生還者の輪 広がる

「今、世界はテロと闘っている。しかし私は別のテロについて語りたい。がんという名のテロだ。」と自転車競技のランス・アームストロングさん(32)は、イラク元大領サダム・フセイン拘束のニュースが駆け巡った直後に、ワシントンでがん対策の重要性に熱弁を振るった。昨年、世界最大の自転車ロードレース、ツール・ド・フランス五連覇(2005年も優勝し、6連覇達成の快挙、2005/08追加記事)を果たしたランスさんは英雄的な存在だ。それは、たぐいまれな才能のためだけではなく、がんからの奇跡の復活、そして「がんサバイバー(生還者)」としての精力的な社会貢献にあります。体に激痛が走り、自転車を降りることを余儀なくされたのは八年前の秋だった。世界ロードレース選手権に優勝した「若き星」に下った診断は進行性の精巣がん、早期発見すれば九割が治るとされるが、すてに肺と脳にも転移が広がっていた。脳と精巣の手術、そして強力な抗がん剤治療で髪は抜け落ち、ベッドから起きあがることもできなかった。しかし2ヶ月後、主治医から朗報がもたらされた。「治療効果が出ている。あなたは生き残るだろう。」主治医は静かに続けた「これからはがんからの生還者として人々を勇気づけることできる。」

日進月歩の治療法の開発で、がん完治の目安とされる5年生存率は大人で50年前の35%から65%に上昇、小児がんでは20%から78%まで伸びています。米国民の30人に1人にあたる約900万人が、がんを体験しており、内14%は20年以上の長期生存者です。これを受けて米国立がん研究所に、がん生存者対策局が新設されました。同局が設置されたのには理由があります。長期生存者が増えるにつれ、治療後何年も経過してから抗がん剤や放射線治療による新たながんや心臓病、認識障害、不妊、慢性疲労、痛みなど様々な後遺症が出ることがあり、対策が遅れると命取りになることもわかってきました。また再発の影におびえる不安、うつ、ストレスや雇用や保険面での差別も間題化しています。同局の設置後、心臓障害予防の新薬や認識障害を改善する訓練、健康を維持する最適な運動方法など、幅広い研究が飛躍的に進んでいます。心理学や疫学など多彩な専門家を抱える同局の今年度の予算は約2100万ドル(22億5000万円)です。

成果はガイドブックにまとめられ全米に無料配布ざれています。ジュリア・ローランド局長は「新しい事実がわかり次第、社会に還元していく」と意気込んでいます。

アームストロングさんは退院後、故郷のテキサス州オースチンに非営利財団Lance Armstrong Foundationを創設し、抜群の知名度をバックに寄付を募り、がん生還者を支える活動の助成や、患者の視点に立った研究に420万ドル(約4.5億円)も提供している。皮膚がんなど3度のがんの体験者である事務局のダグラス・ウルマンさん(26)は「海外助成もしており、もっと多くの生還者たちと連携したい」と話しています。

世界中にがんサバイバーは2240万人いると見られており、治療法の進歩に伴って増加の一途です。がんは不治の病からコントロール可能な慢性病になりつつあります。

「がんと共に生きることを考え始めよう」と訴えるアームストロングさんの言葉は日本のがん生還者に向けたメッセージでもあります。

(注)アームストロングさんはドーピング違反で2012年に全てのタイトル剥奪と自転車競技からの永久追放処分を受けました。

【日本のがんサバイバー】

現在約300万人おり、2015年には500万人を超すとみられています。山口建・静岡がんセンター総長を班長とする「がんの社会学に関する厚生労働省研究班」が1999年度からスタートしています。約8000人のがんサバイバーへのアンケートを基に、再発への不安など患者の心の問題や対策を今春にもまとめる予定です。

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