2003.7.2 女満別へ
 大昔に梅雨時に修学旅行で行った時の心地好さが余程染み付いているらしく、この時期北海道の気候が恋しくなるのである。そんなことはさておきいよいよ、 ANKのYSとも、別れが近い。羽田での初撮りから、早3年。えっちらおっちら、あーでもないこーでもないと記録をしてきたが、 いつものことながら何故にもっとマシなものを残せなかったのかと、悔いは残る・・・・・まあ、泣いても笑っても、あと僅か。 気持ち良く見送ろうではないか。超割を積極的に使いたかったところだったが、ご同輩が多いと何かと窮屈な気がして、復路だけ利用することにして、 今日の出発。多少出費が嵩むのは痛いが、これでも色々考えているのである。飛ぶのは8月一杯までとのことだったが、そう年がら年中訪れるわけにもいかず、 今回がANK的には最後となるだろう。ラストにはやや早く、独り密かな告別の渡道なのであった。

 また徹夜である。折悪くへろへろ続き。早めにちびちび荷造りを始めていたものの、結局前夜にはアタフタする破目に・・・・・ そうこうするうち空も白んできて、自宅を出発。今回一気に女満別を目指すのだったが、一気にと言いつつ直行便に乗るワケはなく、 新千歳からYSに乗り継ぐのである。時刻表を見ると乗り継ぎのダイヤがあり、そちらなら久しぶりにB−747も乗れたのだが、思うところあり敢えて、 少し早い初便にした。予報によれば、北海道の空模様は思わしくなく、最高気温も20℃に届かず肌寒そう。 向こうへの往復で多少蒸すのが嫌だったが、「夏服」は諦めた。

 今回どうにかバタバタすることもなく京急に乗り込み、チェックインも済ませて、ANA961便の機中の人となる。どんよりとした鉛色の空を突き抜けて、 B−767は陽光降り注ぐ雲上へと、我々を連れ出した。やはり太陽はちゃんとある、などと妙な感動を覚えつつ、どうせ下は雲ばかりだしと居眠りを決め込み、 多少はうつらうつらしたものの、光を浴びるうちますます交感神経が出張ってきてしまい。あー、今日は長そうだな。

 千歳着。うーむこっちも天気はイマイチか。駐機スポットへ向かう途中、北端に遠くあひるのようなその姿を認める。はて、前回の時に見たのは、 駐車場逆サイの、自衛隊基地の方のスポットであったが。あそこにぽつーんと見えているのは、今日は飛ばない方であろうか。あの場所では。

 ともあれ預けた荷物を受け取り、ずんずん駐車場逆サイへ向かう。ひんやりとした空気。やっぱ北海道か・・・・・やがて、おお、いたいた。 一目見ておきたかったのである。だから早い便にしたのである。黙々と朝の支度をする、JA8772。丘珠ラストを飾った機体。 さっき向こうでぽつーんとしていたのは、JA8761であろうか。「さよならYS−11」のロゴが見える・・・・・くぅぅ。 今日はこの機体に、身を預けるのか。

 ターミナルへ取って返す。機内持ち込みのカメラやらを引っ張り出し、チェックイン。当たり前の話、あの場所ならバスに違いなかった。羽田以来、 バスで行くチャンスはもう無いと思っていただけに、これは嬉し。バスに乗るからには、先頭座席をゲットせねば。YSが遠く見えてくるところから、 盛り上げたいのである。さすが今日は堅気の(笑)お客さんばかりのようで、あの搭乗ゲートの前で案内前に牽制し合うような空気も無く。程なく案内が入る。 ゲートを過ぎ、出来るだけさり気なく、先頭へ踊り出る(笑)。案内のおねいさんの後ろを付いていくも、それがやけにゆっくりとした足取りに感じ。 ペースカーの後ろで焦れながらジグザグに走ってるレーシングカーみたいだな、などと自嘲しつつ、ようやくバス乗り場着。すすすっと進んで行き、難なく先頭ゲット。 んが、後から後から人が乗ってきて、視野が狭まってくる・・・・・うーむむ、と唸るうちにトドメに同乗の係員のおねいさんが前に立つ。うー。 まあ、まだまだ余白はある。

 やがてバスは発車。広い空港をゆっくりと進む。逆サイの方へ回り込み、あの尻尾の大きい機体の後姿が。段々大きくなってくるそれを、カメラでパチパチ。 機体を右に見ながら通り過ぎそうにしてからぐるりと回り込んで、鼻先の横に停車。それっ、と先にバスを降りて、他の人が乗り込んでいる間に横でパチパチ。 やはり、ご同輩は殆どいないようである・・・。今回の座席は3D。またまたペラ横の窓が1つ塞がっている席。ともかくそこへ乗り込んで、出発に備える。 前のポケットを見れば、YS名物(?)の備え付けの団扇が「さよならYS−11」仕様になっている・・・ううう。表はアプローチを下から見た写真、 抜ける青空・・・・・って、JA8730とはいつの写真さ(笑)。裏を返すと、在りし日の丘珠空港のデッキから望めた情景のイラスト。 あれよあれよと言う間に、遠い記憶となってしまった日常、である・・・。感傷に浸るうちにタラップの畳まれる気配がし、エンジン始動、いよいよ出発。

 既にそれ自体ノスタルジーの香り漂う、救命胴衣の実演など眺めたりしつつ、ゴトゴトと滑走路までの長いタキシングが続く。もう1機のYSが見える筈だったが、 生憎逆サイ、ぐっと首を伸ばして、小さな窓の向こうにちらとそれらしきものを見たような、気がする。そうこうするうちに、滑走路へ進入、やおらスロットルが開かれ、 機は心地好い加速感とともに走り出し、やがて地面を切った。3月に雪中行軍したあたりが眼下に見える。今回文字通りの(?)雪辱を期しているのである・・・。

 南へ向かっていた機はやがて左へと旋回。まずは釧路の方へ向かうのだっけか。東へ向く機体の右舷、雲海の照り返しも加えてモロ逆光で眩しい。 折角の窓側なのだからと、せっせと撮ってみたり。しばらくすると飲み物のサービスの案内があり、CAさんがお盆を手にやって来た。おおそうだ、 機内で絵葉書の記念品を貰えると聞いていたのである。早速そのことを訊ねてみると、笑顔のままオレンジジュースを渡された。へ?  いやいやそういうことじゃなくて・・・・・と思いつつもジュースごくり。もう一度訊ねる。今度は飴を持ってきた。だーからそうじゃなくて・・・・・ と思いつつバスケットから1つ摘み上げる。うーむ、なんだかな。コーヒーといってコーラが来ちゃうような世界か。なにせ3列目である。最も喧しい席なのである。 こんなコトで大声を出すのも嫌なんだが、もいっぺん訊いてみるか・・・・・言葉を区切りながら、訊ねる。ようやく伝わったようで安堵する間もなく、CAさんの眉が動いた。 その瞬間、期待した答えを持っているのではないらしいことを、理解したのであった。生憎切らしていて増刷中の由。うーむむむ、まだまだ日があるのに、あーにやってんだ。 これは残念。無念。最後の追い込み前の、丁度谷間、間が悪かった・・・・・とほほほ。ま、それも縁かとまた外を眺めていると、再び先ほどのCAさん。 ビニール製の膨らますヒコーキと、今回のお詫びを手書きしたB−737の絵葉書と、さよなら団扇をくれた。何やらプリクラのような小さいYSのシールもある。 ううう、心遣いに恐縮。絵葉書のことは残念だったが、ある意味こちらの方が生々しい記念品となったかもしれぬ。 しかしこのビニールのヒコーキって、子供あやしアイテムじゃあるまいか・・・。

 ANK451便は高度を下げ、いつしか海上を飛んでいた。オホーツク湾であろうか。そういえばオホーツク海って初めて見たような気も。3月に宗谷岬を訪れた際に、 視界の右半分に広がっていた海も、たしかにそうなんだろうケド。機はぐーんとターンを決め、また陸地へ戻って行く。やがて地面が近付いてくる。 線路を越えた。カーブするそれは石北本線であろう。前に買っておいた地形図を思い浮かべ、もう前方には滑走路が迫っていることを知る。眼下の麦畑をチェック。 予め麦畑らしいとは掴んでいたのだが、緑の絨毯が広がっているのを認め、安堵。昨年の丘珠ではまだ穂も伸びていなかったが、こっちの方が寒そうだし・・・・・ しかし収穫後であるよりは、絵的には有り難い。

 さて、女満別である。パチパチやりながら最後にターミナルへ入り、流れてきた荷物を受け取り、荷物に付いてたタグを大事に外してそれをしまい(笑)、 よいこらせっと階段を上って送迎デッキへ・・・・・って、ここ¥50取るんだ。うー、とともかく¥50玉を取り出し、ガラガラとゲートを回してデッキへ。 柵は低くこれは具合がいい。益々稚内の、保安上云々で閉鎖とやらが解せないね・・・とブツクサ言ったところでしょうもないんだが、さて先程乗ってきたYSが、 しっかり見える。次の乗客を招く準備をしている最中である。デッキにはご同輩が1人だけ。わざと超割を外したのだろうか、などと勝手に自分と同じと考える・・・。 そのうち搭乗開始。これまたフツーの乗客ばかりのようで、のんびりとした日常的風情のままに、やがてタラップが上がり、エンジン始動、出発して行く。

 ぶーん・・・・・空へ消え入るのを見送り、さて今日はどうするかな。天気は曇り、カラッとした絵は無理そうである。とりあえず次の便まで時間がある・・・・・ 少々考えて時刻表を広げる。おっ、「オホーツク」が来んじゃん(笑)。さっき着陸間際に見えたカーブが頭に浮かぶ。地形図を広げると、滑走路北端からそう遠くない。 次の着陸も同じ向きであれば、そのままアプローチを狙いに行ける・・・。というわけで、全部の荷物を抱えたまま、空港を後にする。空港から坂を下ったところで早速、 石北本線をオーバークロスするポイントをチェック。をををいきなしイカニモ北海道なカンジ。ここでもいーかなー、とちらと考えもしたが、ちょっと高低差が大きいのと、 斜面の影で露出が厳しそうなのとで、やっぱ例のカーブにかけてみよう・・・・・えっちらおっちら道を歩いていき、カーブ着。ふーむむ、どうかな、どんなかな、 両側が林で編成は入らないが、まあまあソレっぽいカンジでは、ある。架線が無いとどうも、フレーム決めにくいんだよな(苦笑)・・・やがて真っ白な「オホーツク」登場。 ひゅー!

 さて、鉄はこのへんで。以前女満別空港はこのすぐそばにあったようなのだけれど、今は南に移っているので、ちと遠い。ついでに予想に反して、なんだか暑いんだが ・・・・・踏切の道路から脇道へ、麦畑に出た。やはり収穫には早いようだったが、青々とした絨毯のような畑は、なかなか良い感じ。しかし滑走路端まで近寄らないと、 アプローチする飛行機の高度があり過ぎて、まとめるのも厳しそう・・・・・このへんでどうか、ここならどうか、振り返り振り返り、麦畑に挟まれた道を進む。 そのうち誘導灯が林立するあたりまで来てしまい、こうなるとこいつらとどう絡めたものか、とこれが悩む。

 んがしかし、悩む必要など無かった。次の993便(臨時みたいな数字だが)は、南側からアプローチしてきたのである! ぼんやりと、朝乗ってきた便と同じつもりでいたのが、 アマアマだった。半ばもうどうでも良い気分になりながら、遠めにぱちり。では離陸をと待っていると、今度は逆向き即ち向こうへ飛んで行ってしまった。あうー。 腹を撮ることも旋回する背中を撮ることも、叶わづ。最早「羽田トラップ」以上だな。今回もダメダメなのか・・・。

 そーゆーことですか、というわけで、滑走路南端へ移動。えっちらおっちら歩いて行くと、誘導灯の列を道路が切り通しで横切りつつ降りて行く、南端へ到着。 おっ、キタキツネ。うーんイカニモ北海道・・・・・と同時にいつぞや丘珠で生録マイクのコードを食い千切られた記憶が蘇り・・・(あれは野犬だったかもしれんが)。 そろそろ空も晴れてきた。こうなると今度は、西日ギラリに期待。麦畑もある。ここからどう撮ったものかと思案。光線は段々と赤みを帯びてくる。うーん、いいねいいね。 ・・・と。すぐ近くの地面のあたりでガサゴソと気配がする。さてはキタキツネだな。「チッ」ではなく「タン!」の方の舌打ちをする。ガサゴソがピタリと止んだ。 束の間の静寂の中、お互い様子を窺う気配が漂う・・・・・足で地面をドン、と蹴ると、だだだーっと駆けて行く音(笑)。マイクのお返しだよ。 ・・・そんな麦畑で、とりあえずJASのMD−80系が降りてきたところをぱちり。うーん、ちと小さくなりそうだな。どうしよか。

 んがしかし、またまた悩む必要など、無かったのである。コトもあろうにまた、逆サイからアプローチしてきた453便。もう嫌がらせじゃあるまいか。 きっと管制塔からこっち見てやがんだ。

 離陸を待つ。裏目裏目でもう気力もヘナヘナであったが、離陸するところを追えば、どこかギラリと光るんじゃないかという漠然としたものだけを抱いて、待つ。 やがてエンジンの始動する音が聞こえ、そしてタキシング始まった。むむむ、こっちへ来るぞ。またまた予想に反したが、滑走路へ出て向きを変える瞬間が、ギラリのチャンス。 何も考えてなく立ち位置が悪かったので、金網を避け切れなかったのだが、ともかくギラリな瞬間は、まあ撮るには撮った。さて離陸か。北向きで離陸して、 ぐるっと旋回して頭上に戻って来るところを撮って・・・・・などと次の展開を考えている間、YSはなかなか離陸に移ろうとしない。既に滑走路に出てしまっているから、 着陸機があるのでもないだろう。上空に他の飛行機でもいるのか?・・・・・色々考えている前で、JA8772はラダーやらエレベータやらバタバタ動かし、 ようやく進み出したかと思えば加速するでもなく、エプロンへ戻って行ってしまった。・・・はん?? 何かあったのだろか。やはり着陸機へ道を空けたのでは、 ないようだが・・・・・エンジンの止まる音がして、しばらくまた静寂が戻る。うーむむむ、どうなっちゃうんだろか、と待っていると、 ようやくまたエンジン始動の音が聞こえ・・・・・今度は滑走路の向こう側に出てきてしまった。あうー。遠い。

 ちっこいながらも、舗装の逃げ水に着陸灯を光らせながらこちらへ向かってくるYS。頭を上げ、駆け上って行く。日は陰り、着陸灯を残してシルエット姿となったYSを、 パチパチ追う。・・・・・ぶぅぅぅぅぅぅんんんん・・・・・あー、行っちゃった。そのまま真っ直ぐ去って行くのかと思いきや、ぐるーりと上空を360°旋回しながら、 高度を上げて行った。その一瞬、青い空をバックに、豆粒のような小さな機体が、キラリ。思えば今日は、焦らされ続けて終わった一日だな。

 荷物を纏めて、西女満別駅へ向かう。位置的には空港最寄の駅ということになるのだが、辺りに何も無い。列車が止まらなかったらどうしよう、 と少々不安になるようなホームから、やって来た列車に乗り込み、網走へ向かう。網走駅を降りると、いきなし刑務官募集ポスターが目に入り、 ちと出来過ぎだなーとか思いつつ宿へ向かう。まあ、まだ明日もある。今日はほんのロケハンさ、そう自らに言い聞かせながら、床についた。