2003.7.3 女満別
 今日は天気が良さそうである。出発前の予報では、雨さえ降りそうな気配だったが、晴れ男の面目躍如というものか。荷物を出来るだけ残しておきたかったのだが、 昼間使いたい&使うかもしれない機材が大半、着替えと昨日貰った団扇などなど、軽いものしか残せづ。今日もまた、えっちらおっちらと、歩き出す。 流氷を頂いた電話ボックスを横目に網走駅、列車に乗って、女満別へ。

 網走から空港行きのバスでも乗れば良いのだろうけれど、目的地はターミナルではなくまずは滑走路北端、というのがちと厄介なのである。 かといって女満別駅からタクシーなど乗るつもりも、無いんだが・・・・・女満別駅といえば、昨日の通り掛りに、構内に車掌車ばかり何両も置いてあるのが目に止まった。 まずはそれをちょっと見ておきたかった。列車から降りると、駅舎と思った建物は、図書館だった。図書館併設の駅舎ではなく、まるで駅舎の機能は備えていない様子。 まだ早いと見えてホームから建物へ通じる扉は閉まっており、建物を回り込むよう案内の看板が掲げられている。なんだか不正乗車でもするような気分でそれに従い、 貨物ホーム跡と思われるその場所で、車掌車達をパチパチ。本州にも走っていた形式だから、多少仕様は違うんだろうが、懐かしい。 国鉄〜JRの貨物列車から車掌車が消えて久しい。ここに置かれた経緯は知らないが、誰かがその記憶を留めようとしたのであろうか。大分傷んでいるけれど、 それでも存在する限りは、営みの記憶、証であり続ける・・・。

 そんな感傷を他所に、まだ朝だというのに陽射しが刺さるようである。暑い。これまた出発前の予報と大分様子が違う。あー、短パンになりたい。 半袖Tシャツに着替えたい・・・・・空はドピーカン、今回の遠征で初使用のベルビア100、今日は炸裂の予感(笑)。ともかく、空港へ向かわねば。

 コンビニがあったのでTシャツでも売っていないかと探すも、叶わづ。他の店はまだ閉まっているし、仕方なくそのまま街を抜けて空港へ向かった。 空港の土産物屋で、恥ずかしい絵柄じゃない(笑)Tシャツでも見付からないか、期待することにする。体調でも悪いのか陽射しがやけに応えるのを堪えながら、 旧空港跡地の近くに差し掛かると、右手に小さな盛り上がりが見えた。掩体壕である。そういえば終戦直後厚木で徹底抗戦を唱える一派の中で北海道へ疎開させた零戦があり、 それが半世紀後掩体壕にあるのを発見されてレストアされる、なんてフィクションの小説があったナ。たしか道東の方のような気がしたけれど・・・・・ (小説は鳴海章著「五十年目の零戦」。あとで読み返すと、帯広市街のすぐ北らしい)。アメリカの栄搭載レストア機オーナーだったかとの会話で、 「サカエとサカイが両方揃うのは日本だけだ」と言うくだりが妙に笑えたナ・・・・・で、掩体壕は木も茂りただ放置されているように見えたが、 コンクリートに「網走湖 LOG-HOUSE 夕陽の家」なんてペンキで書いてある。看板代わりである。これ、国は片付けてくれないとか聞いたことがあったが、 そうするとこんな風に活用するしか、ないわけだろか。ともあれ、旧女満別空港の歴史の証人には、違いあるまい。

 滑走路北端到着。さて麦畑に賭けるか、それとも金網越しに半逆光を遠く狙うか・・・・・アプローチの向き次第である。それぞれの立ち位置が結構離れるので、 早めに知らないと・・・・・ごそごそと受信機を取り出し、女満別レディオに合わせる。しばらくすると、女満別レディオとANK451便とのやり取りが始まった。 ふむふむ・・・・・あーんだ麦畑はお預けか。ちぇっ・・・・・ところがである。やがて見えた機体は、ぐるりと北の方へ回り込んだ。この期に及んで、 それをぼーっと眺めていたのが、後にも悔やまれる。昨日見たように360°回って来るなどとおめでたいコトを考えていた頭は、遠く着陸灯を認めるに至って、 叩き起こされた。慌てて駆け出すもロクな撮り方が出来るワケもなく、頭上を過ぎるYSの機体を、呆けて見上げるしかなかった。

 たしかに、その方向を告げていたのである。告げていたのであるが、何故か北と南と思い違いしていたのである。太陽も出ているってのに!  やっぱ体調悪いんだろか。今年の遠征はケチだらけだな・・・・・そろそろ潮時なんだろか。つーか、追い風で着陸してくるかね。 まあYSにとっては長大な女満別の滑走路、よゆーのよっちゃんなんだろうが・・・・・仕方が無いのでとりあえず、滑走路を曲がり陽炎の向こうをタキシングする姿を、 ぱちり。あー、離陸も同じ向きかね。厳しいじゃんかよ。どうすんだよ。

 ん、それはそれとして、「JA8761」と見えなかったか? 予定のローテーションなのか、はたまた昨日目撃したJA8772の小トラブルと、 何か関係するのだろうか・・・。

 しかし、暑い・・・・・シャツを脱いだ。少し離れた道路からは、締りの無い身体もすぐそれと判るまい(苦笑)。じりじりじりじり・・・・・あー。 そうだ陽炎の中を進む様を、ビデオに収めようかとハンディカムをゴソゴソ引っ張り出す。んが、肝心のテープが無い! うそ! 宿に置いて来ちまったか!?  しばらく引っ掻き回すも、やっぱり出てこない。あー、こないだ修理に出したというのに、いきなしただの死重かよ・・・ (しかもあとでひょっこりテープは出てきて、二重のトホホ)。そんなこともあったりしながら、そろそろまたエンジンのかかる音が聞こえ、さてと撮影の準備。 吹流しの向こうでユラユラしながら進む様をぱちり。さて、「18だと風向きがこうで風速がこう、36だと風向きがこうで風速がこう、どっちにする?」 「じゃあこっち」みたいなやりとりがあったんだろうが、見ていると今度は着陸と逆向きの向かい風で飛ぶらしい。つまりこっちへ向かってくる。 陽炎の向こうで原形を留めぬグズグズな姿で着陸灯が点き、やがて地面を切るYS。ぶぅぅぅぅぅぅぅぅん・・・・・上昇しつつすぐに右旋回を始める、 その後姿を追う。まさにベルビア日和の(笑)カチカチに真っ青な背景の中を、ぽつん、と小さな白い機体が、そこに留まってゆっくり回転しているように見える。 雲のある辺りへ差し掛かり、やっぱりそれが前へ進んで飛んでいることを示す。そうこうしながらYSは、斜めに空港上空を過ぎって行った。

 離着陸はあと2回しか無いんだが、この配分が難しい。クルマ借りれば思い付きで動き回れるのだろうけれど、費用対効果を計りかねていた。 麦畑ネタにはまだ未練があり、次の993便もここで撮ろうか・・・・・よし。まだ時間は有り余っているのだけれど、 昨日のように鉄オプションに走るのはちと億劫なので、陽射しの下で寝転んだりする。うー。あー・・・・・待てよ、麦ネタ順光着陸って、追い風だよな。 次がどうなるという保証など、何も無いでわないか。午後の光線なら南端側でも撮れないことは無い。金網にへばりつくにも、あっちの方が条件が良かったよな ・・・・・そこまで考えが及んだところで、がばっと起き上がる。

 やっぱあっちだ。

 散らかした荷物を纏めて、シャツを着て、よいこらしょっ・・・イテテテテ、焼けた肌がもうヒリヒリしてきた。少しばかり緯度が高くなったところでやはり、 夏至の前後の陽射しというのは、強烈なのであるな。ともかく、南端まで行くとなるとあまり時間が無い。急げ急げ。ずんずんずんずん・・・空港ターミナルで、 ちょっとトイレと、冷たいものを。うー、イチイチ荷物を降ろしたり背負ったりするのが、辛くなってきた。参ったな。降ろす時はゆっくり上体を前に屈め、 背中にリュックを乗せた状態でそぉーっと肩を抜く。逆に背負う時は、持ち上げたリュックを背中へ当てて、上体を屈め背中に乗せ、そぉーっと腕を通す。 タカダカ1時間や2時間のそこいらで、そんなに火傷をするとわ・・・・・あ、四肢と顔と首筋以外を焼いたことなんて、何年も無かったのでわなかったか?  そりゃマズイわ。霜焼けて指先ヒリヒリで終わった前回だったが、その4ヶ月後、今度は日焼けでヒリヒリである。やはり、北海道をナメてはイカンのであった。

 一息ついたところで再び外へ出る。あー、うー、フル装備で歩く事自体、どうってこた無いのだが、肩が痛いのが辛い。時々リュックを降ろしたくなるも、 あの上げ下ろしの手間と痛みを考えると、そのまま我慢した方がマシなようであった。・・・そろそろ道が滑走路に近付きつつあった頃、バリバリ順光の麦畑が目に入る。 緩やかな傾斜に、他の作物との濃淡のパターン、おお、なんかこれは・・・・・前田真三(馬鹿)。いや、身の程は重々、解ってますがね。 南端でと考えてたネタは453便にあてて、993便はここにするか。どんな塩梅になるのか想像さえ難しかったが、時間的にそろそろ厳しいので、決定。 逆向きに降りてきたら、それでも畑の向こうに見えることを祈るしかない。

 さてさて、いよいよである。今度ばかりは読み通り、36アプローチ。着陸灯点けて降りてくるのが見え、撮る直前一旦建物の陰になってしまうのが不安だったが、 再び姿の見えたところから、パーンしながら追い続ける・・・・・んー、どうか、どうだ、手応え的にちと厳しいか。これは悩めるところである。 昨年夏の丘珠以来、麦をアップにする構図がずぅーっと頭に引っ掛かっていたのだが、今撮った構図というのも、ちと捨て難い。リスクという点では、 こちらの方が少ないような気も・・・・・昨日が昨日なので、どうにも守りに入ってしまう・・・・・よし、折角だ。次のもここで撮ろう。 994便の出発もここから狙ってみるも、向きは同じく36ながら、タキシングではさすがに、滑走路端までは来てくれづ。どうも半端な構図に終わる。

 ここから動かないとなれば、あとはヒマである。農家の倉庫かなにかの陰を借りて、脚立に座って本読んだり、ぼーっとしたり。時々JASやHACの便がやってくるのを、 ぱちり。A300のレインボー色なんぞ、緑の麦畑とピーカンの空と、映える映える。午後に入った光線は徐々にではあるが黄色味を帯びてきて、 453便のやってくる頃が楽しみになってきた。・・・ちびちびiモードで運行情報取って、無線聞いて、そろそろらしい。やがて遠くに着陸灯が見えた。 よしよし36だ。脚立に乗り、ズームの長さを確かめ、軽く素振りして・・・・・落ち着けぇ、落ち着けぇ・・・・・ふと傍らにクルマの止まる気配。 なんだろ、今ちょっと手が放せないんだが・・・・・ぶぅぅぅぅぅぅぅぅんんんんんんん・・・・・ふう、今度はどうか。傍らのクルマが発進する気配に、 ファインダーから目を外しそちらを見やると、走り去るパトカーが見えた。ん? 見るからに不審なヤカラを観察していたのだろーか。ヒコーキ撮ってると知って、 合点したのだろーか。それとも、構図に入ってはいけないと気遣ってくれたのだろーか・・・・・きっとそうなのであろう。構図的には全く干渉しないのだったが、 ハートウォーミングなことではないか。

 さて454便の離陸。日はいよいよ傾いてきて、うまくすればギラリが狙えそうな。滑走路に近い場所へ移動して、36で離陸ならこう、18ならこう、と2面作戦に出る。 煮え切らない撮り方と、言えなくも無いんだが・・・・・と、むむむ、向こうへタキシングして行く。どうやら18のよう。磨き出しのエンジンナセルあたりが、 ギラリと来そうでわないか。向こうでくるりと向きを変え、滑走を始める。ぶぅぅぅぅぅぅぅぅんんんんん・・・・・ギラリ、ちょっとだけ来たかな。 ズームを引くのも忘れて、はみ出してしまった。どーもなーんかやっぱ、乗れてないんである・・・・・まあそれはそれとして、今過ごしている時間を、身体に染み込ませたい。

 やれやれ、と荷物を片付け・・・・・よいこら・・・イテテテテ。あうー。結構ヤバ〜イ感じ。しかし進まないことにはどうにもならん。西女満別駅を目指す。 昨日と同じように列車に乗り込み、網走で降りる。駅前のコンビニで何か無いかと物色、とりあえずシーブリーズを買ってみたが、火照りまくりの肌に、 焼け石に水とはこのことかと。明日までには抑え込んでおきたいところだが・・・・・落ち着いたところで、夜行「オホーツク」にバルブかましたりする。 明日は網走を発つ。網走まで来て、結局駅と宿を往復するだけであった。市街へも行っていない。美味いモン食うでも無し、観光するでもなし、見たのはヒコーキだけ。 仕事でもないのに何故か。馬鹿だからである。あ−。ヘタをすればもう、ここに来ることも無いかも知れぬ・・・・・いいのかね、こんなんで。