痛み抑制、治療の柱に

宇宙センタ−のあるテキサス州ヒューストンは世界最大の医療タウンでも知られている。その中心に位置するテキサス大学MDアンダーソンがんセンターは、全米一の治療設備との評価を受けています。年間6万人の患者を12、000人の職員と1、400人のボランティアが支えています。11階病棟の午前九時半のチーム回診を前に、診察にも立ち会う臨床薬剤師のヘソー・シャーさんはパソコンを見ています。画面に映る凸凹の激しい折れ線グラフは、患者の痛みの状態を示しています。看護師が日に六回、四時間ごとにベッド脇で聞き取った痛みの度合いが、痛みのない「0」から最も強い「10」までの11段階で表示されています。シャーさんは担当患者20人の痛みのデータを把握した上で、医師らとの回診で鎮痛剤などの処方を綿密に決めていくのです。「痛みを抑えれば食欲や睡眠が安定し、がんと闘う気持ちを高められます」と話します。

米国の医療現場では疾患の治療とともに痛みの抑制が重視されてきました。「パリアティブケア(緩和ケア)」と呼ばれる、心身の痛みに対処する医療です。がん治療においても診断直後から痛みの緩和や心理面のケアを始めます。日本では「緩和ケア」というと、終末期医療の色彩が強いのです(*1)が、米国では近年、治療の初期にまで広がってきています。同センターでは、がんの専門看護師や臨床薬剤師を交えた腫瘍内科チームなどが麻酔科と連携し、さらに心理学の専門家らを加えたチームを作り、患者だけでなく家族の精神的苦痛にも対応しています。針治療や指圧などの代替医療も取り入れています。乳がんの治療中に神経性の激痛に襲われた、ビバリー・シェーファーさん(54)は「素早い処置のお陰で、すぐに日常生活に復帰できたことが一番ありがたかった」と振り返ります。

がんによる痛みは多岐に渡り、患者の七割が痛みの治療が必要と言われています。このような疼痛対策が一般化する以前の米国の調査では痛みに苦しむがん患者の七割が「自殺を考えたことがある」と答えています。

一方日本での痛み対策は遅れています。世界保健機構(WHO)が「がん疼痛治療法」をまとめたのは18年前です。鎮痛剤の使用を段階的に進めれば、痛みの、8〜9割が抑えられますが、日本で適切な疼痛治療を受けられるがん患者は、終末期でも6割弱にとどまっています。強いがん疼痛を治療する医療用麻薬も、6種類が選択できる米国に対し、日本では3種類、それも張り薬の「フェンタニル」は一昨年、腎機能が低下した人にも使える錠剤「オキシコドン」は昨年ようやく認可されたばかりです。2001年まではモルヒネしか使えず、モルヒネの年間消費量(同年)も、人口100万人当たり11kgと米国の三分の一に過ぎません。(参考までに、疼痛治療の発展に寄与することを目的として設立された「Japan Partners Against Pain: JPAP」のホームページアドレスはこちらです。

「最新治療でいくら生存期間が延びても、痛みとの闘いまでが延びては意味がない。治療中も日常生活に近づけるようにするのが医療の役目」と米国で「パリアティブケア」を学んだ北里大学麻酔科の的場医師は強調しています。

【日本の緩和ケア体制】

厚生労働省は2002年、ホスピス以外のがん患者とエイズ患者に対する緩和ケアチームの医療を診療報酬に加算する制度を新設した。しかし加算を受ける医療機関は東京都4ヶ所、大阪府3ヶ所などまだ少なく、チームの要件に薬剤師が含まれないなど課題も多いようです。

(*1)インターネットで調べてみても、日本ではターミナルケアとのセットで語られることが殆どであることがわかります。

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