」と。うーん、そうか。ナルホド。でも、こっちにしてみればその雪が珍しく・・・・・。

 道路と平行に吹く風を避ける術が無く、首都圏から来た軟弱者には寒さが堪える。上着は良かったが下がジーンズ1枚というのが、そもそも甘かった。 東京では汗だくだったのに、つくづく、日本というのは・・・・・本題のYSまでおよそ2時間半、一旦空港ターミナルへ戻って、「蘇生」を試みる(笑)ことにする。 来た道は些か様変わりしていて、足跡も消えてた。吹き続ける粉雪は、その場に積もるのではなく、物陰に溜まっては、その溜まりが「成長」していつしか砂丘のようになる・・・・・ これは新鮮な発見。フードを深くかぶって進んで進んで、計ってみたら30分。残り時間からこの所要時間を引いて・・・大丈夫、十分生き返れる。レストランに入って、 やはりこれだろうと鍋焼きうどんを注文、はあ、復活・・・・・食しながら、走り回る除雪車を眺めたり。そういえば今これ「吹雪」なのだな一応。この程度なら帰れるわけか、 とぼんやり考えていると、別のテーブルのおじさんがやって来て、カメラマンですか、と尋ねられる。荷物を見たのだろう。いや趣味ですよと応じると、鶴ですかと来た。 ナルホド・・・・・飛ぶモノにも色々あるしな、と今更思いつつ、友人が撮ってましたが、と妙な注釈付でヒコーキと答える。コンプレックス? どうなんだろ。 先方は少し残念そうに、戻って行った・・・・・席に何やらリュックがあるのが見えた。

 寒いのは嫌だったが、何しに来たのか判らなくなるので、再び外へ。えっちらおっちら、またまた歩いてターミナル逆サイ。雪は些細な凹凸程度は覆い隠し、 さっき荷物を置いてた場所も、もう判らない。iモードで情報を取ると、丘珠は発った模様。引き返さないことを祈るのみ。いよいよ近そうなところで、カメラ、 それに無線機を出して備える。ここに来て情けないことに臆病風に吹かれ、初めてオートブラケティングを使うことに。普通にもアンダー目にも撮りたかったという事情もあったが、 実質12回しか切れないシャッターを、どう配分するか思案する。やがて着陸灯が見え・・・・・またJA8729なんだ・・・・・・その後はひたすら夢中。 慣れないオートブラケティング撮影のためだったか。なんだか、かえって不安が増大したような気も。1本撮り切ってしまったので、フィルム交換。 今回余分に持ってきたつもりだったのだが、あっという間にISO100の分が終わってしまい、まだ光線に余裕があったものの、ISO400に・・・・・ あとで数えたら18本弱の消費(呆)。それはないだろう、と自問。臆病から弾を撃ち過ぎる新兵みたいなもんか・・・?

 またまたオートブラケティングを使うことにして、12回のチャンスの配分を思案。そうこうするうち、再びYSのエンジンに火が入った。今回最後の別れの時間。 日没にはまだ早いが、空模様から少々青っぽい情景の中、エプロンでくるりと回ったYSは滑走路へ向けてゆっくり前進してきた。雪の稜線に、足元が見え隠れする。 滑走路まで来ると直角に曲がり、淡々と目の前を過ぎて行き、滑走路端まで来るとくるりと180°ターン、こちらを向き着陸灯がキラリと光る瞬間を狙う。 写真の出来に満足行けばそれに越したことは無いけれど、ファインダー越しながら、今このシーンに接していることそのものが、嬉しかった。いよいよ、YSは助走を始める。 粉雪を巻き上げながら駆けて行き、やがて空へと舞い上がった。巻き戻しを始めるEOS−1。小さくなった影を目で追いながら、グッデイ、自然と右手が挙がった。

 心配された帰還作戦は、iモード情報の羽田出発済を見てひとまず安心。行先地変更というどんでん返しが心配されたが、ちゃんと中標津へやって来て、 機内へ迎え入れてくれた。あとは飛び立ってしまえばもう、こっちのものである。機内放送は羽田の天候を告げ、気温は18℃と言う。機内の方々で、ため息が漏れた。