核酸の有用性に関する検討('03/08発行)

 はじめに

機能性食品素材としての核酸は、1980年代以降様々な基礎および臨床研究によりその有用性が認知されるようになってきている。一般に健康食品に添加されている核酸の原料は、天然資源の有効利用という理由から、ビールエ場から大量にされるビール酵母や家畜の精巣等が一般的であった。また、魚の消費量の多い日本では、特にサケ類の精巣(白子)を原料にした核蛋白粉末(核酸とプロタミンを含有)も比較的安価な核酸素材の原料となっている。ところが、最近(1)ビール酵母由来核酸の主成分がリボ核酸(RNA)に限られる事、(2)家畜由来核酸ではBSE(狂牛病)感染等のリスクが拭いきれない事、(3)魚類精巣由来の核蛋白が、DNA核酸のみでなく、アルギニンが非常に豊富な機能性蛋白(プロタミン)も同時に含有する事、などから魚類の核蛋白に注目が集まってきている。そこで、サケ精巣を原料にした核蛋白素材の健康医学的・予防医学的な有用性に関して具体的なデータを基に考えてみましょう。

 

経□核酸食の一般的な栄養学的意義

核酸やその誘導体は、糖質、脂質、蛋白質と並んで個体の生命維特や種の保存に非常に重要な機能を担っています。中でも、遺伝子惰報の担い手としてのDNAやRNAの高分子核酸が有名であるが、アデノシン、グアノシン、イノシン等やAMP,GMP等の低分子核酸も、神経伝達物質や細胞内情報伝達物質として重要な役割を担っています。そして、旧来の栄養学では、日常生活に必要な量の核酸は、主に肝臓などでアミノ酸から容易に合成できる(デノボ合成)として、食物から摂った核酸や体内で使用され分解された産物を回収して必要な核酸を合成する(サルベージ合成)はそれほど重要でないとされたきました。しかしながら、(1)長期間食べ物が摂れず、点滴の栄養に頼っている場合に腸管機能の低形成が起こり、これが核酸の補充により軽減される事、(2)核酸を含まない粉ミルク栄養乳幼児の腸内細菌叢が母乳栄養児と異なり、これが乳幼児の下痢症や食事アレルギーの原因となっている事、(3)無核酸食のマウスはアレルギー体質となるが、核酸の経口摂取によりこれが改善する事等が注目されている。

特に、生体内での核酸需要が急増する発育期や疾病、外科的治療の回復期等に核酸のデノボ合成が追いつかず、経口や経管的に補充される核酸が生存力を高める大きなメリットを発揮する事は非常に合理的であるといえる。

 

サケ由来核酸素材の特徴

農林水産省の統計によると、2001年度のサケ類の漁獲量は約21万トンに上る。中でも、雌サケの卵巣(通称、イクラ)は高価な食材として流通しているのに関わらず、雄サケの精巣(通称、白子)は、(1)加工しにくい、(2)腐敗しやすい、などの理由から

食材として利用されることが少なく、年間で約5千トンが主に農作物肥料や家畜、魚類の飼料として使われている。しかしながら、このサケの精巣を原料として、比較的簡単な工程で高分子の核蛋白粉末が入手できる((図1)。この核蛋白粉末には、38%のDNAと、56%のプロタミンと呼ばれる機能性蛋白が含まれる。プロタミン蛋白は、(1)生体内に

存在する蛋白の中で最もアルギニン組成の多い(30−70%)塩基性蛋白であり、(2)そのアルギニン組成割合が精巣(精子)の成熱段階で大きく変動し・体外射精前が最も高くなる、さらに魚類は体外受精が一般的である事から、自身の遺伝情報(精子)を非常にリスクの高い体外環境に放出しなければならず、精子と共存するプロタミンは遺伝情報を外的因子から保護するという非常に重要な役割を担っている。さらに、プロタミンの主成分であるアルギニンは、(1)免疫系賦活作用や(2)非常に重要な生体内生理活性物質である一酸化窒素(NO)の供給源となる事も知られており、プロタミンの摂取は同時にアルギニンを摂取する事にもなる。


遺伝子損傷予防効果

われわれは、最近、遺伝子の素材であるグアノシン(dG)が活性酸素により酸化されて8ヒドロキシデオキシン(8OHdG)が誘導される現象を利用した、新しい簡易生物毒性評価法を提案中である。このdG→8OHdG化誘導現象が起こると、本来シトシンと塩基対を作るはずのdGが8OHdGになる事によりアデニンと塩基対を作ってしまう。

つまり、G:C→T:Aの遺伝子情報の書き換え現象が起こる。活性酸素によるこの遺伝情報の書き換えは、一定の頻度で生物に普遍的に起っている現象で、生物進化の原動力であるばかりでなく、過剰に起これば、発ガン、突然変異、催奇形、各種疾患の発病、アレルギー・炎症反応、老化現象、細胞死、等のいずれにも直結する、生命機能の根元に関わる現象である(図2)。

前述したように、プロタミンは遺伝情報の書き換えを阻止する役割を担っており、実際図3に示したように、わずか0.1%の核蛋白の添加により、紫外線照射や酸化剤によって誘導されるdG→8OHdG酸化誘導現象が劇的に予防できることがわかった。

この現象は、DNA核酸、RNA核酸、さらにはプロタミンの単独添加では確認できなかった。つまり、一定の構造を持った核蛋白のみがこの強カな遺伝子損傷予防効果を備えていると推測できる。本評価法は、もちろん核酸以外の機能性食晶やその素材の有効性や安全性も非常に簡便に且つ合理的に評価する事ができる。さらに、この指標は様々な環境リスク評価や人工および天然化学物質の遺伝子変異原性評価などにも利用できる。

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