2003.9.13 鹿児島へ
 台風14号。出発5日くらい前にその誕生が報じられ、コースを見るとこれが結構際どい。そんなこともあろうかと、 今回離島便の搭乗は見送っていたとはいえ、最悪丁度そこへ行く頃に現地が暴風域という、嫌がらせのような狙い撃ちである。尤も、そこへ辿り着ければ、 の話だが・・・・・欠航、行先地変更、肝心のYSの疎開・・・・・気象予報をカチカチ見ては、起こり得る事態に気を揉んだ数日間。 するとどうであろう、進路はみるみる逸れて行き、彼の地の予報にはとうとう晴れマークさえ現れた。

 要は気迫である。晴れ男の面目躍如。直撃食らった地方は気の毒だったけれど・・・。

 いよいよの、鹿児島。ANKが済んだらJACかね?・・・そうではないんだなこれが。JACの前にANKだったのである。互いに列島の端にいては、 エンゲル係数圧縮に努めようとも、なかなか厳しい。どーしても、順序を付けざるを得ない・・・。鹿児島というと、国鉄最後の日に「謝恩きっぷ」で列島縦断すべく、 夜行で西鹿児島に着きすぐにキックターンしてしまったのが過去唯一の訪問、つまりこれは全く初めてということである。予報では残暑が厳しそうだ。 今度こそは短パンTシャツ、あとは干からびないように気を付けるとしよう。にしても、出かけようとすると何故か色々立て込んで来て、今回も徹夜。へろへろ。

 バースデー割引。昨年はこれで丘珠へ行った。鹿児島行きは、JASの最も早い便で0800発。今回は余裕の出立。んが、 羽田はというと丁度ラッシュの頃合だったりして、これが悠長に構えてもいられない。今回ビデオは外すも、EOSのボディが大小4台、 6、7本のレンズに30本程のフィルム、ちょい撮りにIXYデジタル、味を求めてハーフ判のPenEES、忘れちゃいけない自分撮りワイワイワイド、 生録セットに着替えにエトセトラ、そしてヘタすると出番無しで終わりかねない三脚と、こちらは殆ど常用の脚立・・・・・まあいつもの如くで、 重量的にも碓氷峠の頃から慣れたそれではある。あとは過日女満別でのような失敗さえ、犯さなければ・・・・・あれは参った。

 前途は問題無いのに「機材の都合がつかず云々・・・」というオチもなく、無事に発てそうである。さてバースデー割引では身分証が要る。 なのでチケットレスでありながら自動チェックイン機が使えないというもどかしさ。ウダウダと行列に加わり、 やっとチケットを手にしてから、今度は機内持ち込み用のいくつかを引っ張り出して、あとの荷物を預ける・・・・・さて、ここからである。 手荷物検査。既に反対側の壁まで達し折れ曲がった列に加わる。うー。しかも自分の列が妙に遅いと思ったら、入口で2本が合流してやがった。 ちゃんと整理しろっての。かなり余裕を見たつもりだったが、この分では搭乗口まで辿り着ける頃には、結構ギリギリかも知れぬ。 なんとかならんのかなー、これ。

 どうやら少しの余裕を残して搭乗口へ辿り着く。JAS571便、レインボー7がこちらを向いている。席は17J、ルートを想像しながら、 富士山を見下ろす期待を抱きつつ、この右舷窓側を指定した次第。先月見上げる側にいたことだし。さて座席に着いて出発を待つも、 これがなかなか出て行かない。朝のラッシュにしても長過ぎる、あーにやってんだと訝しんでいると、機内放送、トーイングカー故障の由。 あららら。代わりが来るというがこれがなかなか空かなかったのか、結局45分くらいウダウダしてようやく、スポットを離れた。 クルマ1台回すのにそんなにかかるか。なんか幸先悪い。

 ともあれ、エンジンに火が入り、タキシング開始。16Lへと向かう・・・・・と。新整備場のハンガーの前に、トリトンブルーのダックテールが見え。 やややっ、あれはYSではないか。JA8772なのかJA8761なのか、まだ日本にいたか。もう見ることも無いと思っていたが・・・・・ 遠いので持ち込んだカメラではとてもじゃないが、届かない。名残惜しむ気持ちをよそに機は進み始め、トリトンブルーもハンガーの陰に隠れてしまう。 湾岸線を渡り、16Lへと進んで行き、そして離陸。舞い上がる機の心地好い加速感の中、新整備場を目で追い続ける。アングルが変わっていき、 窓のアクリル板に顔を押し付けるようにして後方を見ていると・・・・・おっ、見えた。やがてそれは、小さくなって行くコンクリートの島の中で、 点となりそして、消えた・・・・・今度こそ本当の、告別かもしれない。

 機は館山を経て海へ出るかと思いきや、房総半島へ差し掛かるなり右へと旋回、東京湾を渡り始めた。なんだか見慣れた地紋。川崎駅周辺が見える。 遠くに新鶴見操車場跡、今は浜川崎付近上空か。そこへ機内放送、内陸をまずは名古屋へ向かうそうである。ああー、富士山逆サイじゃん。終了である。 福岡へ行くならともかく、鹿児島なら太平洋側を行くと思ったのだが、あっさり外れ。このルートなら、以前福岡へ向かう途中に犬山橋を見たことがある(笑)。 それくらいしか楽しみが無いなー、とか思っていると、雲が出てきた。もういいや。その後淡路島が見え、岩国の辺りから進路を南へ振り、九州の海岸が見えていたが、 やがてぐいっと右旋回をし、まだまだ高度があると思っていたら急に台地が現れ、着地。気になるエプロンは逆サイ、また裏目に出たか。

 天候は一応晴れ。荷物を受け取り、早速送迎デッキ。ここも¥50。広々として、しかも柵が胸の高さくらい。スバラシイ!  さっきまでいたどこぞの空港とは大違いである。思えば女満別もかなり良かったけれど、そのまま規模だけ大きくなったよう。で、問題はYS達の憩う一角なのだが ・・・・・あー、手前にボーディング・ブリッジがあって、写真的にはちと邪魔。ズラズラ並んでるところが最大の楽しみだっただけに、これは残念・・・。 571便が遅れたおかげで、2便ほど着陸を狙えたのが流れてしまったが、その後3便続け様に発つのをぱちり。次から次という、この・・・・・ 初めて丘珠を訪れて以来の、ウハウハ。そして最早遠い日々に、しみじみ。ああ、もっと早く来るべきであった・・・・・丘珠でも思ったことだけれど。 よく聞く「聖地」などという表現は個人的に虫唾が走る(すまぬ)のだが、はさておきまさしく、YSの賑わう地。YS銀座、とでも呼んでおこ、とりあえづ。 かつては、こんな空港が方々にあったのであろう・・・。にしても、SAABやQ400も合わせると、これだけプロペラ旅客機で賑わう空港というのも、 今や国内で他にあるまい。もっと小さいのも飛べばなー、などとつい欲も出る。そういえばSAAB、コウノトリ但馬空港のステッカーが。なんか押してる風。

 ダイヤ的に、午前の部が終わってしまい、しばらく間があるので、移動。今日はまずロケハンせにゃならぬ。 北西くらいの方に見える山から俯瞰気味にどうだろとか気になったが、今回は足が無いのでまたにして、ターミナルを出て、南側へ進む。 まずはエプロンを外から覗こうという算段するも、建物がきっちりガードしてて「ズラズラ〜」はどうにも無理っぽい。 こりゃ搭乗する際に手際良くパチパチやるしかなさげ・・・。さらに進むとJACのハンガー。ナルホド催しはここなのか、と色々想像力逞しくしつつ、 今年は来週らしいがさすがにまた来るわけにもいかず、来年こそはと密かに誓う。4月に開いてた頃からの懸案なんだが・・・。

 アングルを物色しつつ、国道沿いに南下。デニーズかと思いきや「ジョイフル」って何だよとかありつつ、角を曲がってトンネル、滑走路を潜る。 逆サイへと出ると、茶畑があったりしてなかなかの風情。今日は既に逆光気味、明日の朝はここにしようか。滑走路の南端へ出ようと、曲がり角まで進んだところで、 小さな看板。「滑走路コンクリート破片」とある。傍らには、たしかにコンクリートの破片が。再び看板に目を戻せば「海軍航空隊第二国分特攻基地(当地)」と。 先程ターミナルビル前で、バスの行先の知覧、鹿屋といった地名が目に止まったのを思い出す。空港が移転して来る前のここのことは知らなかったけれど、 女満別に続いて、空港という場所の因縁に、想う。

 ヘビなんぞいないだろうね、とビビリつつ時折金網越しに狙いながら、南端へ回り込む。先客がいて雑談。手元を見ればVR玉、 ニコン対キヤノン手ブレ補正対決(笑)。なんでも名古屋の人で大阪から夜行バスでやって来たそうで、今日か明日にはまたすぐ帰るとのこと。なかなかやる。 そこへスカイマーク機がアプローチ、「ウチの方じゃ珍しいんですよね」・・・あ、ナルホド。話すうち元々鉄だと判り、互いに笑う。 エプロンにズラズラ〜、は狙えるのか気になっていたのが、やはり逆サイから遠目にやるしかないらしい。横に広がっちまって、まとまらないんじゃなかろか・・・。 さて、つい先月に千歳や女満別で燃えてた人々がこの連休に鹿児島へ流れてくるかと思いきや、これが意外といない。先方でも、撮影する人を見たのは私で最初だという。 YSしか目が行ってない身からすれば、季節モノなど織り交ぜて考えるに、2006年のリミットまであと僅かじゃないかと焦りまくりモードなのだが、 航空界全体で捉えると、まだまだ他で忙しいのカモ。思えば碓氷峠の鉄道が廃止へ至るまでも、そんな調子なのであった。

 そこそこ撮ったところで彼とは別れ、滑走路東側を北上。先程の彼の話ではあまり面白くない風だったが、予め地形図でイメージを膨らませておいて、 来た以上は自分の目で確認するのが身上。どんな発見があるか分からないからである。歩いて行くとナルホド、金網を抜いて(金網の上から)しまえば、 フツーには撮れる。モンダイは、滑走路長に対しYSの離陸距離が短いこと。正面からでは遠過ぎるのは無論のこと、 後端まで下がるとは限らずそれも出発まで判らないので、高過ぎたり低過ぎたり、どんなアングルになるか予測不可であること。 これはもう、とにかくチャンスを設けて対処するしかなさげ。要は数撃ちゃ当たる式ってことだが。

 大体様子が窺えたところで、トンネルを潜って反対側へ。その出た所の真上即ちポータル上までよじ登ると、金網越しで撮れそう。 そろそろ西日順光を考えたかったのだが、とりあえずここにするか。折良く草刈されたばかりというのが幸運だったとはいえ、にしてもこの切通しの法面が急で、 モロに車道へ落ちたら結構ヤバ〜い感じ。今回トレッキングシューズではないので少々覚束づ。そんなところを全装備運び上げるこたないなと、脚立は仕方無いとして、 三脚だけ歩道に立て掛けてくる。あまり自由が利かず思うように振れないのが厳しかったが、それより西の空には薄雲、ギラリが狙える感じではなくなってきた ・・・・・ちうか、ANK機と違ってエンジンナセルが金属色でなく白塗装であったことを、今更思い出したりしているのだが。

 そんなわけで間が空いたところで、ビビリながらこの場所を後にし、いい加減へろへろなのでとにかく空港ターミナルへ一旦戻り、塩吹いてザラザラの腕を洗い、 水分とアミノ酸(笑)の補給。ついでにアイスクリームでとにかく体を冷ます。ふう、と一息ついたところで、来た道を戻り、 さっきの法面を横目にトンネル潜って逆サイ。西の空を見れば、太陽が薄雲に透けて、シルエットで抜けばそこそこいけそうな感じ。夕焼け、 というにはまだまだ早かったが、ベルビアの発色に期待してみよう。・・・・・やがて離陸滑走を始めたYS。ぶぅぅぅぅぅぅんんんんんん・・・・・ どうかな、カシャカシャカシャ! ともかく、撮るだけは撮った。あとは出来上がりを見るまでのお楽しみ。本当に、見るまでで果てる場合もあるんだが・・・。

 色の出方は分からんが、いよいよ夕焼けタ〜イム。薄雲があるくらいが意外と焼けたりするので、少々期待。予め海保より情報は得ていたのだが、今回ダイヤ的には、 丁度日没の時分と、その20分くらい後に着陸がある。そのようなわけで、いそいそとまた、南端へ。無線を聞きながら歩いていると、遠くに着陸灯が。早着かと焦っていると、 B−737が着陸復行。無線交信から機種上げの警告音が聞こえた。ををを。そんなことがありつつ現着。空を見上げつつ、さてどう撮ったものかと思案していると、 地元ナンバーのクルマがやって来て、声をかけられ。色々リアルなネタを振られるも、そもそもヒコーキに詳しいわけじゃなし、会話にバランス取れず申し訳なく思う。 大口径超望遠こそ無いものの、重装備で来てりゃそりゃ、それなりのそのスジと映るわな・・・。明日案内しましょうかと言って下さった。しかし我ながら、 こういう撮影ではその場の閃きで動く方である。浮かんだものに結構固執する方でもある。その気紛れさ我侭さ故の単独行だったりもするのだけれど、 さすがに、そんなのの足代わりにしちゃあ、悪い(苦笑)。

 己の腕の程からするとかなりギリギリの状況でともかく、グラデーションや、薄ら赤く燃え残る雲などとからめてみたり。思ったより高度が低く、 木々を避けたらYSがフレームの下辺に這い付くようになってしまったりが辛いが、まあ、なんとか気分だけでも。次の最終便の頃には、もう真っ暗。 そこは生録タ〜イム。ライトを取り出し、ターミナルの丁度逆サイ辺りへ移動する。気配に見上げれば頭上高く、夜空に薄青白く飛行機雲が伸びて行く。 美しい。バルバー的に写欲をソソられるも、今日はそんな余裕など無い。真上でくい、と曲がって行くのは、あの円墳のような電波標識のためであろう。

 夜ともなれば空港の他の機や、空港周辺の道路等々、人の営みの音が最小限に抑えられ好条件のハズなのだが、季節はまだ夏、虫の音が結構騒々しい。 鳴く虫にも色々いるわけだけれど、それを選ぶことなど出来ず、ともかくマイクを据え。やがて最終便が到着・・・・・んー、場所が悪かったか、 着地前の音も、ピッチを0にして、ぶわぁぁぁぁぁぁ・・・と音が変わるところも、あんまし。位置が悪かったのかな・・・・・この先日脚は短くなるばかり、 まだチャンスはあるか・・・ってなるべく宿題は背負わないようにしたいのだが。

 暗い中荷物をまとめ、南側のトンネルからトボトボと、ターミナルへ。いつしか東の空には月が。満月を少し過ぎた頃か。エプロンがちらと見える辺りまで来ると、 丁度YSの顔と、その上に月というお誂え向きな取り合わせ! 夜ともなると金網もそう気にはならず。慌てて三脚を立ててバルブかますも、少し月が高過ぎたか。 もう15分も早く来ていればと悔やんでも始まらづ。海保データから日没は押さえていたけれど、月はノーマークであった。不覚。段階露光するうちに、 どんどん月が上ってしまう・・・・・ああ、これもリトライか。明日も晴れると良いが・・・・・って月の出、1時間くらいずれるんでないかい??

 再び送迎デッキへ。やや無理ながら、YS達を遠目にバルブ。そういえば何時で追い出されるのだろう、とガードマンのおじさんに問うてみると、 なんと最終便到着まで! これまた、どこぞの空港とは大違いでわないか。どこかと無線で連絡を取っているようで、今し方の最終便到着を確認している様子。 朝は何時から入れるのかと訊ねれば、これまた7時前には入れると。スバラシイ! 杓子定規というか殆ど思考停止のように駄目駄目連発がある一方で、 鹿児島空港のこうした、出来るだけここで過ごしてもらおうという姿勢が、沁みる。よく聞け羽田、よく聞け稚内。

 そんな後味の良さに浸りつつ、最終近い市内行きのバスに乗り込む。例によって今回も、宿に泊まるだけの滞在となりそうである・・・・・ 片道¥1200ナリ。空港のそばに泊まれば良さそうなものだが、周囲に何も無かったら困るので(笑)、またちょっとは鉄もしたかったので、 今度ばかりは市内。まずはロケハンと割り切るつもりだったが、手応え的にはなかなか。写真の出来はまた、別問題だけれど・・・・・バスは高速に乗り、 どこだか分からない夜道を進む。手にしていた本を、何ページも読まないうちに取り落とす。あー、昨夜眠ってなかったんだよ。