アメリカ 前立腺がん治療の最前線

パウエル米国務長官(66)は、クリスマス休暇を利用して前立腺がんの手術を受け、12月30日に半月ぶりに国務省に出勤し、復帰早々から活発な外交活動を再開した。男性の6人に1人が前立腺がんにかかる米国では、社会の第1線で働く中高年が治療のために、一時休業し、戦線復帰する事は日常的な光景になった。

次期大統領選の民主党候補指名を争うジョン・ケリーさん(60)も昨冬2週間の治療休養後、全米遊説を開始している。また先月、前立腺治療を受けた俳優ロバート・デニーロさん(60)は早くも次の映画を予定している。「高齢者のがん」として治療から見放されがちだったかつての姿はみじんもない。患者の急増を背景に、20年前から治療法や早期診断法が次々と開発され、5年生存率は67%から97%(日本は半分の53%!)に上昇し、日本で間題になっている手術に伴う尿失禁や下血はもちろん、性機能障害などの後遺症も激減した。今や「治るがん」の仲間入りをしただけではなく、患者が治療法を選べる時代になった。

年間2500人もの前立腺がん患者が訪れるニューヨークのスローンケタリング記念がんセンターは、各専門医が可能な複数の治療法を個別に説明する。電子会社を退職したラリー・スカラさん(67)が重視したのは「性機能」。再婚を考えていたからだ。回復率が最も高いと言われ、ジュリアーニ前ニューヨーク市長(59)も受けた小線源療法を迷わず選択した。小さ放射線源を外来で埋め込んで意中の人と結婚「みんなにこの治療を勧めているよ」とほほ笑んだ。

「医師の腕」を決め手に腹腔鏡下手術を選んだのはジャズ音楽家マーク・エルフさん(54)。直腸や膀胱に囲まれている前立腺の治療は難しく、医師により成績のばらつきが大きい。中でも、開腹せずに済む腹腔鏡下手術は難度が高い。エルフさんは、その先進地フランスから専門医がスカウトされたことを知り、手術を受けた。「翌日には退院し、2週間で性機能も復活した」と笑顔を見せた。性機能にかかわる神経を切除する患者には、足の神経の一部を使う神経移植も始まっている。コンピュータで外部から放射線を当てる強度変調放射線治療(IMRT)の効果は、いかに患部だけに強い放射線を集めるかにかかる。マイケル・ザレスキー医師は「うちでほ世界一強い線量が当てられる」と胸を張る。一方、歌手のハリー・ベラフォンテさん(76)や元大統領候補のボブ・ドールさん(80)らが手術後に性機能を失った自らの体験を公表し、社会の理解も深まった。

日本でもこれらの治療は、広まりつつあるが、患者が自由に選べるまでにはなっていない。米国の患者は、治療法だけでなく治療成績を参考に医師をも指名する。「患者がまだ少ない日本の態勢は十年遅れている」と、同センターのピーター・スカルディーノ泌尿器科部長は言う。

より確実に、より快適に--米国の前立腺がん治療革命は進行中だ。10万人当たりの死亡率は1992年の39.1から2002年には29.0と10年足らずで約10%も減少した。90年代初頭から、がん死亡率が劇的に低下している米国の最新がん医療の最前線を今後シリーズでお知らせします。

【日本での前立腺がん】

発生率、死亡率とも20年前に比べほぼ倍増している。死者数は7645人(2001年)で、男性がんの第7位。日本では男性ホルモンの働きを抑えるホルモン療法が広く行なわれ、手術前にがんを縮小させる目的でのホルモン治療の併用もある。治療には手術や通常の放射線に加え、早期では小線源療法が昨年認可されている。


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