2003.3.7 稚内
 眠いんである。昨日は寝不足で10分も座ってるとカクンと寝てしまいそうな状態だったところへ、今朝など4時前に起きた。 しかも寝るつもりのタイミングじゃないところで寝入ってしまったものだから、眠りも浅かったに違いない。しかしである。 折角冬の札幌まで来て、ササラ電車を見ない手はなかろう・・・・・んなことしなきゃいいのに、凍結した道をイソイソと出かけるのである。

 そんなことがあってから、地下鉄に乗って栄町。丘珠空港へ向かう。折角の連泊だというに、あれも使うこれも使うで殆ど宿へ置けず、 つまりフル装備。眠さで身体がややぼわん、と重い状態で、アイスバーン化した歩道を歩くペースも、ちと上がらづ。出勤の自衛官のお兄さんが追い抜いて行く。

 今日は稚内へ行ってくるのである。馬鹿である。行先地に拘ったわけではなかったのだが、行って帰って写真も撮れそうなところ、 と調べてみたらここの往復だった。経由地として千歳から丘珠、丘珠から千歳という展開も面白そうだったのだけれど、 或いは昨年のように、片道乗って、そこから羽田直行というのも考えたのだけれど、パラっと見たところではどうもうまくなく ・・・・尤も羽田〜千歳往復を押さえてしまった後に思いついたのだけど・・・・・結局、丘珠〜稚内の往復で落ち着く。 空港が海岸に近そうなのも、ちと気になった。利尻富士バックというのが有名らしかったが、海しか頭に無かった。

 まずは送迎デッキへ・・・・・すってーん! フル装備背負ったまま、強かに尻を打つ。ある程度は除雪されているのだけれど、 融けて流れた水たまりが、凍結してツルツルになっていたのである。閉鎖しないのは有り難いが・・・ううぅ、いてて。 正面に中標津行きのYS、JA8744と、ダッシュ8が2機、ひまわりとコスモス。エプロンの端にYSがもう1機。 今日乗るのはあれか。やがてダッシュ8が1機函館へと発ち、空いた場所へエプロン端のYSが引き出されてくる。JA8772、結構縁のある個体。 そして中標津行きと鼻先をつき合わせるようにして、並んだ。こうして並ぶのも、今は2機がやっと・・・・・あれよあれよ、という間に。

 中標津便行きを見送り、いそいそと下へ降りて、チェックインを済ませる。いつものようにこれから乗るYSを待合室から眺め、 いつものように案内に従ってエプロンへ降り、いつものようにシャッターを切りながら進み、いつものように何人も追い越されてから、 機内へ入り、そして座る。今回の席は3D、またプロペラの真横である。やがていつものようにタラップが畳まれドアが閉まり、 いつものように、きゅぅぅぅぅぅぅとエンジンが始動、いつものように緊急脱出の案内があり、いつものように滑走路へ出て、そして飛び立つ。 眼下のターミナルがどんどん小さくなっていく。ダッシュ8の1機だけ残っている。

 機は雲の間を飛び続ける。プロペラの真横、例によって電動歯ブラシを噛み締めるような振動の中、寝不足からうつらうつらとしてしまう。 時折戻っては、ああ、まだ飛んでるなどと思い、それを繰り返すうち、なんだか物凄く長い旅をしているような、気になる・・・・・やがて、 前へのめるような感覚とともに機速が落ち、高度が下がり、そろそろ稚内、こちらは良い天気。空港が見え、その真上を、滑走路に直行して通過、 一旦宗谷湾上へ出て反時計回りに旋回。稚内の市街が見える。ぐるーりと遊覧しつつ降下、建物が疎らになってきたところで水平に戻り、 真っ直ぐ・・・・・着陸。ぶぉぉぉぉぉぉ。稚内・・・・・来てしまったか。空は晴れているも、抜けはイマイチ、 白い雪とのコントラストで見せたいところなれど・・・利尻富士も見えず。さて、まずはこの折り返しを撮るのである。早速送迎デッキへ上がると・・・・・ あでゃ、保安上云々で閉鎖だと。やる気あるんかいコラ、と噛み付いたところでどうなるものでもないながら、しかしここは丘珠より危険なのかい。 にしてもである。どうもこの「保安上」って、時折胡散臭くて仕方が無いのである。ホントは経費の都合だとかのカモフラージュじゃないんかい、 などという邪推。だって他の部分で結構ユルユルじゃん。保安などという尤もなお題目が、ちと褪せてませんかい。

 ともかく仕方がないので、他を当たるしかない。予め地形図なんぞ買ったりして調べた限り、空港前の道路を東へ進むと高台へ出るので、 そこから引っ張れれば、水平線をバックに離陸が撮れる・・・・・そう踏んでいたのだけれど、問題は雪。その先にはゴルフ場くらいしかないようなので、 そのゴルフ場もクローズしている今、果たして除雪してあるのか・・・・・なので先程、着陸前に上からチェックしていたのである。空港へ向かう黒い道路が、 空港の前で見事に途切れ。その先は真っ白けであった。轍くらいあるカモという淡い期待は、そばまで行って崩れ去る。だめだ、 こんな中進んだんじゃ間に合わない・・・。

 高台は叶わぬも、滑走路の手前に広がる湿地らしき辺りは雪原と化し、それはそれで趣があるにはあるので、除雪していない道を出来るだけ進み、 離陸に備えることとする。踏み固めて脚立を立てて高度を取ってみるも、こんなの気休めにもならぬか・・・。と、上空を海自のP3Cが真っ直ぐ北へ飛んで行く。 その先は宗谷海峡である。おいおいそのままどこまで行く気だい、と目で追っていると、やがて旋回して戻ってきた。やれやれ。 さて海がわずかにしか見えないのが悔やまれたが、ここでどうにか、離陸を見送る・・・・・ぶぅぅぅぅぅんんんん・・・・・機はぐるりと旋回し、千歳へと向かった。

 稚内・・・・・帰りの便までの数時間、離島便等撮る楽しみもあったけれど、ここまで来たからにはやはり、宗谷岬しかあるまい。吉岡海底駅、 富士山頂、階段国道・・・・・数々の日本の最果ての地を踏んで来た私であったが、本土最北端はまだなのであった。この機を逃せば、次は無いかもしれぬ ・・・・・調べると滞在中にバスの便は無く、タクシーでは相当な覚悟を要する。ならば、レンタカーが手っ取り早い・・・・・そのようなわけで、 周到な私は、予約していたのである、レンタカー。数時間で返してしまうものだし、ケチケチで軽だったり。フル装備の荷物は、後に放り込んでおけばよい。

 早速レンタカー屋の営業所へ行ってみると、無人・・・・・へ? 電話をしてみる。無人の事務所の中で、呼び出してるのが聞こえる・・・・・ここ、 で良いんだよな。事務所の前には、きっと私が借りるのに違いないアルトキャロル。おおい、どこ行ったんだよ。足はどうなるんだよ。

 途方にくれながら空港へ戻ってみる。レンタカー屋のカウンターも無人。どうなってんだ・・・・・観光カウンターの人に市内の営業所の電話番号を教えてもらう。 ここでオチ。「予約時間が過ぎてもいらっしゃらないので引き上げました」・・・・・あん?? ざーけんなマ○ダレンタカー!・・・とブチ切れそうな私だったが、 ドタキャンなら全額払い、遅れて借りる時間が縮む分にはこちらが損するのだから構わんよな、という論理は、こういう田舎の空港では通用しないことを、 ここに思い知る。じゃあどうしてくれるのよ、これからまた向かいます、何分かかるのよ、30分くらい・・・・・あ゛ー。しかし、無人になるならなるで、 空港営業所の電話を市内のそれに転送したって良いだろうに。こっちからだってアプローチしてたんだから。ともかく、貴重な時間がこれ以上不毛になるのは避けたい。 不機嫌モードかましつつ文句はそこそこに、返却は営業所まで行ってられないから空港駐車場に置くぞと承知させ、とっとと手続きを済ませ、アクセルベタ踏み、いざ出発。

 海を左に見ながら、足元はヒーターかけながら、窓全開。聊か上気した顔に、潮風が心地好い。さすがに観光シーズンでもなければ、ましてや平日、 車も疎らな道を、うひょーとか言いながら、最果てを目指す。いくつか集落を過ぎ、道がぐいっと右へカーブを切るところで、正面の視界が開けた。

 ここだ。

 とうとう、やって来たのである。車を降り、早速記念碑の前で記撮など。間宮林蔵が睨む先には、樺太の地が見える。くぅぅぅ。 すぐそこに見えている小島の方が、実は少し北にあるという。船で渡れるそうだが、それを言うなら択捉島に行かねばなるまい・・・。長靴なのをいいことに、 引き潮らしい浅瀬をザブザブと入って行く。水が透き通っている。ちょっと舐める。まあ普通にしょっぱいわな。ここでも北海道をナメている私であった。 何か記念品でもと見回すも、土産屋は尽く閉まってるらしかった。ちぇっ。空港で何か買うか。

 しばしの間しみじみしたところで、来た道を引き返す。さて帰りの便はどこから撮ろうか・・・・・海側、山側とも、 滑走路に近寄るのは雪の中を進むことになり、ちときつい。いや時間があればいいのだけれど、撮った便の返しに乗らねばならない都合から、厳しいものがある。 思案した挙句、空港へ至る道路の、アプローチ真下付近から撮ることに。それもワイワイワイドで自分撮りという、これまたやる気無しモード。 いや、望遠だの持ち出して頑張ったところで、つまらなさそうだったし。ならば、YSと過ごした時間の、それなりに意味のある記録を、残したい。 びぃぃぃぃぃぉぉぉぉぉぉ・・・・・パチッ・・・・・ぉぅぅぅぅぅぅんんんんん・・・・・ああ。稚内も帰るばかりとなってしまった。

 とっととレンタカーを返し、チェックインを済ませ、土産屋を物色して、搭乗。機材はJA8761。これも巡り合わせか、 昨夜千歳でバルブ撮影した個体である。たしか羽田で初めて撮ったのも、これ。けれどこれに乗るのは、今回が初めて。 JA8735は結局乗れずじまいだったけれど、現存するANK機としては、これで一通り乗ってることになる。席は4D、丘珠へ向け南下する機体の中で、 道中西日ギラリを期待するも、そうは問屋が卸してくれづ。雲ばかりの中を飛ぶ。

 機は一旦石狩湾へ出、見慣れた地上が見えだし、そして丘珠着。デッキには結構ギャラリーが。明日の土曜が思いやられ・・・と他人様のこた言えないが。 函館が吹雪らしく、今度の到着が遅れており。最後の函館行も、天候調査中とか言っている・・・・・結局欠航となったのだけど。さて、 外で撮ることも考えていたのだけれど、昨年撮った分を思い起こしたりして、追い出されるまでデッキで粘ろうかと算段。 以前終便前に追い出されてしまったので今回もどうかと思ったが、やはり機運なのか今回そうきうこともなく、情景が青く沈んで行き、 やがてYSがタングステン光に浮かび上がり、そしてエプロンの端へ連れられて休むまでを、十分に満喫することが出来た。ああ、しみじみ。 今回雪の降る日があるのかどうか、賭けに出ていたのだけれど、予報によれば、今夜から明日にかけて期待出来そうである。 昨日、今日と今ひとつ調子が乗らなかったのだが、そこへ己の行動予定とぴたりと合わせて来たような吉報に、これは天佑かと思えてくるのであった。